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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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エセルニア中央大陸 05

青空に包まれた巡航船上で、四季崎 是空は静かな昼下がりを過ごしていた。

風運商会の御曹司・風運 集治率いる若者たちの挑発を受けた彼は、魔法戦闘でデッキを破壊する騒動を引き起こす。

集治の護衛である相 模行光が介入し、四季崎が3年前の「大還輪廻の儀」で海龍を倒しながら「異端者」の烙印を押された過去を暴露。


正義感の強い少女・伊勢は四季崎を非難するが、彼が無実の罪で迫害されてきたと知り動揺。一方、恐怖で気絶した集治を庇う相模は彼を許してもらうよう懇願する。

船長・下関は「正義の形は一つではない」と伊勢に諭すが、彼女は法と人情の狭間で苦悩する。

四季崎は冷めた表情で現実と向き合いながら、聖都カルマティア到着を目前に船上の日常に戻っていく。

 タラップを降りると、そこは別世界のような熱気と賑わいに満ちていた。


 船の甲板で感じていた潮風の冷たさは、港の喧騒に一歩足を踏み入れた瞬間、すっかり過去のものとなる。四季崎の足元に広がるのは、色とりどりの衣装を纏った人々が行き交い、活気あふれる港町の情景だった。


 船員たちは次の航路や港の噂話を交わし、積み荷の確認に忙しく立ち働いている。彼らの声は時に陽気に、時に真剣に響き、また別の場所では異国の衣装を纏った商人たちが、所狭しと品物を並べ、手振り身振りを交えて値段の交渉をしていた。


 見物客や旅人はその様子を興味深そうに眺め、時には露店に立ち寄って珍しい果物や香辛料、手工芸品を手に取り、店主と笑顔で言葉を交わしている。


 潮の香りに混じって、香辛料の刺激的な匂いや、焼き魚や揚げ物、未知の食べ物の芳ばしい香りが鼻腔をくすぐる。港の片隅では、路上の音楽家が陽気な旋律を奏で、子供たちがその周りで踊っている。


 四季崎はふと足を止め、その光景に目を細めた。


「この港に降りるもの、三年ぶりか。あの時は自分の船で入港したものだが……」


 そんな思いが胸をよぎる。港町特有の混沌とした賑わいは、どこか温かく、包み込むような活気に満ちている。無意識に頬が緩み、心の奥底から湧き上がる高揚感を抑えきれない。


 しかし、今は港に用事があるわけではない。


 名残惜しさを感じつつ、四季崎は埠頭を抜け、港地区と市街地を隔てる大きな石造りの門へと歩みを進めた。


 門の前には、旅人や商人、地元の住民が絶え間なく行き交い、門番が穏やかな表情でそれを見守っている。


木造作りの門は歴史の重みを感じさせるもので、表面には長い年月の間に刻まれた無数の傷や苔が見られた。


門をくぐると、そこから先はまた別の世界が広がっていた。


 北の表通りに入ると、磨き上げられた石畳がまっすぐに伸び、両側には明るく鮮やかな色彩の石造りの建物が連なっていた。


 建物の窓辺には色とりどりの花が飾られ、店先には手書きの看板や旗が揺れている。通りは緩やかな登り坂となり、歩を進めるごとに視界が広がっていく。坂の突き当たりには、夕焼けを背にした荘厳な大聖堂が、象徴のようにそびえていた。その尖塔は空高く伸び、金色の光を浴びて神々しい輝きを放っている。


 道行く人々は、思い思いに店を覗き込み、友人や知人と立ち止まって楽しげに話している。通り沿いの店々の窓からは、世界各地から集められた珍しい品々が並び、見る者の目を惹きつけてやまない。店主たちはそれらの品の由来や使い方を熱心に説明し、買い求める客と活発に交渉を交わしている。


 四季崎は表通りを進みながら、道沿いに並ぶ店の店先をちらちらと眺めていた。珍しい品や工芸品、異国の雑貨が所狭しと並ぶ店先は、どれも彼の好奇心を刺激した。


 特に趣ある本屋の前で足を止め、ガラス越しに並ぶ専門書や異国の物語に見入った。古びた革装丁の本や、鮮やかな挿絵が施された絵本、分厚い辞典や地図帳が整然と並んでいる。


(ほう、なかなかの品ぞろえだ。あの革装丁の古書はまだ読んだことがない……値段は……いかんいかん。まずは組合本部に向かわねば)


 心の中で自分に言い聞かせるものの、名残惜しさは拭えない。本屋の前を離れるとき、四季崎は思わず振り返り、もう一度だけ店の中を目で追った。


「帰りに寄る時間があればいいが……」


 そんな小さな期待を胸に、気持ちを切り替えて小走りで先へ進んだ。


 やがて中央広場に着くと、表通りより幾分静かだったが、そこにもまた独特の活気があった。広場の中央には大きな噴水があり、子供たちが水しぶきを上げて遊んでいた。その周りでは、待ち合わせをしている人々や、ベンチに座って談笑する老人たち、和服姿の大道芸人の妙技に見入る観客たちが集まっている。


 露店からは焼きたてのパンや肉料理の香ばしい匂いが漂い、店主と客のやりとりが心地よい音楽のように響く。


 広場の片隅では、旅芸人が小さな舞台を設けて物語を語り始めていた。その声に引き寄せられるように、子供たちや旅人が足を止め、物語の世界に耳を傾ける。


 四季崎も一瞬、足を止めてその様子を眺めた。この街には、日常の中にさりげなく物語が息づいている――そんなことを改めて感じる。


 広場のすぐ左、西の通りの手前にギルドがあり、道端には季節の花が咲き、時折、鳥のさえずりが静かに響く。


 目的地のギルド本部――歴史を感じさせる重厚な石造りの三階建ての屋敷――の前に着くと、四季崎は足を止めた。


 高い石壁と鉄製の門、蔦の絡まる壁面、そして堂々とした玄関扉。建物の上部にはギルドの紋章が誇らしげに掲げられている。四季崎は大きく息を吸い込み、目の前にそびえるその威容を仰いだ。


 この場所で、どんな出会いと出来事が待っているのか。胸の奥に小さな緊張と期待を抱きながら、彼はゆっくりとギルド本部の扉へと歩みを進めた。


 港の喧騒から始まった一日の旅路は、こうして新たな物語の幕開けを予感させる静かな高揚感の中で、次の一歩へと続いていくのだった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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