第70話・中国海軍東海艦隊
––––九州沖、日本のEEZ内のある海域。
日本が経済的主権を要する広大な海を、2隻の軍艦が堂々と航行していた。
白一色のそれは、まだ就役して年が浅いことを示している。
「ソナー、見張り。まだ反応は無いのか」
「ありません艦長、ですが……確かにこの辺りのはずです」
人民解放軍東部戦区、東海艦隊所属の052D型ミサイル駆逐艦『南京』は、7ノットの低速で航行していた。
イージス艦にも似た特徴的なレーダーを持つこの艦は、一般的に中華イージスとして知られる駆逐艦の改修型だ。
性能はあまり公にされていないものの、スペック自体は現代の防空艦に求められる機能を全て備えていた。
多目標交戦能力を持ったフェイズド・アレイ・レーダー。
64セルのVLS(垂直ミサイル発射装置)。
そして、日米の艦艇が持つ物より長射程の対艦ミサイルYJ-18A。
満載排水量7500トンの、中国が誇る自慢の駆逐艦だ。
「左舷前方より貨物船が接近、僚艦の『常州』は右舷3時を5キロの幅で航行中!」
この艦の隣には、同じく東海艦隊に所属する054A型フリゲート1隻が付いていた。
この艦も例に漏れず、全盛期だった頃の中国経済が産んだ量産型フリゲート。
武装などは052型を下回るが、少なくとも没落した欧州海軍の主力フリゲートよりかは強いと自負している。
武装は76ミリ速射砲を始めとして各種ミサイル、機関砲や魚雷などを搭載。
また現在使っているソナーは、1世代前のロシア製である。
少し不安はあるが、海警船を沈めた例の怪物を見つけるくらいなら使えるだろう。
「艦長……、日本のEEZ内で軍事行動って……本当に大丈夫なんでしょうか?」
『南京』の戦闘指揮所で、砲術長が不安気に尋ねてくる。
火力をつかさどる要員でありながら、奥手な彼を艦長はあまり好きではなかった。
一人っ子政策の弊害は、解放軍にも確実に出ているなと思う。
「我々の同胞が殺されたんだぞ、日本のEEZだろうが知ったことではない。臆病者の日本に何を怯えている?」
「しかし……、経済力は来年にも同等に並ばれるらしいじゃないですか。その時に問題を掘り起こされたら……」
日本に石油とレアアースが湧いたことで、かの国の経済は瀕死の老人から全盛の若者へと生まれ変わった。
IMFが発表した最新の今年度GDPは、中国が前年度比+2.3%なのに対し。
日本はなんと前年度比+67.6%という、目を疑う数値を記録していた。
来年の防衛費は間違いなく20兆円を超えてくることを思えば、確かに恐れるのもわかる。
だが––––
「良いか、これはチャンスなんだ。ここで我々があの怪物を仕留めれば、日本に対してダンジョンの管理能力を問うことができる。そうすれば日本の経済成長も止められるんだ」
「ですが……」
「ええい細かいヤツだな! 端的に言うぞ、このチャンスを逃せばもう日本に強気に出ることはできないんだ! 今ならまだ日本より我が国が優位だからな。だが後が無いんだ!」
中国としては、是が非でもダンジョンを国連管轄に置きたかった。
しかし、日本の発言を西洋列強を中心に一部の新興国までもが推している。
ここであのダンジョン由来と思われる怪物を中国の手で倒せれば、主導権はこっちのもの。
西側共の面子を潰し、移管工作が行える。
改めて腕を組んだ艦長へ、ソナーマンが叫ぶ。
「未知の音源を聴知! 本艦前方8キロです!!」
「音紋照合せよ、潜水艦じゃないよな?」
「米原潜じゃありませんね、海上自衛隊ならもっと静かです……音紋は少なくともオハイオ級、そうりゅう型––––どちらでもありません」
「目標増速! 深度120、18ノットでこちらに向かって来ます!」
来たかと、艦長は指示を出した。
「対潜戦闘用意!! 海警船の仇を取るぞ! 日本の邪魔が入らない内に––––我々中国がここで仕留める!!」
『南京』の前部VLSハッチが開く。
「目標を水中から炙り出すぞ! 対潜ミサイル発射っ!!」
ボンっと空中に撃ち出され、滞空した状態でロケット部に点火。
轟音と爆炎を上げて、『南京』から一気に5発ものCY-5対潜ミサイルが発射された。
僚艦の054A型フリゲート『常州』も、同様に5発を一斉射する。
白い軌跡を描き、ミサイルは7キロ先の海上目掛けて飛翔した。
中国軍は資料が少なすぎて困りますね。
054Aからは国家基準のVLSになってるはずなので、多分共通のミサイルが撃てたと思うんですが……。
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