第72話・九州沖海戦②
「よしっ! やったか!?」
豪炎に包まれる『常州』とリヴァイアサンを見て、艦長は勝ちを確信した。
あれだけの爆発を食らって、生物が無事でいられるはずがない。
沈みゆくフリゲートと乗員には悪いが、これも中国14億の民のため。
倫理は無視したが……、合理においてこれ以上の選択はなかった。
––––そう、……無かったのだ。
「モニター回復……。目標…………」
戦闘指揮所の全員が固まった。
黒焦げのフリゲートを絞め潰したリヴァイアサンが、真っ白な眼で『南京』を見つめていたのだ。
爆発で付いた傷には、ボコボコと泡のようなものが湧いて皮膚組織を瞬時に再生している。
まさか……、あの爆発が効いていない?
いや、そもそも––––
「アイツ……、さっきまで白目だったか?」
黒煙を吐いて出て来たリヴァイアサンは、明らかに姿を変えていた。
鱗に覆われた剛腕が、長い体から8本……皮膚を破って生えてくる。
背びれはさらに鋭利化し、もはや剣山と言っても良い様相へ。
何より、傷を受けて再生した箇所が……より強靭な甲殻に覆われたのだ。
「進化している……だと? アイツは、我々の攻撃に適応して行ってるのか……?」
フリゲートだった残骸が海に落ちたところで、艦長は正気を取り戻す。
「こ、攻撃……! 攻撃だ!! 主砲でヤツを撃て!!」
「ダメです!! さっきの攻撃で主砲弾の即応分は尽きました……! 対艦ミサイルは距離が近すぎる!!」
「し、CIWSだ!! なんでも良い! ヤツを殺せ!! 撃てるものは全部撃て!!」
艦を横に向けた『南京』が、搭載する30ミリ機関砲を撃ち放った。
猛烈な連射速度でリヴァイアサンに発射されるが、2.5キロも離れた敵には射程距離がギリギリ過ぎる。
いや、そもそも……もはや30ミリ砲弾ではあの鱗を貫けていない。
歯を食いしばっている10秒の内に、機関砲の回転が止まった……。
こちらも、即応弾を撃ち尽くしたのだ。
もう、最新鋭駆逐艦『南京』にヤツと戦う武器は残っていない。
「面舵いっぱい!! 最大船速!! 全力でアイツから離れろぉ!!」
なすすべの無くなった『南京』は、背中を向けて必死にリヴァイアサンから離れようとする。
30ノットいっぱいなら、なんとか逃げ切れるはず。
そう思っていた……。
「なんだ……、アレ」
見張り台の兵士が、双眼鏡でリヴァイアサンを覗く。
見れば、ヤツの全身が淡く光り始めていた。
魂の無い白目がこちらを向き、不気味な大口を開けた。
リヴァイアサンとの距離が6キロ以上になったところで、それは起きた……。
近くにいた貨物船の乗組員も、同じ光景を見届ける。
「目標!! 口から何かをはっ––––」
中国兵の言葉はここで途切れる。
リヴァイアサンの口から発射された熱線……いや、“レーザー”が駆逐艦『南京』を貫いた。
被弾面が溶解した瞬間、弾薬庫もろとも『南京』は文字通り消し飛んだ。
サーモバリックとは比較にならない威力の爆発が、海のど真ん中で発生。
16キロ離れた大型貨物船が大きく揺らされ、立ち昇ったキノコ雲が天を貫く。
中国海軍駆逐艦『南京』は、たった1名の生存者すら残すことなく蒸発した。
その様子を、貨物船の乗組員がスマホで撮影––––インターネットへ繋がった瞬間に一部始終をSNSに載せる。
中国艦隊を全滅させたリヴァイアサンは、貨物船とは別方向へ潜水。
姿をまた消し去った。
「いやー……、とんでもない化け物だな」
海の中で声が響く。
海面をよく見れば、1本の潜望鏡が突き出ていた。
––––それは海の忍者。
海上自衛隊 たいげい型潜水艦1番艦 『たいげい』は、リヴァイアサンにも中国軍にも気づかれず……戦闘を全て記録していた。
「呉の潜水艦司令部に、この情報を全て持ち帰るぞ。どうやらこれは……腹を括った方が良いらしい」
潜水した『たいげい』は、そのまま誰にも気づかれることなく基地へ帰投。
進化したリヴァイアサンの本土上陸までを想定した作戦プランを、防衛省は遂に検討し始めた。
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