第95話・中国海外派出所の最後
「ハァッ! ハァッ……!! クソ!! クソクソクソッ!!」
3時間の新宿決戦が終わってしばらくした頃、中国人民警察所属の王警部は、やっとの思いで拠点の海外派出所へ戻って来た。
3階のドアを開けると、既に部下たちが撤収の準備をしていた。
「警部! 拉致作戦はどうなりましたか!?」
手を止めた部下が、王に問いかける。
だが、息を切らしながら彼は首を横に振った。
「失敗だ……! あの精鋭––––張少尉率いる部隊が全滅した。ロシアや北朝鮮も来ていたらしいが、全て自衛隊にやられている」
「じゃ、じゃあ……!」
「時間が無い! 今回はこっちから仕掛けちまったんだ、もうすぐにでも敵が来て––––」
王警部の背後で銃声が響いた。
目の前でダンボールを持っていた部下が、脳天を貫かれて死亡する。
血溜まりが床に溢れた……。
「ここが海外派出所か〜、結構みすぼらしい建物で仕事してたんだねぇ。天下の中国さんも外国では制限ありか」
大急ぎで部屋の奥へ逃げ、残りの部下と共に拳銃を構えた。
玄関には、1人の男が立っている。
「やっ、どうも警部たち。殺戮ショーは楽しんでもらえたかな?」
気軽にそう言ったのは、まさしく中国部隊を全滅させた張本人。
現代最強の自衛官––––錠前1佐だった。
「貴様……! どうしてここを!」
「いやいや……質問の箇所がおかしいよ君、こんな目立つ派出所、見つけるなって方が無理。それより––––」
眼前の最強は、不気味に低音で笑いかけた。
「命乞いの1つでもしろよ、大陸の害虫共。今日をもって君たち––––駆除されるんだからさ」
警部はゾッとすると共に、疑念を抱かずにいられなかった。
なぜこの男は最初に全員撃たなかった?
今もそうだ、こっちに銃を向けることすらなく立っている。
油断か慢心か、どっちみち好都合。
「今まで我々に手出しできなかった臆病者日本が、随分と生意気だな。朝貢でも捧げに来たか?」
「アッハッハッハ! 無い無い、だって君たち……」
手を横に振る錠前は、溢れる笑顔で快活に言い放つ。
「昔の中国と違って、全然凄くないんだもん」
ケタケタと笑う自衛官に、王警部は躊躇なく弾丸をぶっ放した。
この距離で避けることは不可能、まして彼の腕で外すわけもない。
弾丸はまっすぐ錠前の顔面へ飛翔していき––––
「えっ…………!?」
思わず二度見する。
錠前の命を刈り取る弾丸が、彼の目前で止まってしまったのだ。
宙に浮いたままの弾を見て、錠前は満足気に頷いた。
「うーん残念、当たんないね」
「なんのカラクリだ!! ふざけるのも大概にしろ!!」
「はいはい、これ––––なんだかわかる?」
錠前がポケットから出したのは、手のひらサイズの虹色に光る球体。
それは、透が使った結界発生魔導具に似ていた。
「ずっと疑問に思ってたんだよ……、生物学上同じはずの異世界人が魔法を使えて、なぜ我々地球人に使えないと断定できるのか」
「どういう……ことだ?」
「うーん、こういうこと♪」
信じられない光景が広がった。
錠前は大口を開けて、その虹色に光る球体を丸呑みしてしまったのだ。
飲み込むと同時に発砲するが、弾丸は全て錠前に届かず空中で静止した。
「なぜだ……、何が起こっている」
「ん? 当たってないのわからない? じゃあ種明かししてあげるよ」
錠前が1歩前に進むたび、空中で止められていた拳銃弾が押しのけられる。
「地球人でもね、外部から魔力を取り込めれば––––魔法が使えるんだよ」
「魔法……だと?」
「そうそう、でも技研の連中いわくかなりセンスがいるらしくってね〜。今は世界で僕しかできないらしい」
遂には弾丸の方が負け、地面にボトボトと落ちる。
錠前は、自身の周囲に“次元断裂面”を纏っていた。
それも、テオドールの物より数段上のランクだ。
「そういう訳だから、僕––––今から30分間無敵状態なの。君たちの攻撃は絶対に届かないし、当たらない。だから何しても無駄ってわけ」
王警部はマガジンを交換し、それでも銃口を向けた。
「チート野郎め!!!」
「うん、……最高の褒め言葉だ」
無敵バリアを纏った錠前が微笑む。
派出所の中で、激しい銃声が鳴り渡った。
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