第98話・海上自衛隊 対潜打撃群
アジア一の対潜狂
––––日本領海 相模湾沖。
深いところでは水深が1500メートルにも達するここは、静岡県と神奈川県に囲まれた巨大な湾である。
その水上には今、いくつもの巨大な艦影があった。
一律に南を向くそれら“対アノマリー艦隊“の先頭を務めるのは、海上自衛隊が誇る最新鋭護衛艦『あさひ』。
対潜水艦戦を重視したこの艦は、アジア一の対潜能力を持つことで有名だ。
ステルスを意識した艦体に、イージス艦にも似たレーダーが特徴的である。
スリムな艦橋で、航海員が舵を握っていた。
「『むらさめ』より通信、艦隊陣形を維持のため、速力を赤15へ変更するとのこと」
『あさひ』の後方では、同じく白波を立てて走る護衛艦がいた。
左弦側を航行していたのは、むらさめ型護衛艦1番艦『むらさめ』。
海上自衛隊の主力艦艇で、多機能が売りの汎用護衛艦だ。
イージスのような圧倒的防空性能は持っていないが、中露の潜水艦相手でも十分戦える能力を持っている。
武装は76ミリ速射砲に、VLS(垂直ミサイル発射機)。
さらに対艦ミサイルや、短魚雷を搭載していた。
今回のリヴァイアサン討伐戦に合わせて、32セルあるVLSの内––––なんと28セルをアスロック対潜ミサイルへ換装。
まさしく対潜特化仕様と言えた。
「右弦の『おおなみ』も速力変更します、アメリカの報告が本当なら……そろそろですかね」
『あさひ』の右弦後方には、これまた同じ横須賀所属の汎用護衛艦。
たかなみ型2番艦、『おおなみ』が付いていた。
武装は『むらさめ』と似ているが、こちらは主砲が127ミリと大きい。
そして、それら護衛艦が囲む中心にいるのは––––
「こちら『ひゅうが』、さきほど司令部より下命があった。輪形陣を保ちつつ南下を開始––––対潜警戒を厳となせ!」
ヘリコプター搭載型護衛艦。
名をひゅうが型1番艦『ひゅうが』は、全通タイプの飛行甲板を備えた空母のような見た目をしている。
この艦は、対潜ヘリコプターを同時に3機運用可能な、文字通り潜水艦キラーの兵器。
さらに空母型の艦には珍しく、他の護衛艦と同じVLSが装備されている。
これは自衛能力向上の意味もあるが、実際は海自による高度な計画が生んだ代物。
ひゅうが型就役時の日本では、空母タイプの艦を持つなど憲法違反だという声が多かった。
それを見越して、海自はVLSをあらかじめ搭載することにより「これは空母ではありません、護衛艦です」と強調。
日本人特有の言葉遊びだが、
結果的に、後の実質的な航空母艦たるいずも型護衛艦の建造に繋がった。
しかし、だからと言って本艦が繋ぎの空母モドキかと言えば違う。
前述した通り、ヘリコプターを多数運用できる上で、この艦は対リヴァイアサン戦にうってつけ。
ローテーションの関係もあり、日本海から直接呼び出したのだ。
「取舵10度! 第一戦速!」
「第一戦速!」
もっとも、本来ならこれより巨大ないずも型が適しているのも否めない。
だが、その2隻は現在使えなかった。
2番艦の『かが』は、24年度に空母化して以来、外洋遠征艦隊の中核として機能。
現在は南シナ海で”空母打撃群“を編成して、中国を牽制している。
艦載機のF-35Bは、人民解放軍の戦闘機を全てにおいて上回っており、もう対潜ヘリコプターは申し訳程度にしか積まない。
1番艦の『いずも』は、空母化改修のためドックに入っており……こちらも使用不能。
よって、『ひゅうが』を中核とした対潜打撃群を海自は編成。
リヴァイアサンの進路を予測し、展開を始めていた。
「横須賀より追伸! 音響探知システムSOSUSがアノマリーと思しき音源を探知! 本艦隊の90キロ南東を北上中!」
「来たか……、狙いはやはり関東と見て良いな。対潜戦闘用意!!」
「対潜戦闘用意!!」
警報が鳴り渡る。
『ひゅうが』の飛行甲板から、3機のSH-60K対潜ヘリコプターが唸りを上げて飛び立った。
僚艦の『むらさめ』と『おおなみ』からも、SHが各1機ずつ発艦した。
「達する! これより本土防衛作戦––––”蒼雷作戦“を開始する!! 本海戦の絶対目標は、犠牲を出さない我々の完全勝利だ!」
”ひゅうが対潜打撃群“は、進路をゆっくりとリヴァイアサンへ向けた。
98話を読んでくださりありがとうございます!
戦後すぐに怪獣に襲われてはどうしようもないですが、現代日本には世界有数の軍事力があります。
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