レガリアを懸けた邂逅 03
大会本戦二日目、四季崎は優勝候補の漣と対戦する。
漣は琥珀色の肌に純白のビキニを纏い、鞭を自在に操る華麗な女戦士。
彼女の長い射程と巧みな心理戦に翻弄される四季崎だったが、鞭と木製の棍の絡み合いを利用し、武器を交換して優位に立つ。
冷静に攻撃の隙を突き、回転蹴りと鞭の連撃で漣を追い詰め、最後は鞭で首を締め上げて勝利を勝ち取った。
漣は敗北を認めつつも、四季崎の強さを素直に称賛し、二人の間に戦士としての敬意が芽生える。
会場は歓声に包まれ、予想外の結果に熱狂が広がる。
続いて登場したのは、イリーネの弟子である幻夢の歌姫・伊勢。彼女の歌声は会場を静寂に包み、聴衆の心を深く揺さぶる美しい旋律だった。
しかし、厳正な審査の結果、伊勢は最終選抜に残ることができず、深い悔しさと自分への苛立ちに襲われる。
ギルドに戻った伊勢は涙を流しながら四季崎に敗北を告げ、四季崎は彼女の歌声に感動したことを伝え、優しく慰める。
伊勢はその支えの中で少しずつ心を落ち着け、次への決意を胸に秘めるのだった。
この日、勝利の歓喜と敗北の苦悩、そして仲間同士の支え合いが交錯し、物語は次の展開へと動き出す。
❐ 四季崎の視点
距離を取らせてもらえず、ただひたすら上地の拳を躱し続けて、どれほどの時間が流れただろうか……
息遣いは次第に荒くなり、額には冷たい汗が玉となって滴り落ちる。腕や脚の筋肉は、無理な姿勢を強いられて震え始めていた。相手の圧倒的な攻撃密度に、呼吸すらままならない。まるで波の間を泳ぐ魚のように、間一髪で拳をかわすたび、体力と集中力が削られていく。
その拳は隙間なく、絶え間なく、容赦なく迫ってくる。一度でも躱し損ねれば、全身が砕け散るような衝撃が待っている――そんな恐怖が、背筋をジリジリと這い上がる。心臓の鼓動が耳元で大きく響き、自分の血の音さえ聞こえてきそうだ。
自分でも気づかぬうちに、歯を食いしばっていた。唇が乾き、口の中が鉄の味で満たされる。それでも、足を止めるわけにはいかない。もう一歩でも油断すれば、すべてが終わってしまう。
(これ以上続けるのは得策じゃない。ここで一つ、危険を負ってでも試してみるか……)
それなら、たとえ無謀に見えても、今この瞬間に自ら突破口を切り開くしかない。
握りしめている木製の棍をさらに強く握り込むと、冷たい汗で滑りかけた手のひらに、木のざらつきが指に食い込む。上地が大きく振りかぶった拳の肘を見据え、一瞬の隙を捉えて突き立てるように棍を差し込んだ。
狙いは、力の源となる関節を狙い、拳の勢いを止めること。
棍の先端が肘の内側に鋭く当たり、衝撃が伝わる。木製の武器はしなりながらも、その一撃で相手の動きを一瞬だけ止めようとする。
「流石に、打ち出す前の拳なら止められる」
そう上地に言い放つと、次に地面の方を向いていた棍の先端を、上地の下顎へと強く叩きつけた。一瞬の隙を突いて反撃に出る。
だが、その一撃は上地の反対の腕で、まるで予測していたかのようにあっさりと止められてしまう。
棍は相手の前腕に当たり、まったく届かない。まるで無力な子供の手を大人が受け止めたかのような、圧倒的な力の差を感じた。
上地は私に対して、期待していた以上の結果が出せないことに落胆したのか、それまでに見せていた余裕を少しだけ失い、表情が厳しいものへと変わった。
彼の眉間にわずかな皺が寄り、鋭い目がさらに厳しく光る。
まるで「お主にもっと力を出してほしい」と言わんばかりに、静かな失望と強い期待が混じった視線を向けてきた。
「この程度か?お主の本気はこんなものではないはずだ。それとも、その仮面が邪魔か?」
上地の声が冷たく、静かに響き渡る。その言葉はまるで氷の刃のように胸を突き刺し、全身に鋭い危機感が走った。背筋に冷たい汗が伝い、皮膚は鳥肌だつ。咄嗟に後方に逃げるように距離を取ろうとしたが、上地の視線は常に私を見据えたまま、どこにも逃げ場のない圧迫感が覆いかぶさる。
『拳は宿れ……』
上地は両足を踏ん張り、こぶしを腰の位置に引き寄せて構える。その拳には、まるで内側から青白い光が漲るかのように、目に見えない力が濃密に集まっていく。
彼の口からは低く、厳かな詠唱が流れ始めた。その言葉は会場全体を震わせ、観客たちはその重みに圧倒され、静寂に飲み込まれる。やがて、会場には絶望と次なる攻撃を見届けることができる歓喜が入り混じった独特の空気が広がる。まるで誰もが、この先に起こる破壊的な一撃を知っているかのようだ。
次第に上地の全身は、闘気にも似た青白いオーラに包まれていく。その姿は圧倒的な存在感を放ち、会場の隅々まで緊張と期待が染み渡っていく。
《噴河》
上地の詠唱が終わると同時に、彼は拳を力強く突き出した。その瞬間、目には見えないが確実に何かが放たれる――
気配を察した私は、咄嗟に木製の棍を前に出して顔を守ろうとした。
「四季崎様!!躱してください!!」
会場のどこかから、歌川のなりふり構わない焦ったような声が聞こえた。しかし、構えた後ではもうどうすることもできそうになかった。
その棍は上地の拳から放たれた不可視の衝撃波に触れた途端、内側から破裂するかのように木っ端微塵に砕け散った。
爆音とともに木片が舞い、その衝撃はなおも衰えず、仮面へと激しく衝突する。仮面が軋み、顔面に強烈な衝撃が走る。まるで鉄槌で殴られたかのような重圧に、視界が一瞬、歪んだ。
地面に転がり、全身に打ち身の痛みが走り、息も絶え絶えになりながらも、なんとか起き上がると、そこには信じられない光景が広がっていた。
最後まで私を守り抜いてくれたかのように、辛うじて原型を留めていた仮面が、まるでその役目を終えたと告げるかのように、音もなく、虚しく崩れ去っていく。砕けた仮面の破片がカラン、と乾いた音を立てて足元に散らばり、それまで固く守り続けてきた私の素顔が、冷たい会場の空気に無防備にさらされた。
私の素顔がさらされた瞬間、会場の時間はまるで止まったかのように静まり返った。反射的にフードで顔を隠そうと手を伸ばしたが、その動きは虚しく、既にすべてが白日の下に晒された後だった。
それまでの熱狂や喧騒が嘘のように消え失せ、観客一人ひとりの息を呑む音だけが、不気味なほど鮮明に、そして重く響き渡る。
ある者は驚愕に目を見開き、ある者は信じられないといった表情で口元を覆い、またある者はただ呆然と、その光景を凝視していた。
「やはり、貴様だったか…」
静まり返った会場に、上地の低い声が響いた。その声には、驚きと疑念が晴れたような確信、そしてどこか寂しさにも似た複雑な響きが混じっていた。
「夏季…いや……」
一瞬、彼の口が止まり、偽名を呼びかけたことに気づいたかのように、わずかに眉をひそめる。そして、改めて私の顔を真っ直ぐに見据え、言葉を継いだ。
「……四季崎……」
その名は、まるで運命を告げるかのように、重く、そしてはっきりと会場に響き渡った。
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