第76話・アノマリー
「“アノマリー”ってなんだ……? 明らかにダンジョン絡みっぽいけど、テオの仕業じゃないみたいだし……」
動画をもう一度見る。
貨物船からの映像で、発砲した中国駆逐艦が容赦なく殲滅されるというもの。
SNSにも拡散されており、中国国内では情報開示を求めるデモが始まったという速報もあった。
「テオドールさん、アノマリーとは……なんですか?」
同じく動画を見た四条が、さすがに困惑した様子で尋ねる。
それに、テオドールは少し目を逸らした。
「……これも本当は秘密なのですが、この様子を見て隠すわけにはいかないですね」
仕方ないと言った様子で、テオドールは姿勢を正した。
凛とした瞳で、正面を見据える。
「“アノマリー”とは、言葉通りこの世の法則を外れた怪物です。今お2人が持っている魔導具に映った怪物……リヴァイアサンと言うのですが、それが該当します」
「ダンジョンに出て来るモンスターとは違うのか?」
「比較になりません、アノマリーとは……元からその世界に存在している神に等しい生き物。本来なら星の寿命まで眠っています」
「これが眠ってるようには見えないが……」
「当然です、アノマリーは魔力によって活性化する。おそらくダンジョンから放出された魔力を糧に……目覚めたのでしょう」
カメラを回しながら、四条が質問する。
「じゃあこれは、貴女たちにとっても想定外……と?」
「ダンジョンが世界を渡るタイミングとして、アノマリーの目覚めというのがあります。魔力によって活性化したそいつらは、より強大な力を得ようとダンジョンへ侵攻するからです」
テオドールの言葉に、「ちょっと待てよ……」と透はつぶやいた。
「それって、東京に向かって来てるって……ことか?」
「はい、ダンジョンを破壊し……魔力を得て世界を統べることがアノマリーの本能ですから」
「マジかよ……、そんな怪物どこから……」
言いかけて思案する。
リヴァイアサンという言葉は、神話に登場する生物の名だ。
今までは神話なんて創作に過ぎないと思っていたが、ここに来て常識が覆る。
「もしかしてそのアノマリーって……、大昔は普通に生きていたのか?」
「おそらくですが……、この世界の神話に出て来たりしませんか? アノマリーは星が宿した僅かな魔力を餌に最初は活動しますが、魔力が無くなってからは休眠するのです」
なるほど、どうりで近代以降は見かけもしなかったわけだ。
海の中は……、宇宙よりわかっていないことが多い。
このリヴァイアサンも、探査の及ばない深海で眠っていたのが……目覚めたのだろう。
「じゃあアノマリーが目覚めた今、ダンジョンは再び世界を移動するのか?」
「……それができたら、お話していませんよ」
困ったような口調で、テオドールが続けた。
「ダンジョンは今……深刻なエネルギー不足です、本来なら立ち入った人間を殺して養分とし、アノマリーが目覚めるまでに移動の力を蓄えるのですが……」
それは無理だと言いたいのだろう。
ダンジョン内において、自衛隊は未だ死者ゼロを記録している。
さらにはエリア攻略で財宝まで吐き出させているのだから、エネルギーなど溜まる筈もない。
「もしリヴァイアサンが東京に来れば、未曾有の大惨事になるぞ……。四条」
「はい、衛星通信で防衛省にリヴァイアサンの進路を送ります」
あんな化け物が東京湾で暴れ回って、ダンジョンが破壊されたら……史上最悪も良いところ。
関東の死者は第二次世界大戦以来––––最大となるだろう。
追加で、2人の携帯が鳴る。
画面を開くと––––
【速報、四国沖でパナマ船籍の貨物船が消失。直前に救難信号を発信か】
もう、時間は残されていなかった。
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