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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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エセルニア中央大陸 06

青空に包まれた巡航船上で、四季崎 是空は静かな昼下がりを過ごしていた。

風運商会の御曹司・風運 集治率いる若者たちの挑発を受けた彼は、魔法戦闘でデッキを破壊する騒動を引き起こす。

集治の護衛である相 模行光が介入し、四季崎が3年前の「大還輪廻の儀」で海龍を倒しながら「異端者」の烙印を押された過去を暴露。


正義感の強い少女・伊勢は四季崎を非難するが、彼が無実の罪で迫害されてきたと知り動揺。一方、恐怖で気絶した集治を庇う相模は彼を許してもらうよう懇願する。

船長・下関は「正義の形は一つではない」と伊勢に諭すが、彼女は法と人情の狭間で苦悩する。

四季崎は冷めた表情で現実と向き合いながら、聖都カルマティア到着を目前に船上の日常に戻っていく。

(ここセントナーレに来るのも、そしてこのギルド本部に顔を出すのも、あの『大還輪廻の儀』以来だから3年ぶりか。…あまり良い記憶ではないが、久しぶりだな)


 四季崎は3年前の『大還輪廻の儀』で起きた騒動と、その後の自身の境遇を思い出し、胸の内に陰鬱な気持ちが広がるのを感じた。しかし、そんな感傷は振り払い、目の前にある重厚な木目が美しいギルド本部の扉を押し開けた。


 カラン、とドアベルが鳴り、中へ入る。ギルド本部の基本構造は各地の支部ギルドと大きく変わらない。


 広々とした吹き抜けのエントランスホール、依頼受付カウンター、情報交換や休憩のための食堂兼酒場、そして巨大な依頼掲示板が主な構成要素だ。


 しかし本部だけあって規模は一回りも二回りも大きく、裏手には大きな専用演習場が設けられている点が支部と大きく異なる。


一階ホールには、仲間同士の交流や食事のための大きな食堂エリアがいつも賑わい、壁一面を覆う巨大な依頼掲示板にはエセリニア大陸からの公募依頼が羊皮紙に書かれて掲示されている。


 中央奥の受付カウンター両端の扉をくぐると、その奥の演習場に繋がっているらしい。


 二階以上には大小様々な個室や会議室があり、依頼会議や商談、作戦会議など多様な用途に使われている。


 三階にはギルドメンバー向けの宿泊部屋が複数あり、登録済みの関係者は比較的安価で泊まれるが、華美な装飾はなく設備も最低限だ。


 夕方の早い時間のためかホールは人影まばらで、数名の若い男女のギルドパーティーが掲示板前で稼ぎの良い依頼を探している程度だった。


 そんな閑散とした中、ホール中央奥の受付カウンターには神秘的な雰囲気を漂わせる一人の受付嬢が背筋を伸ばし姿勢正しく座っていた。


 四季崎はコツコツと靴音を響かせ、深紅の絨毯を踏みしめ迷わず受付カウンターへ向かった。


 彼に気づいた受付嬢は完璧な笑顔で深々と頭を下げた。


 外見は20代くらいに見え、一見どこにでもいるようだが、よく見ると精巧な人形のように整った顔立ち。薄くメイクを施し、肩までの銀髪は緩やかなウェーブがかかり、さらさらとしている。左側には色とりどりの花飾りがアクセントとなっていた。


 服装は清潔感ある白いボウタイブラウスに紺色のリボン、同色のタイトなAラインスカート。


 彼女からは心を落ち着かせる清涼感のあるハーブの香りが漂う。


 透き通る青い瞳は親しみを込めて四季崎を真っ直ぐに見つめていた。


「まあ、お久しぶりです、四季崎様。本当にお変わりなく。最後にお会いしたのはあの儀式の時以来ですから、もう3年も前になりますね。各地にいる私の妹たちからお話は時折伺っております。とても精力的に活動されているようですが、あまりご無理なさらず、どうかお体には気をつけてくださいね」


 受付嬢は可愛らしく首を傾げ、「それで、今日はどうされましたか?」と柔らかな声で尋ねた。


「こちらこそお久しぶりです、ホゼさん。妹さんたちには各地で色々と助けられています。今日は先日受注した依頼の完了報告に参りました。所定の申請書を頂けますか?」


「もう、四季崎さん!いつも申し上げていると思いますが、私たちの名前はイリーネと呼んでいただければ結構ですのに。」


「そうは言いますけど、正直、名前以外に皆さんの区別をつけるのが難しいですよ…」


 四季崎は少し困ったように眉を下げた。


「えー、私たちそんなに似ていますか?髪型や服装、趣味や性格もそれぞれ特徴があって違いを出してるつもりなんですけど?」


 イリーネは「もぅ!」と可愛らしく頬を膨らませながらも、手際よくカウンターの下から依頼完了報告用の書類を取り出し、インク瓶とペンとともに四季崎に手渡した。


 四季崎は書類を一読し必要事項を記入、慣れた手つきでサインをしてイリーネに返した。


「はい、確かにお預かりします。それで今回の報酬ですが、以前のご依頼通り、半分は船の修理費用に充てるということでよろしいですね?」


 イリーネは小首を傾げ確認した。


「ええ、そのようにお願いします」


「承知いたしました」


 イリーネは書類を所定の場所にしまい、


「差額の報酬金は明朝ご用意できるかと思いますので、またお越しください。それともう一つ、四季崎様にお渡しするものがございます」


「少々お待ちください。失礼いたします」と言い、受付カウンターの内側を離れ、奥の保管室らしき場所へ入っていった。しばらくして埃除けの布をかけた丈夫そうな皮の鞄を持って戻ってきた。


「『工業組合クラフトギルド』より、先日調整のために預かっていた四季崎様の武器が無事整備を終えて戻っております。どうぞご確認ください」


 イリーネは鞄をカウンターに置き布を外した。四季崎はその言葉に翳りが嘘のように顔が明るくなり、「おお!」と小さく声を上げ、鞄を引き寄せ中を確認した。


 中には緩衝材に丁寧に包まれた、長さ約30センチ、直径3センチほどの鈍い光沢を放つ金属の円柱があり、中央に切れ込みが入っていた。四季崎の愛用する『可変式戦術棍』、固有名『四季』である。


 整備された『四季』は新品同様に磨き上げられ、傷一つなくきれいに収まっていた。手に取るとずしりと心地よい重みと、吸い付くように手に馴染む安心感を覚え、思わず頬が緩み子どものように無心でくるくると回していた。


 イリーネはそっと手を口元に当てて「フフッ」と楽しそうに笑い、


「まぁ、四季崎さんは意外と子供っぽい一面もあるんですね。そんなに嬉しいんですか?」


 からかうように言うと、はっと我に返った四季崎は顔を赤く染めた。


「こ、これはその…久しぶりに戻ってきたので手に馴染むか確認しているだけで、決して浮かれてなど…!そ、それより、今日こちらに宿泊したいのですが、部屋は空いていますか?」


 慌てて話題を変えると、イリーネは笑いを堪えつつ、


「はいはい、そういうことにしておきましょう」


 と言いながら宿泊者台帳の分厚いファイルを取り出し開いて確認した。


「部屋は空いております。期間は二日間でよろしいですか?」


「そうですね。次の仕事の目処もまだで、時期的に明日すぐに船が出ることはなさそうです。それでお願いします」


「承知いたしました」


 イリーネは鍵棚から部屋番号の刻まれた真鍮の鍵を一つ掴み、丁寧に四季崎に渡した。


「外出時は防犯上、必ず受付に鍵を返却してくださいね」


「分かりました。いつもありがとうございます」


「いえいえ、これもお仕事ですから」


 イリーネは完璧な笑顔で一礼し、「それでは、ごゆっくり」と手を小さく振った。


 四季崎が礼を返し鞄を受け取り受付を離れようとした時、背後に人の気配を感じ、先ほどまでいなかったはずの人物がすぐ後ろに立っていることに気づいた。


(…⁉ いつからそこに?これほど近くにいる相手の気配を全く察知できないとは…自分は思ったより疲れているのか?いや、それだけではない。この男、ただ者ではないな…!)


 警戒する四季崎をよそに、深緑のローブを纏った男はにやりと悪戯っぽく笑い、四季崎の顔を見て馴れ馴れしく肩を強く抱いた。


「よう、是空!ったく、お前を探したぜ。三年ぶりだな!元気にしてたか?」


 その男は三年前にセントナーレで偶然知り合った仕事仲間、銀鏡しろかがみ 神楽かぐらだった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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