招かれざる終劇 01
大会決勝戦の朝。
四季崎は対戦相手であるゴルゴナ最強の拳闘士、上地と偶然出会い、互いに健闘を誓う。
決勝戦が始まると、上地の圧倒的な力に四季崎は苦戦。ディパートで仮面を破壊され素顔が露わになると、過去の「大冠輪廻の儀」での一件から観客の罵声を浴びる。
しかし上地は純粋な武人として四季崎の本気を促した。
それに応え、四季崎は愛用の武器《四季》を「戦術槍《流水》」へと変形させ、拡張機能『カレイト』を発動。
極限まで研ぎ澄まされた感覚で上地の猛攻を捌き、的確な反撃を加える。
だが、この力は精神に多大な負荷をかけ、四季崎は限界に近づいていた。
互いに最後の力を振り絞り、決着をつけようとした瞬間――。
突如、闘技場に黒いコートのフードを被った小柄な男、「冬兎」が現れる。
その手には強奪されたレガリアが輝いていた。
冬兎は衛兵たちを瞬時に氷漬けにして粉砕し、魔法で闘技場全体を巨大な氷の牢獄へと変貌させる。
決勝戦は最悪の形で中断され、闘技場は絶望に包まれた。
❐ 四季崎の視点
「さて、これで必要な目撃者も、確保できました。これで彼らも文句を言わないでしょう」
冬兎は、氷の壁に閉じ込められ恐怖で声も出せない会場を見渡し、満足げに、しかしその声には一切の温度を感じさせずに言った。
「では、中断されていた諸君の茶番――いえ、失敬、決勝戦の続きを始めるとしましょうか。もっとも、私の相手が一人から二人に増えたところで、取るに足らない誤差の範囲内ですがね。むしろ、より多様なデータが収集できるというものです」
そして、まるでこれから始まる「観察」の邪魔になるとでも言わんばかりに、冬兎はこれまで深く被っていたフードを、無造作に、しかしどこか芝居がかった仕草でサッと振り払った。
フードの下から現れたのは、雪のように白い、あるいは月光をそのまま固めたかのような白銀の髪。そして、その髪とは対照的に、まるで血のように鮮やかで、しかしどこか人間離れした冷たい光を宿す赤い瞳だった。
その整ってはいるが、どこか人工的な美しさを感じさせる顔立ちは、間違いなく私が知る「冬兎」のもの。
冬兎は、まるで何事もなかったかのように、にこやかに、しかしその表情とは裏腹に一切の感情を読み取らせない仮面のような笑みを浮かべてそう言った。
そして、先ほどまで手のひらの上の《レガリア》を、まるで大切な宝物をしまうかのように、しかしどこか無造作にコートの内ポケットへとしまい込むと、今度は両方の袖口から、まるで手品のように滑らかに、それぞれ一本ずつ、ナイフを取り出した。
「貴様ァッ! 我が民を、そしてこの聖なる闘技場をこれ以上汚させるものか! たとえこの身が砕けようとも、ここで貴様を始末させてもらう!」
上地は、怒りに顔を紅潮させ、獣のような咆哮を上げると、それまでの戦いで蓄積した疲労など微塵も感じさせない、凄まじい気迫と共に冬兎へと突進していった。
「おや、勇ましいことだ。まずは上地さんからですか。もちろん、そちらの四季崎さんとお二人でかかってきても、私は一向に構いませんよ? その方が、より多くのデータが取れるというものです」
冬兎は、上地の怒りの突撃を嘲笑うかのように、軽口を叩きながら、まるで舞うように、その猛攻を紙一重で躱していく。
上地は無言のまま、渾身の力を込めた拳を叩き込み続けるが、冬兎の持つナイフの側面で軽くいなされてしまう。
私は、冬兎の圧倒的な力と、その底知れない狂気を目の当たりにし、一旦、戦術槍《流水》の形態を解除することを決断した。
『超感覚』による精神的な消耗は激しく、このままでは本格的な戦闘に入る前に限界が来てしまう。今は無駄な消耗を避け、力を温存しつつ、この絶望的な状況を打開するための方策を見極めなければならない。
槍先が音もなく棍へと戻り、全身を覆っていた淡い青色の光が霧散すると同時に、嵐のように流れ込んできていた過剰な感覚情報が途絶え、脳を締め付けていた圧迫感が和らぐ。
しかし、その代わりに、蓄積した疲労感が重くのしかかってきた。深く息を吐き出し、わずかにふらつく体を叱咤する。
上地の怒りに任せた猛攻、それに対する冬兎の人間離れした回避能力と、的確すぎるカウンター。武器の軌道、足運び、呼吸のリズム、そして何よりも、二人が放つ闘気の質と流れ。どんな些細な情報も見逃すまいと、全ての神経を集中させる。
(上地の動きが……明らかに精彩を欠いている。いや、遅くなっている。今までの私との戦いで蓄積した疲労が、ここにきて一気に噴き出しているのか? それとも、この冬兎?という男の実力が、それほどまでに規格外だというのか……?)
私は、二人の攻防を固唾を飲んで見守りながら、冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
上地の攻撃のキレは、目に見えて落ちていた。
一撃一撃は重く、破壊力に満ちているはずなのに、冬兎には全く届かない。それどころか、冬兎は終始余裕の表情を浮かべ、まるで子供の遊びに付き合っているかのように、時折わざとらしく攻撃を受け流し、上地の体力をさらに削っていく。
「ゴルゴナ最強と謳われた力も、所詮はこの程度ですか。この世界の『限界』というものが、少しずつ見えてきましたよ。嘆かわしいことに、私たちが、かつてこんな低レベルな存在に陥れられたとは……実に滑稽だ」
冬兎は、まるで遠い過去を嘲笑うかのように独り言を呟くと、ふっと興味を失ったように「まあ、もういいでしょう」と小さく締め括り、上地との間合いを大きく取った。
そして、右手に持っていたナイフをコートの内にしまいながら、代わりに左手をゆっくりと頭上に掲げた。
《氷霊の氷槍》
その魔法と共に、冬兎の背後に周囲の氷の粒子がは詰まっていくように、十数本もの鋭利で氷槍が、禍々しい冷気を放ちながら形成されていく。一本一本が、容易に人を貫き、絶命させるであろう凶器だった。
だが、その絶望的な数の氷槍群を前にしても、上地は一切怯むことなく、まるで嵐の前の静けさのように、ふっと全身の力を抜いたかのようにリラックスした自然体の構えを取った。両手は力みなく前に差し出され、まるでこれから何かを優しく受け止めるかのようだ。
『悪鬼を喰らえ』
その上地の詠唱と、冬兎が氷槍を射出せんとしたのは、寸分の狂いもなく、全くの同時だった。
《絶海》
その上地の詠唱と、冬兎が氷槍を射出せんとしたのは、寸分の狂いもなく、全くの同時だった。
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