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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
異端者の烙印、聖女の覚醒

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エセルニア中央大陸 03

青空に包まれた巡航船上で、四季崎 是空は静かな昼下がりを過ごしていた。

風運商会の御曹司・風運 集治率いる若者たちの挑発を受けた彼は、魔法戦闘でデッキを破壊する騒動を引き起こす。

集治の護衛である相 模行光が介入し、四季崎が3年前の「大還輪廻の儀」で海龍を倒しながら「異端者」の烙印を押された過去を暴露。


正義感の強い少女・伊勢は四季崎を非難するが、彼が無実の罪で迫害されてきたと知り動揺。一方、恐怖で気絶した集治を庇う相模は彼を許してもらうよう懇願する。

船長・下関は「正義の形は一つではない」と伊勢に諭すが、彼女は法と人情の狭間で苦悩する。

四季崎は冷めた表情で現実と向き合いながら、聖都カルマティア到着を目前に船上の日常に戻っていく。

 船が無事に係留されると、船内の船員たちは『成人の儀』に参加する少年少女たちを安全に下船させるため、慌ただしく動き出した。一方、操舵室の面々は次の航海に備え、船内の各種点検を始めた。


 下関船長は席を立ち、「よし、俺は客人の見送りだ」と言い、軽く手を振って部屋を出ようとした。ふと振り返り、四季崎に向き直って言った。


「そうだ、四季。悪いが上部甲板の後片づけを頼む。お前の本来の仕事は堀に任せてくれ」


 船長は堀に目配せし、引き継ぎを頼む仕草を見せると、忙しなく操舵室を後にした。残された堀は急な仕事に愕然としつつも、諦めたように四季崎を見た。


 四季崎は去っていく船長に『了解しました』と元気よく返事をし、堀に自分の持ち場の仕事を簡単に引き継ぐと、上部甲板の片づけに向かった。


 再び甲板に出ると、カルマティアの塩の香りに混じり、新鮮な海産物の香りや人々の喧騒が風に乗って漂ってきた。四季崎は空気を深く吸い込み、港に着いた実感と船内の閉塞感からの解放を感じた。


 束の間の安堵を覚え、四季崎は、甲板の隅でしばし立ち止まり、目を細めて聖都の全景を眺めた。二重の城壁の向こうにそびえる大聖堂の尖塔は、まるで空を突き刺すように高く、陽光を反射して神々しい輝きを放っている。


 港では船長が下船する少年少女一人一人に労いの笑顔で声をかけ、彼らの前途を祝うように見送っていた。周囲では先に到着していた少年少女たちが期待と興奮に満ちた賑やかな声や笑い声を上げ、祭りの前のような活気に満ちている。


 その喧騒と波の音を聞きながら、四季崎は混雑を避けるように舷側まで下りた。そこには聖騎士が無表情に下船の案内をしつつ、鋭い目で少年少女や船を降りる者全てを監視していた。その姿は歓迎とは程遠かった。


 四季崎は引き返すのに時間がかかるため、その先の上部甲板へ向かうべく、下船者と聖騎士の間を縫うように進んだ。途中、聖騎士に近づいたところで船が波で揺れ、よろめいて聖騎士にぶつかりそうになったが、咄嗟に体勢を立て直し先に進んだ。


 やっと下船者の列を抜けると、四季崎は一息ついた。すると後ろから聞き覚えのある女の子の声に呼び止められた。


 振り向くと、先ほど上部甲板で別れた伊勢が人混みをかき分けてこちらに向かっていた。驚きと少し嬉しそうな表情で列を抜け終え、小走りで四季崎の前に来た。


 四季崎は騒動で伊勢の名前を聞きそびれていたため、「あぁ…ええと、失礼だが、君は…?」と名前を尋ねた。


「もう!ボクは伊勢いせ 巫琴みことです。さっきも船長に紹介しましたよ?」


 伊勢は忘れられたことに少し頬を膨らませ、悪びれず両腕を腰に当てて自己紹介し、すぐに真面目な表情で姿勢を正した。


「あの、四季崎さん。さっきは本当にごめんなさい」


 言うと同時に腰を九十度に折り、深く頭を下げた。潔い謝罪に四季崎は少し驚き、「いや、気にしていないから頭を上げてくれ」と声をかけようとした。


 しかしその時、近くで案内していた聖騎士が二人の様子に気づき、忌々しげに近づいて割って入った。


 聖騎士は伊勢に面倒くさそうで有無を言わせぬ態度で乱暴に細い腕を掴み、


「おい、小娘!下船の邪魔だ!周りに迷惑を考えないのか。早く列に戻れ!」


 伊勢を無理やり列に戻すと、聖騎士は今度は四季崎の前に立ちふさがり、威圧的な視線を向けた。瞳には汚物を見るかのような嫌悪と剥き出しの敵意が宿っていた


「お前のような『異端者』が、この神聖な聖都カルマティアに何の用だ!穢らわしい!さっさと船に戻れ!一歩でもこの地に足を踏み入れたら即刻、その汚れた首をはねてやる!」


 聖騎士は罵倒し、明確な殺気を迸らせ、無防備な四季崎の胸倉を掴んで強く突き飛ばした。四季崎は体勢を崩し尻もちをついた。聖騎士は鼻で薄く笑い「失せろ」と吐き捨て去った。周囲の船員や下船客は見て見ぬふりをした。


 四季崎はゆっくり起き上がり、無表情を装って服の砂を払いながらも、心の奥では悔しさが燻っていた。何事もなかったふりをして上部甲板へ向かい、黙々と片付けを始めた。


 上部甲板で周囲に誰もいないことを確認すると、張り詰めていた糸が切れたように理不尽な冷遇に諦めを感じつつも、抑えきれぬ悔しさと怒りを滲ませ、「…くそっ!」と低く呻き、近くの船壁を思い切り殴りつけた。鈍い音が響き拳に鋭い痛みが走る。


 しばらくして片付けを終え、四季崎は無表情を装いながら操舵室へ戻った。出航準備を進めていた船長は四季崎の右拳が赤く腫れているのを見て表情を曇らせたが、何も言わず肩を叩き無言で操舵を任せた。言葉にならない気遣いがそこにあった。


 操舵室には出航に必要な全員が揃い、四季崎も気持ちを切り替え出航準備に取り掛かった。


「準備はいいな!錨を上げろ!次なる目的地、中央貿易都市セントナーレだ!」


 船長の号令に操舵室の皆が「おう!」と応え、それぞれの持ち場に戻った。船乗りの切り替えの早さだ。


 聖都カルマティアの喧騒を後に、船は新たな航路を順調に進み、夕刻には次の目的地、中央貿易都市セントナーレの港に到着した。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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