第71話・九州沖海戦①
「水中から炙り出す! 対潜ミサイル発射!!」
052D型駆逐艦『南京』、および054A型フリゲート『常州』は、合わせて10発もの対潜ミサイルを発射した。
白い軌跡を描いて、7キロ先の海面に次々とミサイルが飛び込んだ。
ブースターから分離した魚雷が、あっという間に目標深度へ到達。
––––ドッ、ドドドドドドンッ––––!!!
遠方で凄まじい水柱が発生した。
周囲に生物がいたならば、確実に被害が発生する規模の爆発だ。
日本の漁業など、特にどうでも良いということが表れていた。
「ソナー、目標はどうか?」
「爆音で何も聞き取れませんが、叫び声らしきものは直前に聞こえました」
水泡だらけの海面の下は、まさしく地獄だろう。
水中爆発は、生物を内部から徹底的に破壊するのだ。
しばらくすれば、瀕死の状態で海面に出てくるだろう。
艦長は勝利を確信しながら、水中ノイズの消滅を待った。
「艦長より艦橋へ、どうだ? 化け物は浮かんできたか?」
10分が経とうとしたところで、見張りに海上を確認させる。
もし死骸が浮いていたら、それでもう仕事は終わりだ。
––––そう思っていた。
「……艦橋より戦闘指揮所! 目標確認できず! 何も浮上してきません!」
嫌な汗が流れた。
まさか、あれだけの爆発を食らって無事なはずがない。
困惑する艦長に、レーダー員の声が入った。
「水上レーダーに感アリ! これは……船じゃないぞ、デカい!!」
同時に、艦橋からも報告が飛んで来た。
「目標健在!! 浮上と潜水を繰り返しながら、真っ直ぐこっちへ突っ込んでくる!! 速度25ノット!!」
この時点で、艦隊との距離は5キロを切っていた。
ミサイルの爆音に気を取られて、ソナーが接近に気づけなかったのだ。
「主砲で対処せよ! こっちは軍艦だ! 海警船の30ミリとは違う! 当たれば殺せるはずだ!!」
『南京』に搭載された、70口径130ミリ速射砲がゆっくり動いた。
「攻撃開始ッ!!」
強烈な炸裂音と同時に、主砲による攻撃が開始される。
そこそこの速度で連射されるが、ジグザグに泳いでくるリヴァイアサンにはまるで命中しない。
周囲に水柱を立てるだけだ。
「目標が潜水を繰り返すため、火器管制レーダーのロックが外れます!!」
「だったらマニュアルで撃て!! なんのための照準モニターだ!」
『南京』と『常州』は、必死に弾幕を張るがそもそも相手は正面に対して圧倒的に被弾面積が小さい。
それが、浮上と潜水を繰り返しながら突っ込んでくるのだから当てることは至難の技だ。
全長は尖閣で確認された時よりさらに大きくなっており、目測だけでも頭から尻尾まで200メートル以上ある。
リヴァイアサンとの距離が3キロに迫った時点で、動きが発生した。
「ッ!! 目標の背びれから何かが射出されました!」
「何かとはなんだ! 主砲が当たったのか!?」
「違います! 本艦へ目掛けて高速で接近––––これは飛翔体です!! 弾数4!!」
ここに来て、遠距離攻撃を仕掛けて来た。
だが、こっちは中国が誇る防空駆逐艦––––そんなものでやられはしない。
「CIWS発射! 撃ち落とせッ!!」
艦橋下部に搭載された、国産の30ミリ機関砲が火を吹いた。
毎分4200発以上の連射速度で、飛翔体を跡形もなく撃ち落とす。
だが、この隙にリヴァイアサンは潜水––––水面からロストしてしまった。
「取舵いっぱい! 次いでアクティブ・ソナーを打て! 位置がわかり次第魚雷発射!!」
艦長の指示で、『南京』のバルバス・バウからアクティブ・ソナーが発射される。
これで位置がわかる、そうすれば魚雷で今度こそ––––
「もっ、目標発見! ですが……!」
「なんだ、サッサと報告しろ!」
「敵……リヴァイアサン、僚艦『常州』の真下に確認! 一気に浮上しています!!」
モニターに外部カメラを繋げた瞬間、信じたくない光景が映った。
「あっ……!」
回避運動を行っていた054A型フリゲート『常州』が、真下から魚雷でも食らったようにへし折れたのだ。
浮いた艦体はそのまま海へ叩きつけられ、乗員が投げ出される。
尻尾が絡まり、艦後部を一瞬で海に引きずり込んでしまった。
竜のような顔が、水を引きずって出て来る。
艦橋が鋭利な牙に抉り取られ、そこにいた要員はおそらく全滅……。
絡みついた巨体の圧力を受けて、フリゲートの艦体がミシミシとひしゃげていった。
凄惨な光景を見て、艦長は冷酷に決断を下す。
「主砲発射用意! 目標、『常州』の前部VLS!」
「ど、同胞を撃つのですか!?」
「チャンスは今しかない! 弾薬庫の爆発であの怪物ごと吹っ飛ばす! フリゲート1隻の犠牲で済むなら安いものだ!!」
もうこうなったら、なんとしてもあの怪物を仕留めるしか帰国の方法は無い。
このまま逃げ帰れば、国家の尊厳を傷つけたとしてどうなるかわからないのだ。
政治が強力過ぎるあまり、軍の論理が平気で捻じ曲げられる異常な環境だった。
人民解放軍のプライドに賭けて、彼らはここで必ず仕留めなければならない。
「も、目標……『常州』の弾薬庫。照準よし」
「発射!!」
撃ち出された130ミリ砲弾は、キッチリ弾薬庫へ命中––––膨大な誘爆を発生させた。
獄炎と衝撃波が、リヴァイアサンを覆う……。
黒煙で満たされた画面を見て、艦長は確信した。
––––人民解放軍の勝利だ。
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