友人との再会と誘い 01
中央貿易都市セントナーレに到着した四季崎は、活気あふれる港と多様な人々の賑わいに包まれながら、三年ぶりにギルド本部を訪れる。
かつて「大還輪廻の儀」で起きた騒動と、その後の苦い記憶が胸をよぎるが、感傷を振り払い依頼の完了報告と武器の受け取り、宿泊手続きを進める。
受付嬢イリーネとの和やかなやり取りで心が和らぐ一方、手続きの最中、かつての仕事仲間・銀鏡神楽と偶然再会。
思いがけない再会に戸惑いつつも、四季崎は新たな出会いと出来事への予感を胸に、再び動き出す。過去と現在が交錯するなか、彼の新たな物語が静かに幕を開ける。
不意の接触に、四季崎は眉をわずかに震わせた。振り返った先にいる人物が一瞬誰だかわからず、怪訝な表情をしてしまったが、少し遅れて銀鏡だと気づき、驚きはしたものの呆れ顔でため息をついた。
「神楽、お前か……。お前が本気で姿を隠したら、さすがの俺もすぐには気づけないだろうが……」
肩に回された腕を振りほどきながら言うと、銀鏡は悪戯が成功した子供のようにニヤニヤし、こちらの反応を楽しんでいるようだった。
「ハッハッハ!お前を一瞬でも騙せれたのなら、それで上出来だ。俺の腕も鈍っていないな!」
おどけるように少し離れた。
「…たく、お前なぁ…。相変わらずだな」
四季崎は額に手を当て、やれやれとため息をついた。銀鏡は楽しそうな様子を崩さないまま本題に入るように、親指で自分の背中にあるギルドの外への扉を指差しながら明るい声で言った。四季崎はその行動に少し首を傾げた。
「まあ、そんな無下にするなよ。悲しくなるだろ?それより、三年ぶりの再会だ。美味いメシでも食いに外へ行こうぜ!」
(人混みを嫌い銀鏡が外で食事?前はギルドの食堂で一緒に食べてたが、この三年で何かあったのか?それとも、ほかに何か目的でも……?)
自分の知らない銀鏡の行動に内心では不信感を抱きながらも、久しぶりの再会に一緒の食事に心を躍らせている自分がいた。
「ほう、それは願ってもない誘いだ。当然お前の奢りだよな?」
四季崎が誘いに乗ってくれたことに銀鏡は嬉しそうにしながら、ギルドの扉に手をかけて振り返った。
「はっ、馬鹿言え。なんで俺がお前に奢らにゃならんのだ。まぁ特別に、一押しの隠れ家的な店くらいは紹介してやるよ。」
それを聞くと、「ちょっと待っててくれ」と一旦別れると、三階の自室に行き、武器『四季』を腰のホルスターに収め、ほかの荷物をベッドに放り投げると、すぐに一階のホールへ戻った。
さっきまでのやり取りを聞いていたイリーネに鍵を預け、外に出ると外で待っていた銀鏡に軽く手を上げて合図をした。
「あの事件以降、修理費稼ぎに苦労したんだ……」
「だろうな。五百万フィルだったか?」
「そうだよ。いまじゃあ、残り五十万フィルだ」
「五十万……か。あと少しだな。こっちは、ずっと変わらない日々だったよ」
互いの最近の仕事や出来事について当たり障りのない範囲で近況報告を交わしながら、賑やかな東の表通りに向かった。
東通りは夕食時ということもあり、一層の賑わいを見せていた。道の両端に軒を連ねる店からは、肉の焼ける香ばしい香りや異国のスパイスの香り、陽気な音楽が漂い、テラス席や店内は多くの客で賑わっていた。
その中のどこかの店だと思い、立ち止まりおいしそうな料理がないか探している。しかし銀鏡は賑わいには目もくれず、人波を掻き分けて東通りの中ほどまで進み、右手の薄暗い脇道を顎で指し「こっちだ」と短く言い、躊躇なく裏路地へ入っていった。
一歩路地に入ると、表通りの賑わいが嘘のように遠のき、しんと静まり返っていた。建物の壁に反響し、遠くから街のかすかな喧騒が聞こえるだけだ。道幅はそれなりにあるが手入れはされておらず、ごみが散乱し、薄汚れた壁には怪しげな落書きも見られ、野良猫の喧嘩の声が響いた。
四季崎が眉をひそめる中、銀鏡はそんな寂れた道を庭のように慣れた足取りで進んだ。やがて周囲の建物より一際古めかしい、看板もない木造三階建ての店が現れた。窓には厚いカーテンがかかり中は見えない。
(こんな人気がない路地裏に銀鏡おすすめの店か?彼らしくはあるが、どう見てもまともな飲食店には見えんが……)
怪訝な顔をする四季崎に気づいた銀鏡は、また悪戯っぽくにやりと笑った。
「まあ、見た目はアレだがな。お前、本を読みながらとか作業しながらとかで、片手で食べられる手軽な料理が好きだろ?ここのメシはいいぞ。味は確かだし、俺の好みにも合う」
そう言うと銀鏡は返事も待たずに先に木の扉の前まで進み、「ほら、入れよ」と手招きした。四季崎はまだ疑念を拭えずとも従った。
軋む音を立てて扉を開けると、中は薄暗く、壁や調度品は寂れていたが、カウンター席や奥のテーブル席は様々な服装の訳ありげな客でほぼ満席だった。低い話し声と食器の触れ合う音が響いている。
カウンター奥で黙々と作業する店主らしき無骨な男は来店に気づくと一瞬視線を寄越したが、すぐにこちらを見ず「…いらっしゃい」とぶっきらぼうに挨拶した。
「よう!おっさん。久しぶりだな。まだ潰れてなかったか。二人なんだが、個室はあるか?」
銀鏡はカウンターに肘をつき馴れ馴れしく尋ねる。
「…ちっ、銀鏡か。しぶとい奴め。…それより、お前にも友人がいたとは驚きだ。明日は槍でも降るかな」
店主は顔も上げず皮肉たっぷりに返す。
「うっせぇ!おっさんこそ客への口の利き方がなってねぇぞ。友人くらい俺にもいるさ!」
銀鏡も負けじと言い返す。
「へっ、そいつは祝い事だな。二階の一番奥、三番の部屋を使ってくれ。静かでいいだろ」
「おう、気が利くじゃねぇか。じゃあ俺のいつもの。あと麦酒も頼む」
「あいよ。……で、お連れさんはそれでいいのか?」
店主は初めて四季崎にちらりと視線を向けたが、四季崎が答える前に銀鏡が「ああ、同じでいい」と答えた。
「行くぞ、是空」と促し、二人は軋む階段を二階へ上がった。
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