第87話・要塞レストランの攻防
結界に覆われた新宿で、狂人––––錠前1佐が中国工作員部隊を相手に無双している頃。
「なぁ坂本」
「はい、なんでしょう隊長」
––––要塞化されたレストラン。
外の地面より少し下の位置––––机を盾に座った状態で、透は空になった『SFP-9』自動拳銃を床に置いた。
周囲には大量の空薬莢が散乱している。
「この状況……どう思う?」
頭上を弾丸が何発も通り過ぎ、壁を引き裂いていく。
明らかに拳銃ではない、歩兵が持てる中でも最高威力の武器が向けられていた。
「多分、普通は最悪……とか言うと思いますよ?」
「だよなぁ……、これ明らかに“軽機関銃”持って来てるだろ。もうさっきから800発くらい連続で撃ち込まれ続けてるぞ」
「オーバーヒートまでの時間が長くて、銃身交換もそれなりに早いとなると……一番最悪なのは『PKPペチェネグ』機関銃ですかね」
坂本が言ったペチェネグとは、ロシア軍の最新鋭機関銃である。
ウクライナ戦争でも投入されており、厄介なことに非常に高性能。
さっきからバリバリ撃ち込まれている時点で、火力の差がしっかり身を持って感じられる。
「そこ男子!! 呑気に駄弁ってないで加勢してよ! 敵の数がもう30人超えてそうなんだけど!?」
『HK416A5』をセミオートで撃ちながら、久里浜が文句を飛ばす。
さっきから一番撃っているのは彼女だ。
せっかくの私服は、クリーニングにでも出さないと火薬の臭いが取れないほどになっていた。
不満を漏らす久里浜に、坂本は激励を飛ばす。
「うっせー、今お前しかライフル持ってないんだから。その分頑張れ」
「はぁー!? 全部わたし任せってわけ!? もう15人倒したんだけど? そもそもアンタ––––なんで64式持って来なかったのよ!」
「エアプめ、64式がこのサイズのバッグに入るかよ。でっ、隊長はハンドガン弾切れですか?」
「さすがにな」
「わたしはカメラ担当なので……」
スマホを向ける四条。
この戦闘の様子は、何がなんでも記録しなければならない。
中露の暴挙を、世界へ知らしめるため。
少女を拉致するため、日本国内で銃を撃つなど透としても腹立たしいこと極まりない。
ゆえに、四条はカメラ担当。
だが、公開するためには勝たねばならなかった。
さっきから座ったままだが、透もタダ怠けている訳ではない。
「……大体掴めたかな」
周囲の敵が、脳内に3Dでクッキリ再現される。
透はずっと、危機察知能力をフル稼働して兵の配置を顔も出さずに把握していた。
他の誰にもできない、彼だけの特殊能力だ。
そして、傍で一緒に隠れるテオドールに、優しく喋りかける。
「念の為聞くけどさテオ、日本から離れてアイツらの国へ行きたいか?」
「絶対嫌です、こんな乱暴なことしてくる人たちとは一緒になりたくないですっ。透と一緒にいたいです!」
言質は取れた。
四条のカメラが回っているのを確認した透は、坂本に指示する。
「久里浜がいい加減しんどそうだし、俺たちも加勢すんぞ。ちゃんと銃––––持って来てるだろ?」
「はい、これです」
坂本がバッグから出したのは、一見すると拳銃を少しゴツくした感じの武器。
名を––––『9mm機関けん銃』。
サブマシンガンと思ってもらえば良い。
国産の個人防衛火器で、2挺とマガジンが12本用意されていた。
しかし、これだけでは当然足りない。
「千華ちゃん! しゃがんで!!」
「ヒャアっ!?」
久里浜目掛けて、大量の機関銃弾が浴びせられた。
憎たらしいことに、日本国内へ武器を多く溜め込んでいたのは中国よりもロシアの方だった。
没落した軍事大国とはいえ、独自のルートで強力な火器を持ち込んでいた。
防弾プレートは、ウクライナ戦争で証明された非常に脆く安い物だが、さすがに機関銃やライフルは脅威である。
銃へマガジンを差し込み、コッキングした状態で透が呟く。
「久里浜、発砲を少しずつ減らしてくれ。弾が無くなって来た風の感じで頼む」
「良いけど、隙を見せたらすぐ突入されるわよ? せっかく要塞化したのに……」
「それで良い、頼むぞ」
唯一攻撃を行なっていた久里浜が、発砲を控えめにし始める。
それに合わせて、ロシア人部隊も勢いづくのが感じられた。
予定通り、後は––––
「手榴弾でも放り込んでくれたら、楽で良いんだけどな」
そう言った瞬間、音を立てて破砕グレネードが転がって来た。
安全ピンは、当然抜かれている。
「おっ」
爆発が発生し、レストランからの抵抗がピタリと消えた。
制圧のチャンスと見たロシア人部隊が、銃を隙なく構えながら突入を開始する。
後は、異世界人を連れ去るだけだ。
所詮は戦争を経験していない日本人、軍事大国ロシアの戦闘員に比べれば劣るのも当然。
入り口と窓から同時に突入した瞬間––––
「クリアリングが雑なんだよ」
レジの下に隠れていた透が、入り口の2人を強烈なフルオート射撃で制圧。
照準器を使わなかったので、敵より遥かに素早く攻撃できた。
窓からの4人は、坂本と久里浜ですぐさま射殺。
“死んだフリ作戦”。
単純だが効果は大アリだった。
この際、透の指示で坂本が“ある物”を目論見通り手に入れることができた。
それこそ、猛威を振るう機関銃への対抗策だ。
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