第79話・忍び寄る影
ほえドールに、デザートも食べてほしいとリクエストがあったので。
「ふわぁ〜、この世にこんな美味しいものがあるなんて。これがミラノ風ドリア、もう幸せで崩れ落ちそうです……」
食事をスプーンで頬張ったテオドールが、満面の笑みでドリアを堪能していた。
アノマリーについて一通り教えてもらったので、とりあえずご褒美をあげているのだ。
リヴァイアサンのことは防衛省に情報を送ったので、まず今はテオドールを満足させることにした。
「美味しいか? テオ」
「はい、透が食べているハンバーグも欲しいです!」
「はいはい、今切るからちょっと待てよ」
肉汁たっぷりのハンバーグを切り分け、透はフォークで刺す。
「ほい、口開けて」
「あーん、はむっ」
フォークごと口に入れたテオドールが、悶えるように感極まっていた。
もう完全にただの観光客と化しており、心ゆくままに日本を堪能している。
そんな様子をスマホで撮影する四条だが、先ほどから興奮が止まらない。
理由は単純––––
––––透さん、自分が食べたフォークで普通にアーンって……完全に間接キスじゃないですかっ!!
そう、2人はさっきからお互いが口につけた食器で食事をシェアしていた。
それは紛れもない間接キスであり、四条の性癖を刺激する。
イケメン自衛官が、異世界人の美少女と間接キスの嵐……これ以上の取れ高はないだろう。
彼女の中で、透×テオドールのカプ概念が爆誕していたのだ。
年齢的にあり得ないことだが、異世界人に日本の常識は適用されない。
つまり合法。
仲睦まじく食事を楽しむ2人の姿は、四条にとってまさにおかず。
この様子だけは、必ず映さなければならない。
「そうだ、お2人とも……せっかくですからデザートなんてどうでしょう?」
「おっ、良いなそれ。なんかオススメあったっけ?」
「わたし的にはティラミスがオススメですよ、値段と吊り合わない極上の美味しさですので」
「じゃあ食べるか? テオ」
「はい! 食べたいです!」
あっという間にメニューを平らげたテオドールは賛成。
注文してすぐに、そのデザートはやって来た。
「茶色の固形物……、これがティラミスですか?」
「デザート用のスプーン、これで食べてみろ」
言われるがまま口へ運んだテオドールに、電流が走る。
冷たさと甘みの中に、ほのかな苦味がアクセントとして存在。
初めての味に、興奮が絶頂へと達する。
「す、凄い……! 甘さと苦味がこんなにマッチするなんて。食べ物を冷やすというのも全く知らない発想です!」
「気に入ったか?」
「はい! ぜひ透も食べてください!」
「良いのか? じゃあ遠慮なく」
ついさっきテオドールが口に入れたばかりのスプーンで、躊躇なく透へティラミスを与える。
四条からすれば、待ち望んでいた最高の光景。
後の編集作業が、今から楽しみだった。
ティラミスも食べ終わったテオドールが、困ったように呟く。
「日本……なんて恐ろしい国、なんで魔力を使わない人間がここまで凄い文化を持つんですか……?」
「地球には魔力がもう無いんだろ? だったら魔力に頼らず発展するだけだよ」
「今まで色々な世界を巡りましたが……、魔力に頼らない世界はここが初めてですよ。それがよりによって一番強いだなんて」
おそらく、魔力が豊富な世界では……人間もそれに頼り切って中世レベルから発展しなかったのだろう。
そこを、ダンジョンに侵攻されて見事に滅んだ……。
人間、恵まれていないほど強く育つのだろう。
会計を済まして外に出ると、もうお昼も過ぎ去ろうとしていた。
「まだ時間がありますね、ショッピングにでも行きましょうか」
今回の経費は自衛隊が全額負担している。
この際、テオドールに可愛い服でも見繕ってあげようかと思った。
服屋に向かおうとした瞬間、透は背筋に嫌な感触を覚えた。
それは、ダンジョンで幾度となく体験した”殺意“だ。
振り向くと、群衆を割ってこちらを見る白人がいた。
そいつは胸元から––––おもちゃではない”本物の拳銃“を取り出す。
照準は……四条の後頭部だった。
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