第90話・呆気ない最後
完全にやられた。
絶対に勝てる自信があったのに、ロシア人部隊は完膚なきまでの敗北を喫した。
「クソっ、クソクソクソッ……!! 俺はウクライナのキエフで実戦も経験してるんだぞ。なのに、なんであんな黄色人種の猿共に……!!」
吐き捨てたロシア人中尉は、キーウ攻略戦の経験者だ。
その時も、格下だと思っていたウクライナ軍に敗れて逃げて来た。
じゃあ誰が相手なら勝てる? っとなり––––
西がダメなら東の猿を殺せば良いと思って日本へやって来たのだが、目論見は大失敗。
異世界人を触るどころか、近づくこともできず––––数十倍の戦力差をもってして完敗した。
ウクライナに続いて、ここでも負け……。
自分の存在意義を一瞬問おうとしたが、ここで気持ちから負けるわけにはいかない。
疲弊したロシア復興のため、異世界人は必要だったが……やむを得ない。
「これであのレストランを吹っ飛ばすぞ、“異世界人諸共”な……」
中尉が車から取り出したのは、細い筒と先端に弾頭が付いた兵器。
名を––––『RPG-7V2』。
東西南北どの戦場でも使われている、ロシア製名作ロケットランチャーだった。
今回持って来たのは爆発特化の榴弾仕様。
4発あるので、全て撃ち切ればさすがに要塞化されたレストランも吹っ飛ぶだろう。
撃ち合いで勝てないなら、一方的に殺せば良い。
中国には後で文句を言われるだろうが、北京に頭を下げるのはモスクワの仕事だ。
中尉は素早い手つきで、残りのRPGにも弾頭を装着していく。
「中尉、本当に殺してしまって良いのですか? 異世界人は中国が欲しがっています、勝手をすれば怒られるかもしれませんが……」
部下の言葉に、中尉は思わず苛立った。
ロケットランチャーを押し付けながら、怒り気味で返す。
「我々は大ロシアだ! 中国の属国に成り下がったわけでは無いんだぞ! 連中のことなど知るか!」
「ですが、今やロシア経済は中国に完全に支配されています……無計画なウクライナ侵攻が招いた結果ですよ。今回の最終プランも同じだ。ソ連復活どころか……日を追うごとに国は弱体化しています」
2022年のウクライナ侵攻で、ロシアは西側世界から完全に切り離された。
航空機用精密機器からオムツなどの生活用品まで、ありとあらゆる先進物資が経済制裁によって届かなくなった。
生活水準は十数年単位で落下し、飛行機も満足に飛ばせない国にまで退化。
そこへ狡猾にも、中立を謳った中国がロシア経済への侵略を開始した。
元々国産での産業が軍事しか無かったロシアは、経済を制圧されるのにそう時間など掛からなかった。
1年もあれば、中国へ経済的に屈するのに十分。
今ではスマホ、自動車や生活用品の90%以上が中国シェアの製品で占められていた。
ロシア人は中国が作った靴で歩き、中国が作った車で職場に行き、中国のために貿易する。
対米という共通目標から対等な関係だったはずのロシア人は、2025年の現在では何かあるたびに中国へ頭を下げているのが現状だ。
さらに言えば、中国の属国たる北朝鮮にまで平身低頭をせねばならなかった。
逆らえば中国様を怒らせるからと、ロシア国内では中国語の教育が義務化されて久しい。
今やこの国は、いかにして中国という国へ媚びて生き延びるかを思案する国になった。
そんなモスクワからの最終指示は、拉致が不可能ならば最悪異世界人を殺せというもの。
今回の作戦自体、モスクワで既に少数派となった反中国を掲げる派閥が主導していた。
なので、これを機に中国へ一矢報いるのも1つの狙いだった。
偉大なるソ連復活を、有名な独裁大統領は今も夢見ている。
自分たちの一撃は、そのくさびとなるのだ。
「残った20人で、あのレストランを廃墟にするぞ。日本人を殺せれば、このよくわからん空間からも出れるだろう。良いか、これは最後のチャンスで––––」
話の途中、RPGを抱いていた部下の1人が目の前で射殺された。
あまりに突然の出来事に、一瞬脳がフリーズする。
あり得ない、ここは都庁に近い道路……自衛隊はまだレストランの中のはず。
急いで隠れるよう指示した中尉は、無線のスイッチを入れようとして違和感に気づく。
「なんだ……?」
仲間と通信しようにも、通話状態に全く移行しない。
その代わり、一方的な無線が全員の耳に流された。
「Hey, Russians, what drink do you want for the last one?」
耳に入ったのは、流暢な英語だった。
その瞬間、銃火器を満載した車に––––遠方から射出された『スイッチブレード600』アメリカ製自爆ドローンが突っ込んだ。
大爆発が発生し、ロシア人部隊は全員数メートル以上吹っ飛ばされた。
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