レガリアを懸けた邂逅 06
大会本戦二日目、四季崎は優勝候補の漣と対戦する。
漣は琥珀色の肌に純白のビキニを纏い、鞭を自在に操る華麗な女戦士。
彼女の長い射程と巧みな心理戦に翻弄される四季崎だったが、鞭と木製の棍の絡み合いを利用し、武器を交換して優位に立つ。
冷静に攻撃の隙を突き、回転蹴りと鞭の連撃で漣を追い詰め、最後は鞭で首を締め上げて勝利を勝ち取った。
漣は敗北を認めつつも、四季崎の強さを素直に称賛し、二人の間に戦士としての敬意が芽生える。
会場は歓声に包まれ、予想外の結果に熱狂が広がる。
続いて登場したのは、イリーネの弟子である幻夢の歌姫・伊勢。彼女の歌声は会場を静寂に包み、聴衆の心を深く揺さぶる美しい旋律だった。
しかし、厳正な審査の結果、伊勢は最終選抜に残ることができず、深い悔しさと自分への苛立ちに襲われる。
ギルドに戻った伊勢は涙を流しながら四季崎に敗北を告げ、四季崎は彼女の歌声に感動したことを伝え、優しく慰める。
伊勢はその支えの中で少しずつ心を落ち着け、次への決意を胸に秘めるのだった。
この日、勝利の歓喜と敗北の苦悩、そして仲間同士の支え合いが交錯し、物語は次の展開へと動き出す。
⬠ 伊勢の視点
それは、まるで精巧な幻を見せられているかのような、不思議な光景だった。
舞台上で繰り広げられている戦いは、一見すると今までと変わらず、四季さんが上地さんの怒涛の攻めを受け続けているように見える。しかし、注意深く目を凝らせば、明らかな変化が起きていた。
攻撃を仕掛けているはずの上地さんの頬や腕に、いつの間にか細かな切り傷が走り、息遣いにもわずかな乱れが生じ始めている。
対照的に、四季さんは、まるで未来を予知しているかのように、最小限の動きで上地さんの全ての攻撃を的確に見切り、時には紙一重で躱し、しかし鋭く反撃の一閃を加えていたのだ。
「あれが、可変式戦術棍『四季』の第三形態、『流水』。そして、その形態専用の拡張機能、『超感覚』の力です」
ボクの隣で、歌川さんが試合の舞台から一瞬たりとも目を離すことなく、静かに、しかし確信に満ちた声で話し始めた。その声には、先程までの重苦しい雰囲気とは打って変わり、かすかな興奮と期待の色が滲んでいるのが感じられた。
「『超感覚』は、その名の通り、四季崎様の全ての感覚を常人の域を超えて極限まで鋭敏化させます。視覚、聴覚、触覚はもちろんのこと、第六感とも呼ぶべき直感力、そして周囲の気配や敵意の流れを肌で感じ取る力までも。その結果、まるで未来の出来事があらかじめ分かっているのではないかと錯覚するほどの、驚異的な先読みができるのです」
「な、なんでそんなことまで知っているんですか……?」
ボクは、そのあまりにも規格外な能力に驚きを隠せずに尋ねた。
「あれは、大冠輪廻の儀の事件の後、ギルドがその功績を称えて四季崎様に対して特別な報酬としてお渡ししたものです。ギルドが長年保管していた、いわば『遺物』の一つなのですよ」
歌川さんはこともなげに、しかしどこか厳粛な響きを込めて答えた。ボクはその言葉に、さらに目を見開いた。
「い、遺物…だったんですか? ボクはてっきり、四季崎さんのために特注で作成された専用武器なんだとばかり思っていました。だって、武器に自分と同じ『四季』なんて名前を付けているくらいですから」
驚きのあまり、少し間の抜けた声が出たかもしれない。ボクは照れ隠しのように軽く笑いながらそう言うと、歌川さんもふっと口元を緩めた。
「ええ、本当に不思議なことですよね。あの出土した武器には、発見された当初から『四季』という固有名称がつけられていたのです。そして、それを所持することになったのが、奇しくも四季崎様だった。これは何かの縁、あるいは運命のようなものなのかもしれませんね」
その事実に、ボクは言葉を失うほどの衝撃を受けた。武器と持ち主が同じ名を持つ。それが偶然の一致だというのか。
「どうして、そんな名前が……武器に付けられていたんですか?」
「それは、おそらくあの武器が持つ特性に由来するのだと思いますよ。四つの異なる形態が存在するからではないかと推測されています。例えば、俊敏性向上を主眼とした第二形態『蛍火』にも、その専用拡張機能として『イグニッション』という機構も搭載されてますね」
その言葉に、ボクは内海での激闘を鮮明に思い出した。あの時、目にも止まらぬ神速で縦横無尽に動き回り、圧倒的な力で敵を薙ぎ払った四季さんの姿。あの常人離れした動きもまた、『四季』の秘められた形態と機能の一つだったのか。
そう思うと、今の四季さんの常軌を逸した戦いぶりにも、ストンと納得がいった。そして、胸の奥から熱い何かが込み上げてくるのを感じた。それは、四季さんの強さへの改めての畏敬であり、そして、彼が背負うものの重さに対する、どうしようもない共感だった。
しかし、そんなボクの胸の高鳴りに冷や水を浴びせるように、歌川さんが不穏な言葉を漏らした。
「ですが……早く決着をつけないと、今度は四季崎様の方が持ちません」
その言葉に、ボクの心臓が嫌な音を立てた。ボクは思わず歌川さんの顔を見つめ、彼女の言葉の先を促すように首をかしげた。
「『超感覚』は、戦闘において絶大な効果を発揮しますが、それは裏を返せば、使用者の精神を常人の域を遥かに超えた、極めて過敏な領域に強制的に置くことになります。いくら強靭な精神力をお持ちの四季崎様でも、長時間その状態でいると、いずれ精神そのものが負荷に耐えきれなくなり、崩壊してしまう危険性があるのです」
歌川さんの静かな、しかし切迫感のこもった説明に、僕は息を呑んだ。希望の光が見えたと思った矢先に突きつけられた、新たな絶望的な現実。僕の祈りは、ただ勝利を願うだけでなく、彼の無事を願う、さらに切実なものへと変わっていった。
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