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時紡ぐ英雄譚  作者: 漆峯 七々
始まりの旅路、導きの歌と宿命の抗争

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大会決勝戦 01

大会本戦二日目、四季崎は優勝候補の漣と対戦する。

漣は琥珀色の肌に純白のビキニを纏い、鞭を自在に操る華麗な女戦士。

彼女の長い射程と巧みな心理戦に翻弄される四季崎だったが、鞭と木製の棍の絡み合いを利用し、武器を交換して優位に立つ。

冷静に攻撃の隙を突き、回転蹴りと鞭の連撃で漣を追い詰め、最後は鞭で首を締め上げて勝利を勝ち取った。

漣は敗北を認めつつも、四季崎の強さを素直に称賛し、二人の間に戦士としての敬意が芽生える。


会場は歓声に包まれ、予想外の結果に熱狂が広がる。

続いて登場したのは、イリーネの弟子である幻夢の歌姫・伊勢。彼女の歌声は会場を静寂に包み、聴衆の心を深く揺さぶる美しい旋律だった。

しかし、厳正な審査の結果、伊勢は最終選抜に残ることができず、深い悔しさと自分への苛立ちに襲われる。

ギルドに戻った伊勢は涙を流しながら四季崎に敗北を告げ、四季崎は彼女の歌声に感動したことを伝え、優しく慰める。

伊勢はその支えの中で少しずつ心を落ち着け、次への決意を胸に秘めるのだった。


この日、勝利の歓喜と敗北の苦悩、そして仲間同士の支え合いが交錯し、物語は次の展開へと動き出す。

   ❐ 四季崎の視点


大会決勝戦の朝


 外はあいにくの曇天で、空一面に厚く重たい雲が低く垂れ込めていた。時折、遠くで雷鳴が轟き、今にも雨が降り出しそうな不穏な気配を漂わせている。鉛のように鈍く灰色に染まった空は、まるで今日の結末を暗示するかのようにどんよりと重く、冷たい風が肌を鋭く刺した。木々の葉がざわめき、空気は張り詰めた緊張感に包まれていた。


 いつものように食堂で静かに過ごしていると、上の階から階段を下りてくる軽やかな足音が聞こえてきた。足音は確かなリズムを刻み、自然とこちらの視線を引き寄せる。振り向くと、そこに伊勢が立っていた。昨日の落ち込みがまるで嘘だったかのように、彼女の顔は晴れやかで明るく、瞳には新たな決意が宿っている。


 こちらの視線に気づくと、伊勢はにっこりと笑みを浮かべながら手を大きく振り、軽やかな足取りでこちらへ駆け寄ってきた。向かいの椅子に勢いよく腰を下ろすと、少し息を整えながらも力強い眼差しを私に向けた。


「四季さん!おはようございます!」


 伊勢は満面の笑みを浮かべ、少し息を弾ませながら元気よく声をかけた。目を輝かせてこちらを見つめ、その熱意がひしひしと伝わってくる。


「昨日の夜に歌川さんにお願いして、なんとか承諾をもらえたんです。だから、今日は絶対、ぜっったい!見に行きます!だから、必ず勝ってください!」


 その言葉に込められた熱意をひしひしと感じ取ると、昨日の夜、歌川が伊勢に詰め寄られ、困惑しながらもしぶしぶ承諾せざるを得なかった情景が鮮明に目に浮かんだ。伊勢の真剣な眼差しと必死のお願いに押され、歌川が眉をひそめつつも折れるしかなかった様子が、まるで目の前で繰り広げられているかのように思い出された。


(彼女にとっては本当に大変なことだろうな……でも、伊勢も心から楽しみにしているみたいだし、歌川には申し訳ないけれど、仕方ないか)


私が心の中で歌川に感謝の念を抱いていると、伊勢はさっと立ち上がった。軽やかな足取りでこちらに向き直ると、はっきりとした声で「歌川さんの手伝いに行ってきます」と告げた。そのまま迷うことなく、歌川の元へと向かっていった。


 ギルド内にふと違和感を覚え、辺りを見渡してみると、昨日と同じくイリーネの姿はどこにも見当たらなかった。いつもなら必ずいるはずの彼女がいないことで、不思議な空虚感が胸に広がる。


(あの急用はまだ終わっていないのかもしれないな……)


 あの一言が単なる口実や表面的な理由ではなく、何かもっと深い、重要な意味を秘めているのではないかと考えると、どうしてもその真意が気になって仕方がなかった。言葉の裏に隠された事情や、まだ明かされていない何かがあるのではないかと想像が膨らみ、頭の中で様々な可能性が巡った。


 考えを断ち切るように、左のポーチに手を伸ばし、慣れた動作で一冊の本を取り出した。栞が挟まれたページをそっと開くと、ちょうど最後のページに栞がはさまれていた。


(そうだった。昨日の待ち時間の間に、この本はすでに読み終えてしまっていたのだ。しかし、これが最後の本だったとは……。まだ時間はあるか? ならば、買いに行くしかないだろう)


 本を元のポーチにしまい込むと、目の前の料理を一気に平らげた。満たされた腹をさすりながら、数枚の銀貨を机の上に置くと、静かにギルドを後にした。


 二層目の目ぼしい場所を片っ端から回ったものの、本屋の姿はどこにも見当たらなかった。今になって、最初から歌川に尋ねておけばよかったと強く後悔したが、いまさら聞くのも気恥ずかしくてためらってしまう。仕方なく、一層目まで階段を下り、広場へと向かうことにした。


 広場には、今日のために用意された舞台が昨日よりも一層華やかに飾り付けられていた。色とりどりのサンゴや貝があしらわれている。会場の外にはすでに何人かの人々が列を作り、期待に胸を膨らませながら今か今かと開幕を待ち望んでいた。ざわめきと熱気が広場全体を包み込み、決戦の緊張感が静かに高まっているのが感じられた。


 そんな熱気を横目に見ながら、私は本屋を探そうと広場の周辺をうろついていた。その姿が怪しく見えたのか野太い声が私を呼び止めた。


「お主。少しよろしいかな?」


 野太い声が再び私の耳に響いた。思わず慌ててフードを深く被り直し、素顔が見えないように身を隠すようにしてから、ゆっくりと振り返った。


 そこに立っていたのは、古びた年季の入った革のジャケットを身にまとった刺青の入った筋肉隆々の大男だった。まるで獲物を見つけたかのように鋭く光る目つきで、こちらをじっとにらみつけている。その圧倒的な存在感が、辺りの空気まで重く締めつけるかのようだった。


 一瞬、その圧倒的な存在感に飲み込まれそうになったが、大男の顔をじっと見つめるうちに、どこかで見覚えがあるような気がしてきた。


「えぇーと、あなたは?」


 私は動揺を隠し、できるだけ冷静に対応しようと努めて声をかけた。


 大男はまるでこちらの存在を見極めるかのように、足先から頭の先までゆっくりと鋭い視線を這わせた。そして、自分が求めている相手ではないと悟ると、その鋭い目つきは徐々に和らぎ、わずかに目力が弱まったのが感じられた。


「失礼。ワシは上地と申す者じゃ。お主は《夏季》どのとお見受けするが、いかがかな?」


 仮面もなく、それでいてまだ名乗っていないのにこちらの素性に――偽名に気づいたことに驚きつつも、自分が知っている人物であることに気が付いた。


(彼は3年前の大冠輪廻の儀で助けた優勝者……ああの時よりも一段と強くなっている)


 私が黙って見つけていると、上地は何か勘違いしているのだと思い、申し訳なさそうにしていた。


「失礼。お主の闘気が《夏季》どのと同じだったものでな。もしや、違っておったか?」


 彼を困らせてしまった事に申し訳なさを感じ、慌てて話を合わせた。


「そうです。すみません、まさか、名前を当てられるとは思いませんでしたので……」


 上地は案したように息を吐くと少し優しそうな笑顔を見せた。


「まだ、ワシの感覚は衰えておらんか。改めて名乗ろう、ワシは上地。今日の決戦のお相手を務めさせていただく者。これも何かの縁、ひと言、健闘を称えたく声をかけさせてもらった」


(やはり、この人だったか……自国内では無敗を誇るゴルゴナ最強の拳闘士にして、現レガリア所有者)


 上地の鋭い視線を避けるため、私はフードを深くかぶり直し、その陰に顔を隠した。だが、心臓の鼓動は早まり、額にはじんわりと冷や汗がにじんでいるのを感じた。


「それはご丁寧に。お互い、悔いのないように戦いましょう」


 互いに力強く握手を交わした後、ついでに本屋の場所を尋ねてみた。彼は少し考え込むように目を細めてから、「一層の北地区にある」と教えてくれた。私は感謝の言葉を丁寧に伝え、礼儀正しく頭を下げてその場を離れようとした。すると、背を向けかけた私の背中に、彼の低く落ち着いた声が静かに響いた。


 振り返ると、そこにはまるで戦場に立つ一人の武人のように、強烈な闘気を全身にまとった男が静かに立っていた。彼の瞳は鋭く光り、まるで刃物のように鋭利で、一瞬たりともこちらから目を逸らさない。その視線はまるで獲物を狙う猛獣のように鋭く、周囲の空気まで張り詰めた緊張感と威圧感で満たしていた。


「最後に一つ」


 周囲一帯の気温が急激に下がったように感じる。


「お主とはどこかでお会いしたかな?」


 上地の放つ嘘を許さぬ圧倒的な威圧感に、全身に冷たい鳥肌が走り、肌の奥からじわじわと緊張が広がっていくのを感じた。喉はひりつくように乾き、生唾を飲み込む音だけが静寂を破る。体は震え、声が出せずにいるが、渾身の勇気を振り絞り、ようやく言葉を紡ぎ出した。


「……いえ。初対面です」


 すると、今までの威圧が嘘のように穏やかな様そうに戻ると周囲の気温が戻った。


「すまない。気のせいだったか……夏季殿の闘気が、四季崎という御仁とよく似ておったものでな。兄弟か、もしかしたら本人かと、つい本気で思い込んでしまった」


 彼の野生の勘とも言うべき直観が、まるで迷いなく真実へと辿り着いたことに、私は思わず息を呑み、驚きを禁じ得なかった。まるで鋭い獣のような感覚が、確かな確信となって現れたその瞬間、その洞察力の鋭さに心底感嘆し、ただただ圧倒されるばかりだった。


 上地は大きな声で笑いながら、謝ると「ワシは鍛錬に戻る」といって走りながら戻っていった。


(やはり、彼は侮れない。このような状況でなければあまり戦いたくない相手だな)


 上地に聞いた北地区へ向かうと、彼の言う通り、数軒の本屋を見つけることができた。そこで数冊の本を買い込み、満足げに荷物を抱えてギルドへと戻った。


 自室に入ると、購入した本を丁寧に机の上に並べ、一冊一冊手に取ってはその重みを確かめた。すべてを置き終えると、部屋を出ようとしたその時、ふと視界の隅に司会の端に置かれた愛用の『四季』が目に入った。ここ数日、身に着けることもなく持ち歩くこともなかったその品は、まるで寂しさを感じているかのように鈍く光を放っていた。


「お前も決勝戦には参加したいか?」


 独り言をぽつりとつぶやくと、仕方なくいつもの場所に装備を整え、軽く叩きながら「これでいいでしょう?」と小さく呟いた。その声は自分自身への確認のようでもあり、覚悟を決める合図のようでもあった。準備を終えた彼は、静かに会場へと向かった。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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