エセルニア中央大陸 04
青空に包まれた巡航船上で、四季崎 是空は静かな昼下がりを過ごしていた。
風運商会の御曹司・風運 集治率いる若者たちの挑発を受けた彼は、魔法戦闘でデッキを破壊する騒動を引き起こす。
集治の護衛である相 模行光が介入し、四季崎が3年前の「大還輪廻の儀」で海龍を倒しながら「異端者」の烙印を押された過去を暴露。
正義感の強い少女・伊勢は四季崎を非難するが、彼が無実の罪で迫害されてきたと知り動揺。一方、恐怖で気絶した集治を庇う相模は彼を許してもらうよう懇願する。
船長・下関は「正義の形は一つではない」と伊勢に諭すが、彼女は法と人情の狭間で苦悩する。
四季崎は冷めた表情で現実と向き合いながら、聖都カルマティア到着を目前に船上の日常に戻っていく。
中央貿易都市セントナーレ
エセリニア大陸北方に位置する、名高き世界最大の貿易都市。
面積は聖都カルマティアの約半分だが、常に多くの人々が行き交い、人口は約一万人と聖都よりも多い。聖都とは異なり、ウィスプ聖教の聖職者はほとんどおらず、住民の大半は国内外から集まった商人とその関係者である。まさに名の通り、世界経済の貿易の中心地だ。
都市は中央広場から放射状に伸びる北・東・西の三本の大通りがあり、それぞれ特色を持つ。
北通りは眼下の港と繋がり、世界各地からの貿易品を扱う卸売商店や倉庫が軒を連ねる。荷運び人夫や商人の威勢の良い声が絶えず響いている。
西通りには工房や生産系の商店が並び、槌音や鞴の音が絶えない。この都市で店を開くことを許された職人は、大陸各地や外周大陸で成功を収めた一流の人々で、ここでしか手に入らない高品質な武具や工芸品が揃う。
東通りは大小様々な食事処が集まり、港町らしく新鮮な魚介はもちろん、外周大陸各地の文化が融合した多様な料理が味わえる。「セントナーレで食べられないものはない」と言われるほどだ。
これらの通りが交わる中心には、市民や旅人の憩いの場となる大きな広場と美しい噴水、そして都市の機能を象徴する三つの大きな施設が鼎立している。
まず北通りの突き当たり、広場に面してセントナーレ大聖堂がある。様式は聖都の総本山と同じだが、一回り小さい。宗教的業務の多くは聖都で行われているため、この教会は荘厳な建築美も相まって観光や儀礼的な目的が強い。
次に広場の北東、北通りと東通りの間に威容を誇るのは、冒険者や専門職の職業斡旋を担う組合――職業斡旋組合本部、通称ギルドカレッジである。大陸各地に支部を持ち、依頼斡旋や情報収集、ギルド全体の管理を行う中心的な場所だ。
そして広場の北西、北通りと西通りの間に聳えるのが『セントナーレ貿易商組合』本部。世界の貿易情報を管理・仲介し、ギルドカレッジとも協力して物流ネットワークを支えている。陸路と海路を駆使し、あらゆる品々を世界中に届ける、まさにセントナーレの心臓部である。
――以上、『エセリニア大陸 中央貿易都市セントナーレ観光ガイド』より抜粋――
セントナーレの港は噂に違わず壮大な規模を誇っていた。長大な桟橋が幾本も伸び、大小さまざまな帆船が無数に停泊している。巨大な荷下ろし用クレーンも数多く設置され、夕方の薄明かりの中、ランプの灯りに照らされながら船乗りや港湾労働者が活気に満ちて働いていた。
四季崎たちの大型巡航船も港湾管理者の誘導に従い、喧騒の中に滑り込み指定場所へ停泊した。
停泊作業が終わると、下関船長は操舵室から魔道具を使い、「総員、これより終礼を行う!船員は速やかに船首甲板に集まれ!」と甲板中に響き渡る声で集合をかけた。
やがて船首甲板に全員が集まると、船長は用意した頑丈な木箱にひょいと乗り、集まった部下たちを見渡し一度咳払いをしてから、よく通る声で言った。
「よし!今回の航海、お疲れさまだった!今日までよく頑張った。おかげで無事、『成人の儀』の少年少女たちを目的地カルマティアまで送り届けられた。我々の仕事は、2日後の復路で彼らを無事に故郷へ送り届けることだけだ。それまでの間、ここセントナーレで羽を伸ばし、ゆっくりくつろいでくれ!」
船長の労いの言葉に張り詰めていた緊張が解け、皆は安堵と休暇への期待に満ちた喜びの表情を浮かべた。
「では、解散前に指示を出す。定航海士、お前は先にギルドに行き今回の航海の報告を頼む。副船長は腕利き数人を連れて『セントナーレ貿易商組合』へ挨拶と情報交換に行け。堀と四季はここに残れ。話がある。以上、他は解散!」
指名された定航海士と副船長は威勢よく「了解!」と返事し、定航海士は早速船を降り、副船長は仲間数名と共に船を降りていった。
他の船員たちは船に残り労をねぎらい会話を楽しんだり、仲間と連れ立って船を降り街の散策や休息に向かった。そんな賑やかな中、四季崎と堀は緊張した面持ちで船長の元へ向かった。
四季崎は船長の意図を察し表面上は平然としていたが、隣の堀は何を言われるのか分からず、普段の能天気な性格に似合わず子犬のように怯えていた。
船長は二人が目の前に来ると、まず緊張している堀に優しい目を向けたが、堀はそれだけで肩をビクッと震わせた。
船長は堀を落ち着かせるため、「まあ、そんなに固くなるな」と父親のような笑みを浮かべ話し始めた。
「堀、今回のお前の働きはちゃんと見ていた。危なっかしい場面もあったがよくやった。もう一人で操舵を任せても問題なさそうだ。自信を持て。ただ、褒められると調子に乗るところがあるから注意しろよ。あとはお前の指導役だった四季から何かあるか?」
「はい、船長と同じ意見です。堀君は基礎知識はしっかり勉強していますが、経験不足からくる判断力の甘さに若干の不安があります。しかし真面目に取り組めば経験と周囲の助けで克服できるでしょう。見習い操舵士としては合格です」
船長は満足そうに頷き、堀は認められた喜びに満面の笑みを浮かべた。
「よしよし。カルマティアへの帰りの操舵は堀に任せて問題ない。四季崎とは契約上、この片道だけの臨時依頼だからな」
船長は四季崎に視線を移した。
「そうですね。契約は片道ですが、帰りの依頼がある可能性も考慮して、すぐには次の仕事を入れていません」
四季崎が皮肉めいた言い回しをすると、船長は快活に笑い「悪い悪い」と謝った。
「では、船長。私も予定通りギルドに報告と次の仕事の確認に行きます。今回は良い経験をさせていただきました。お借りしたコートは切れてしまいましたが」
四季崎は船長と堀に軽く敬礼し、コートを返すと「気にすんな」と言われた。
今度こそ船を後にした。
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