第97話・大量の大ファンをこさえてしまいました……
テオドールが目を覚ますと、そこは知らない天井だった。
照明が真上にあって、空調が効いている。
見渡せば部屋全体が白色基調で、自分はその中のベッドで寝ているのだとわかった。
腕には、透明な液体が入った袋と繋がる針が刺さっている。
テオドールが一瞬不安になったところで、横から声が掛けられた。
「おはよう」
振り返れば、そこにはスマホで小説を読みながら目覚めを待っていた透の姿が。
マスターが近くにいるという安心感から、脱力してもう一度ベッドに横たわる。
「おはようございます透、わたしはどのくらい寝てたんでしょうか……?」
とりあえずの状況確認。
スマホをスリープさせた透が、掛けてあるカレンダーを親指で指した。
「お前が東京であの凄い魔法……『ショック・カノン』を撃って2日くらいかな、今は午前11時過ぎ」
「そっ、そんなに寝てたんですか……!?」
「あぁ、どんな爆音や揺れでも起きないくらいにはぐっすりとな。あんまり爆睡してるもんだから、医官の人に見てもらうまでちょっと心配したんだぞ?」
どうやらあの時撃った魔法は、自身の持つ魔力量以上の出力で放っていたらしい。
生まれて初めて栄養状態が良好となったことで、彼女の身体は少し張り切ってしまったようだ。
「ご心配を掛けました。敵は……、どうなったんですか?」
「テオがやっつけてくれたから大丈夫だよ、やっぱお前は凄い子だ」
透がワシャワシャと銀髪を撫でると、テオドールは赤面しながらも受け入れた。
マスターの役に立ったことが、褒められたことが……この上なくテオドールにとって嬉しかった。
「でだ、お前に紹介したい人達がいる」
「紹介……?」
疑問符を浮かべるテオドールに、透はもう一度電源をつけたスマホを見せる。
画面には、1本の動画が映っていた––––
『2025/07/21、新宿外出記録』
非常に無骨なタイトルな上、動画時間はなんと2時間超え。
普通なら誰も見ない不親切な動画だが、その再生数は驚愕の一言。
「お前と一緒に新宿を観光した動画を、四条がとりあえずの編集だけして投稿したんだ」
「この33億という数字はなんですか?」
「再生数、この動画が何回見られたかを示す数字だよ」
「ほえ!? なんでそんなに見られてるのですか!? っと言うか動画ってなんです? どうやってこんなに多くの人間が見られるんですか!?」
そういえば教えていなかった。
まだこちらの常識を知らないテオドールに、簡潔だが動画やインターネットのことを説明する。
「んで、その動画を公開したんだが……」
透がタップしたのは、コメント欄だった。
【テオドールちゃん可愛い!! 日本の料理を夢中に頬張ってるの見てるだけで幸せになれる!】
【驚くたびにほえほえ鳴いてるww、異世界人ってこんなに可愛いのか】
【銀髪金目の美少女とかアニメじゃん! すっげえ可愛い!!】
【自衛隊さん! もっとこの子に美味いもの食べさせて! んでもって配信してください!!】
一通りスクロールした後に、スマホを下ろす。
「っとまぁ、こんな感じでお前は日本人の大ファンをこさえたんだ」
「わたし……、ただご飯食べてるだけじゃないですか。これのどこに需要が?」
「みんなお前の健康状態が心配なんだよ、だから美味しいもの食べてる姿が見たいってわけ」
実はこの裏で、もう1本動画を投稿している。
それは、中露北との激しい銃撃戦を映したもの。
まだ公開して少ししか経っていないので、各国政府はダンマリだが……いずれ釈明を強いられるだろう。
自衛隊の圧倒的な殲滅劇を見て、動画はネット上で既に世界規模の話題になっていた。
「なんか、コメント欄で結構な人がわたしのこと“ほえドール”って呼んでるんですが……」
「まぁほえほえ鳴いてたからな、語感が良かったんだろ」
「な、納得できません! これじゃあわたしが美味しいものに弱くて、とてもチョロい女みたいじゃないですか!」
実際、美味しい物に対しては雑魚なので仕方ない。
テオドールが反論を叫んだ時、部屋が大きく揺れた。
地震ではない、左右にユラユラと軽く揺さぶられる。
「そういえば、ここがどこだか……まだ言ってなかったな」
ちょうどその時、艦内スピーカーが流れた。
「航空要員に通達、1130より護衛艦『あさひ』からのSH(対潜ヘリ)を収容する。誘導員は甲板にて待機せよ」
透が下を指差した。
「俺たち今、海の上なんだよ」
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