第84話・現代最強の自衛官
本作は能力的に錠前ができないことを新海が任され、新海ができないことは錠前が担当する構成です。
お互い、奥底では分かり合えないからこそ補完できる仲を描いていきたいです
防衛省には、一般の幹部でも知り得ない極秘情報がよく封印されている。
多いものから並べると、
・最新試験兵器のスペック。
・日米のデータリンクシステム
・極秘の地下施設の位置
などがあり、一言でいえば公にすると安全保障に直結してしまう部分が大半だ。
いずれの情報も、敵国に知られたくないものばかり。
だがその中で、ただ1つだけ––––全く違う理由によって封をされているものがあった。
ファイルの名前は『第1回、日米異種戦力試験演習』。
イージス・システムと、極超音速誘導弾試験データに挟まれる形で保管されているこれは、数年前に行ったある演習についてのデータだった。
第1回しか無いのは、それ以降開催されなかったからだ。
いや、開催する意味がなかった……と言うのが適切だろう。
この演習は、日米高官の間で合意し––––アメリカ本土で行われた対抗演習である。
戦力はアメリカ側が、テキサス州に拠点を置く米陸軍第4歩兵師団。
第一次世界大戦からイラク戦争までを戦い抜いた、歴戦の部隊である。
また、歩兵師団でありながら実態は高度なネットワーク機能を持った重装甲部隊を有する。
そこから抜擢された歩兵1万名、M1A2エイブラムス戦車40両。
ストライカー戦闘車両60両、ハンヴィー他MRAPなど550両。
さらに砲迫が120門という、増強師団クラスの戦力。
対して日本側が用意した戦力は––––“歩兵1名”、残りはそれを支える手出し禁止の補給部隊のみであった。
あまりに開き過ぎた戦力差、当初––––この演習を持ちかけて来た日本側の意図を、アメリカは全く理解できなかった。
しかし当時の記録によると、米軍は対ゲリラ・コマンド戦を想定して本気で望んだと記されている。
勝敗の判定は、日本側が当該歩兵1名の戦死で敗北。
アメリカ側が司令部の破壊、および戦力の7割を喪失で敗北。
また、3日以内に決着がつかなかった場合は、米軍側の被害の規模によって勝敗が決められる。
演習費用は全て日本が負担するとのことで、アメリカ側は当初自衛隊側に対し、少しくらい手加減でもした方が良いんじゃ……と思ったほど。
しかし、その余裕は演習が始まってすぐに消し飛ぶ。
書いてある結論から言えば、この演習––––“アメリカ側の圧倒的な敗北”で終わったのだ。
最初は斥候に向かったMRAP(対地雷装甲車)グループが、僅か4分で沈黙。
奇妙に思った米軍が、今度はエイブラムスを含んだ装甲部隊で待ち伏せするもやはり数分で全滅。
演習2日目。
あまりに姿を見せないことから、米兵はそれを次第に『ゴースト』と呼ぶように。
午後からはなし崩し的に部隊が次々壊滅していき、米側は敵影を見ることなく司令部への肉薄を許してしまう。
位置を大まかに掴んでの榴弾砲による効力射も、戦車砲による制圧もまるで当たらない。
記録はさらに続く……。
演習3日目。
そこから先はもっと悲惨であり、南米の総合演習で優勝した中隊を含んだ歩兵部隊が、接近戦で見事に蹂躙された。
バトラーという、レーザーシステムを使った演習で実際の戦闘を可能な限り再現しているが、行われた戦闘は非現実的なものと書かれている。
山に入って行った部隊が、そこに巣食う化け物に飲み込まれたように1人も生きて帰って来ないのだ。
そして制限時間ギリギリの深夜……。
最終的に米軍は司令部要員を全て殺害され、敷地はC4爆弾で完全な破壊判定。
戦車、装甲車に至っては半数以上が大破。
歩兵の戦死者は2000名超えに加え、4000名が負傷判定。
あり得ない結果だった……。
歴戦の米軍第4師団は、たった1人の歩兵に蹂躙されるというまるでフィクションのような演習となった。
訓練後にすぐさまシステムのバグや、不正などが検査されたが当然発見できず。
最終的に、日本側の勝利が通告された。
もちろん、この演習はアメリカ側の強い要求で非公開扱いとされ、演習自体が無かったことに。
備考ではあるが、この演習の後に––––その自衛官へ付けられたコールサインは“カタストロフィー”。
絶対的破滅を意味するこれは、単騎でアメリカ軍1個増強師団を相手に完封した超人のみに許されたサイン。
当該自衛官は、当時––––習志野駐屯地の特殊作戦群に所属していた自衛官。
––––錠前 勉3佐––––
◆
「いやぁ……元気が一番って言うけど、君らよく国内でこんなに装備集めれたねー。みなぎる熱意に思わず惚れちゃいそうだよ。……そんなに日本人を殺したかったのかい?」
謎の遠距離攻撃から必死で逃げ延び、廃ビルに入った中国工作員部隊の張少尉は、眼前の光景が信じられなかった。
「っ………………」
自分たちは中国国内でも精鋭に数えられると自負し、実際幹部からも1人で人民解放軍の兵士10人分に相当すると言われたことだってある。
最初に狙撃された若造を除けば、今ここにいる部隊がまさに中国で精鋭とされる者ばかり。
そんな精鋭5人が、今……目の前で死体となって床に転がっていた。
クリアリングを任せた10年来の戦友である軍曹を筆頭に、自分たちが到着した頃には残らず死体となっていたのだ。
中心部に立っていた1人の自衛官が、ドス黒い笑顔を見せる。
「じゃあ……次」
条件反射で、少尉たちはアサルトライフルをフルオートでぶっ放した。
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