序章 世界の起源
長い間、物語の世界に想いを馳せ、心の中で紡いできた物語たち。 今回、その想いを形にし、勇気を出して一歩を踏み出しました。 未熟ながらも、この物語が誰かの心に響き、共感の灯をともすことができれば、 それ以上の喜びはありません。 どうぞ、お読みいただければ幸いです。
かつて、世界が永き平和を謳歌していた時代。至高の上位精霊の『ウィスプ』が世界を見守り、その身により生まれ出でし四大精霊――風のシルフ・火のサラマンダー・水のウンディーネ・土のノーム――とそれぞれを敬う四種族――エルフ・モルフェ・マーメイド・ドワーフ――そしてウィスプ自身を崇拝するヒューマンを加えた五種族が、この世界で満ち足りた暮らしを送っていた。
だが、そんな長閑なる時代に、突如として『魔王』と呼ばれる厄災が世界に降り立ち、睥睨して言い放った。
「この惰弱な平和は、我が望むものではない。一片の欠片を残すことなく破壊し尽くし、死と絶望の闇が支配する世界へ作り替えてくれよう。」
その言葉と共に、魔王軍は世界の破壊を開始した。
その禍々しい気配を感じ取ったウィスプは、四大精霊に世界の危機を伝え、共に世界を守るよう呼びかけた。これに応え、四大精霊たちは各々の種族と力を合わせ、魔王に立ち向かう決意を固めた。
これが、のちの『聖魔大戦』と呼ばれる戦いの始まりである。
大戦当初は、魔王軍の侵攻があまりに唐突であったため、五種族の備えは整っていなかった。四大精霊と各種族は、しばし防戦を強いられた。
この苦境の中、各種族は15歳に達した若者を集め、戦場に立つ兵士とすべく訓練を施した。そして、その成果の証として、魔王軍の尖兵を斃す試練を課し、これを果たした者を一人前の兵士と認める『成人の儀』を執り行ったと伝えられている。
これらの成果も相まって、五種族はやがて力を蓄え、連携を深めるにつれて魔王軍と互角に渡り合うようになり、ついには魔王軍を押し返し始めるまでに至った。
この戦況に焦りを感じた魔王は、最後の手段として、自身を除く全魔王軍の命を贄にとする、世界そのものを破壊せんとする大規模な『戦終魔法』――すなわち、世界を書き換えるほどの魔法――の準備に入った。
その破滅的な行動を察したウィスプは、自身の持つ膨大なマナのすべてを賭して、魔王を封印するための『戦終魔法』の準備に入った。
四大精霊と五種族は、魔王の『戦終魔法』の発動を、少し遅らせるために死力を尽くし戦った…。
結果として、魔王の封印は成ったが、『戦終魔法』の発動を完全に阻止することはできなかった。
その被害は甚大を極め、大陸の半数は跡形もなく消滅。
おびただしい命が失われ、人口は戦前の半分以下にまで激減した
永年培われた技術や歴史の多くもまた、この時代に失われたのである。
ウィスプは膨大なマナを放出したことで永い眠りにつくこととなった。
世界の人々は、魔王の封印を喜ぶ一方で、偉大なウィスプの喪失を深く嘆き悲しんだ。
特にウィスプを崇拝するヒューマンは、上位精霊の偉業を称え、『ウィスプ教』を立ち上げ、各地の早期復興に尽力した。その献身と教えはやがて広く受け入れられ、世界があまねく宗教をまとめて多くの民が『ウィスプ聖教』を称えるようになった。
これが、永い時を経て、現在『フィスプ聖教』として伝わる教えの起源である。
聖教徒聖典第序章より抜粋
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