第77話・これで日本人に勝てる
––––東京都の某所。
1人の中国人女性が、古びたアパートの部屋の扉を開けた。
40代前半に見える彼女は、周囲を警戒してからゆっくりドアを閉める。
「よう、邪魔してるぞ」
唐突な声。
部屋の奥でくつろいでいたのは、1人の中年男性。
中国人民警察所属の、王警部だった。
「君が例の熟練工作員か、日本に来て長いんだって? ご近所さんの評判も良いらしいじゃないか」
タバコを吸う王に、女性は不機嫌そうに答えた。
「海外派出所の人間が、なんの用ですかね? あと……タバコはやめてください」
「はいはい。用も何も、君目当てだよ……張少尉。しこたま武器を隠して日本に潜伏すること10年……とうとう任務の時が来たんだ」
「北京からの指示ですか?」
「あぁ、異世界人の拉致……いや失敬。招待を命令されている。君たちの力が必要だ」
その言葉を聞いた張は、レジ袋を置いて警部を見下ろす。
「我々は来るべき台湾奪還の際の陽動を行う駒です、異世界人の拉致なんて想定していませんが……」
「いわゆる想定外だ、よくあることだよ。異世界人の少女を天安門広場に連れて行って共産党の素晴らしさをアピールする。最高のプロパガンダだと思わないかい?」
「っ…………」
半分だけ納得した張少尉は、ボロボロのふすまを開けて見せた。
「わお、こりゃ確かに凄いな……一体何年掛けたんだ?」
中に入っていたのは、大量の95式アサルトライフル。
ブルパップ式のこの銃は、中国軍が保有する一世代前の正式採用ライフルだ。
「一応この他にも手榴弾……、プラスチック爆弾なども用意してあります。弾薬はここだと湿気てしまうので、別の場所に」
「素晴らしい、警察の俺が言うのもなんだけど……君って有能なスパイだよね?」
「日本政府は臆病者ですから、落ちぶれた後進国に我々を打倒なんてできません」
「一昔前ならそう言えたんだけどね……」
今や日本は、第二次高度経済成長期に入ったと言って良い。
日本円の価値は上がり続け、元が暴落する現状……。
一体、いつまで後進国呼ばわりできるかわからなかった。
「平和ボケした島国暮らしの日本人に、戦争はできません。私の部下を使えば––––異世界人の拉致なんて造作もありませんよ」
「ずいぶんな自信だね、裏はあるの?」
「これを見ればわかりますよ」
そう言って張少尉が奥から取り出したのは、黒色のプレートだった。
もちろん、ただのプレートではない。
「おい、まさかこれ……“レベルⅣケブラー防弾プレート”か!? こんなものまであったのか!」
「日本の警察のか弱い拳銃では、全弾撃っても貫通は不可能。5.56ミリも防げます」
「凄いじゃないか! えっ、なに? ちゃんと人数分あるの?」
「もちろんです、プレートキャリアと合わせて使えば十分日本人を倒せる」
この上、通信はVPNによって秘匿されており防諜も十分。
これなら––––
「早速準備してくれ、標的は新宿を歩き回っている。できれば今日にでも捕獲したい」
「北京はそんなに急いでいるのですか?」
「なんでも、海軍が未知の生物に日本のEEZ内でやられたらしい。国民が情報開示を求めてデモを始めているし、政府への不信感が高まってる」
「つまり、異世界人の招待で……北京は話題逸らしをしたいと?」
「そういうことだ、準備にはどれくらい掛かる?」
「夕方までには」
「オッケーだ、こうなったら多少の犠牲は仕方ない。強引にでも異世界人を招待する。上手くいけばそのまま上海の美しい街並みをレビューしてもらおう」
作戦決行は、午後6時とされた。
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