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第85話・狂人の協奏

 

「殺せ!!」


 95式をフルオートで撃ち放った少尉は、仲間の仇を取るため殺意を全力で向けた。

 数人掛かりでの弾幕を、狭い通路で限界いっぱいに張った。


 普通ならこれで終わりだった。

 そう、相手が“普通“なら––––


「えっ!?」


 照準を向けた男は、まるでこちらの銃口の動きを未来予知したかのような動きを見せた。


 走り込みと壁を蹴っての三次元的な回避、さらには滑らかなスライディングであっという間に至近距離へ肉薄される。


 銃弾は1発も掠らなかった。


「おいおい、室内でいちいちサイトなんて使うんじゃないよ。腰だめで乱射する方が案外当たるって」


 アドバイスしながら、殆ど接射で伍長が撃たれた。

 ダブルタップによる、的確な殺害。


 見れば、胴体を守るはずだったケブラー防弾プレートが貫通されている。


「6.8ミリ……! 米軍の銃か!!」


「正解♪」


 集団のふところへ入った錠前は、すぐさま射殺した遺体を左手で持って盾にした。


「う、うわぁっ!?」


 唯一射線の通っていた1等兵が慌てて射撃するも、95式ライフルでは防弾プレートを貫けない。

 肉の盾を得た錠前は、カウンターの腰だめでそのまま3人を射殺。


「よくもっ!!」


 直後に左右から鋭いナイフが襲うも、フィギュアスケート選手も真っ青なイナバウアーで回避。

 この際、持っていた死体は放り捨て、銃をスリングで吊ったまま大きくバク転。


 空中で姿勢を立て直し、ナイフに持ち変えていた2人の中国人を撃ち殺す。

『M7』はストックが折り畳めるため、銃身を短くしてこのような無茶が可能であった。


 それにしても、ライフル弾をストック無しに空中から制御する技はまさに狂気そのもの。

 CQBの域を超えていた。


「お前たちは逃げろ! このイカれた自衛官は私が相手をする!!」


 恐怖に支配された部下を逃し、95式を再び発射。

 相手の射撃直後を狙ったが、人間離れした瞬発力で横の部屋に逃げられる。


 追撃には莫大な恐怖が付き纏ったが、ここで引いては部下が助からない。


 どこに潜んでいても大丈夫なよう、少尉はトリガーを引き続けながら部屋に突入した。

 角を狙って入るも、そこには”閃光手榴弾”が置かれていた。


 罠である。


「しまっ––––」


 爆音と閃光が少尉を襲った。

 長年の経験で咄嗟に目を閉じたため、かろうじて視界は生きている。


 それでも、敵へ与える隙としては十分過ぎた––––


「ガッ!?」


「君がリーダー格っぽいよねぇ? 北京からの指示? だったらテオドールくんモテモテじゃん」


 非常に高レベルなCQCを背後から仕掛けられ、アサルトライフルをアッサリ奪われる。

 すぐさま取り返そうと動くも、腹部に痛打が走った。


「グッ……!!」


 奪った95式で、錠前は張少尉の腹を撃ったのだ。

 貫通力の低い5.8ミリ弾は、キチンと防弾プレートで防がれた。


 だが、非常に至近距離だったため激痛で倒れ込む。

 ボンヤリとした視界で見上げると、銃を点検した錠前が満足気に頷いていた。


 そして、低い声で呟く。


「君には少し聞きたいことがあるから、今は殺さないであげるよ。その代わり––––」


 錠前はポケットから小さいリモコンを出すと、見せつけるようにボタンを押した。


「大事な部下を見送ってやるといい」


 上階で爆発が発生した。

 廃ビルの中を、悲鳴が轟く。

 さっき逃した、部下のものだった……。


「おっ、クリーンヒットか。勘と足音だけが頼りだったけど……案外当たるもんだ」


「なっ、何をした……! 私の部下に!!」


「何って……、対人地雷(クレイモア)を遠隔で起爆しただけだよ。大したことじゃない」


 しゃがみ込んだ錠前が、鬱陶しいほど端正な顔で笑う。


「この廃ビルがお前らの“墓標”なんだよ、長年日本に巣喰ってきた白アリを駆除するには、ちょうどいい場所だろう?」


 少尉は本能で悟った。

 こいつは本当にイカれている、頭のネジが2、3本なんていう生優しいものじゃない。


 この男を殺すには、大陸の人民解放軍が全戦力を向けなければならないと感じさせるほど。

 こいつは、自分たちを駆除するために––––己の全てを賭けているのだ。


 少尉は自身の持ちうる度胸と、最速の動きで無線を繋げた。


「全部隊へ!! 新宿2丁目の廃ビルには絶対近づくな! 陽動要員はすぐに異世界人の拉致へ向かえ!!」


 必死に叫ぶ。

 この男の前に、部下を連れて来てはいけないと。


 だが、返って来た通信は無情だった……。


「えっ、廃ビルって……今我々もちょうど逃げ込んで来たところです。ここに少尉もいるのですか?」


 背筋に悪寒が走ると同時に、回復して来た聴力が『M7』のリロード音を聞き取った。


「君はここで良い子に待っててね、おかわりのお知らせ。ありがとう」


「ふざけるな!! 貴様に部下は殺させ––––」


 それ以上の言葉は、奪われた95式を手足に数発撃ち込まれることによって止められた。


「日本人を自分勝手に殺しに来て、部下は殺すなって……それ筋通らなくない? 僕そういう大陸のエゴ大嫌いなんだよね〜」


 床に落とした95式を撃ち抜いた錠前は、部屋の扉に手を掛けた。


「10分で終わらせるよ、それまでに言いたいこと––––日本語で800文字以内に纏めといてね」


 悪夢だと信じたかった。

 こんな極悪な人間、フィクションなら必ず討滅されるはずなのに。


 少尉は地面に伏せながら、殺戮に向かう“現代最強の自衛官”をただ見送るしかなかった。


今回ありがたいことに「レビュー」を頂きました!!

感謝感激です。


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― 新着の感想 ―
[一言] イナバウアーに引っ張られて書き込みしようかなと思ったら既に指摘されてた件について
[気になる点] イナバウアーは背を反らすのではなくて足首の向きを⇄みたいにして滑ることだと言われてました。 例のあれは背を反らしつつ足首の向きを揃えて滑る複合技なんだそうです。が、まあイナバウアーとい…
[一言] この中華の隊長さんは、「いきなり攻撃したら反撃してきやがった!」を地で行くおばかさんだね、ざま~ww。
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