友人との再会と誘い 02
中央貿易都市セントナーレに到着した四季崎は、活気あふれる港と多様な人々の賑わいに包まれながら、三年ぶりにギルド本部を訪れる。
かつて「大還輪廻の儀」で起きた騒動と、その後の苦い記憶が胸をよぎるが、感傷を振り払い依頼の完了報告と武器の受け取り、宿泊手続きを進める。
受付嬢イリーネとの和やかなやり取りで心が和らぐ一方、手続きの最中、かつての仕事仲間・銀鏡神楽と偶然再会。
思いがけない再会に戸惑いつつも、四季崎は新たな出会いと出来事への予感を胸に、再び動き出す。過去と現在が交錯するなか、彼の新たな物語が静かに幕を開ける。
薄暗い二階の廊下は個室専用らしく、古びた木の扉に番号が振られた部屋が並ぶ。そんな中を進んでいくと、別の個室には既に人がいるのか、何かぼそぼそと聞き取れない話声が聞こえてきた。その一番奥の『三番』の部屋に銀鏡は慣れた様子で入った。
室内も簡素で、小さな使い古された木製のテーブルと背もたれのない丸椅子二脚があるだけだった。壁は薄汚れていたが、扉よりも分厚いのか隣の部屋の声が全く聞こえず、シーンとした静寂に包まれていた。
銀鏡は左の椅子に無造作に腰を下ろし、四季崎はため息をついて向かいに座った。ほぼ同時に寡黙そうな若い店員が麦酒二つを運び、「あとで料理をお持ちします」と言って去った。
銀鏡は左の椅子に無造作に腰を下ろし、四季崎はため息をついて向かいに座った。ほぼ同時に寡黙そうな若い店員が麦酒二つを運び、「あとで料理をお持ちします」と言って去った。
「で、神楽。他の仲間に聞かれたくない、よほど重要な話があるのか?じゃないとわざわざこんな店を選んだんだろ?」
銀鏡はシューと口笛を吹きながら、感心はしたものの、「こんな店は余計だ」と笑っていた。
「……まあな。話が早いのは助かるぜ」
銀鏡は飄々とした雰囲気を消し、手に持ったジョッキを机に置くと声を小さくし真剣な表情で話し始めた。
「単刀直入に言う。実はお前に依頼を頼みたい」
「……依頼?俺にか?」
四季崎は眉を寄せて訝しんだ。
「そうだ。お前、『成人の儀』に向かうガキを連れてきただろ?」
「今日の巡航船の事か?なんでお前が知ってるんだ?」
四季崎は不思議そうに尋ねると、「まーあれだ」と答える気はなさそうだった。
「それでその任務の続きを俺たちと一緒にやってみないか?って依頼だ。どうだ?」
「……どうだって。話が見えない。もっと具体的に言え」
銀鏡はスマンスマンと軽く謝った。
「正確には、カルマティアで行われる『成人の儀』そのものの護衛依頼だ」
四季崎は意外な依頼に大きく目を見開いた。
「なっ……!?『成人の儀』の護衛だと?聖騎士団が担当するはずの任務だ!特殊性があり一般には非公開のはずだ!」
急に四季崎が大声を出したものだから、銀鏡は慌てて「しーっ!声が大きい!」と指を口に当ててたしなめ、周囲を警戒しながら続けた。
「そうだ。だからここで内密に話してる。実は参加予定だった護衛者の一人が昨日急遽離脱し、代わりを探している。急な話でな。あいつの実力と釣り合い、信頼できる奴となるとお前しか思い付かなかった」
「はぁ……そんな重要な任務に本当に大丈夫か?お前、俺が『異端者』だと知ってるだろ?」
自分を蔑んでいるようでいい気持ちはしなかったが、ここだけは確認しないわけにはいかなかった。
「ああ、そこは問題ない。俺たちの一角隊長は見かけによらず寛容で理解ある人だ。お前の事情も俺から話して承諾済みだ。護衛参加は可能だ。あとはお前の意思次第だ」
「……なるほどな。ちなみに、その極秘任務の報酬は?」
「十万フィル」
(十万フィルか…船の修理費を考えると喉から手が出るほど欲しいが…俺が参加して神楽や他のメンバーに迷惑がかかるのでは?)
四季崎が腕を組み難しい顔をしていると、控えめなノックの後、先ほどと同じ寡黙な店員が大きな盆に乗せた料理を持って入ってきた。
銀鏡が合図し、四季崎が礼を言うと、料理を手際よく並べた。
料理は見た目は無骨だが食欲をそそる逸品だった。香ばしいパンに彩り豊かな野菜、じっくり調理された厚い肉が挟まれ、スパイシーで甘辛い濃厚なタレが絡む。湯気と共に芳醇な香りが漂った。
銀鏡は待ってましたとばかりに大口で食べ始めた。
(神楽も問題ないと言ってるし、隊長の承諾もある。報酬も魅力的だ。何より神楽が俺を必要としている。大丈夫…だろう。いや、やるしかないか)
四季崎は覚悟を決め、「……ああ、分かった。その依頼、引き受ける」と静かに答えた。
銀鏡は「よし!」と膝を叩き、勢いよく立ち上がり、口いっぱいに料理を詰め込み麦酒で流し込んだ。
「ははっ!そう言ってくれると思ったぜ、相棒!恩に着る!詳しい話はまた後でな。すぐ一角隊長に報告してくる。じゃあな!」
言い残し嵐のように個室を出ていく銀鏡に、四季崎は呆れつつ「おい!詳細はどうなってるんだ!?」と叫んだが、足音は遠ざかるだけだった。
一人残された四季崎は呆れながらも可笑しさを感じ、料理をつかみ香りを楽しみ一口かぶりついた。口の中に香ばしいパンの香り、肉の旨味、瑞々しい野菜、甘美なタレが広がり、「うまい……」と漏らした。銀鏡のおすすめだけあって味は素晴らしかった。
四季崎は食事を楽しみつつ革表紙の本を取り出し静かな個室で読み始めた。至福の時間だ。
最後の一切れを頬張り、本を腰のポーチに収めると階段を下りた。厨房からは鉄板の焦げる音と共に、店主が肉を豪快に裁断する鈍い響きが伝わる。
「すまない、お代はいくらだ?」
四季崎が声をかけたが、店主はちらりとも見ず、包丁は止まらない。少しの間、脂が炎に跳ねる音だけが響き渡ると、調理がひと段落したのか、こちらを見た。
「ああ?銀鏡から全額もらってる」
ぶっきらぼうに答えると、次の料理に取り掛かろうとしていた。
(……なに?あいつ、あんなこと言ってたくせに、ちゃんと払ってくれたのか。まあ、あいつらしいが。感心している場合じゃない。依頼の詳細が重要だ)
四季崎は銀鏡の粋な計らいに少し喜び、「ご馳走様」と言い店を出ようとした。しかし、亭主は手を止めたまま思い出したように呼び止めた。
「おい、待て。さっき戻ってきた銀鏡からの伝言だ。『詳しくは受付に聞け』だそうだ」
店主は満足したように調理に戻っていった。四季崎は呆れつつも苦笑いし、店を後にした。
(結局振り回されている気がするが……まあ、久しぶりの再会だ。悪くはない)
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