第68話・オモテナシ
天を貫く摩天楼、道路を行き交う車という名の鉄の箱。
そして、どこを見ても果てまで広がる様々な種類のお店の数々。
人生で詰め込まれたことがない量の情報に、執行者テオドールは完全に打ちのめされていた。
「なんなんですかこの国は……、まるで神の住む都です。こんな巨大な街……なぜ信仰力の低い人間が作れるのですか……っ」
両脇を透と四条に挟まれながら、テオドールはフラフラと新宿を歩いていた。
ついさっき東京都庁を見に行ったところで、案の定彼女は、
「ほえ…………」
とだけ呟いて倒れかけた。
都庁のデカさを見て、腰を抜かしたのだ。
既に日本の能力はかなり思い知ったはずで、13歳のお上りさんには限界以上の情報を叩き込んでいる。
だが、透と四条はある命令を錠前から言い渡されていた。
その内容は––––
「徹底的に堕とせ、小さなガキに二度と立ち上がれないほどの強さで日本文化を刻み込め」
以上。
なので、コンビニのホットスナックや都庁でも本来はオーバーキルに等しいところ、
2人はテオドールに対し、手加減一切ゼロで次のスポットへ連れて行った。
もう十分わからせられたテオドールだが、これでもまだ足りない。
なにせ、時間はまだまだあるのだから。
「一体次はなんですか……、もう驚き疲れて虚無に落ち入りそうなんですけど……」
「安心しろ、そんな疲れたお前にピッタリの場所だよ」
透が開けたのは、“美容室”の扉。
個人経営のオシャレな店内に入ると同時、明るい声で店員が接客してきた。
「いらっしゃいませー、お名前をお願いします」
「10時半で予約していた新海です、今日はよろしくお願いします」
「新海……って、自衛隊の配信者? あの新海さんですか!?」
さすがに記憶力が高い職業、美容師さんは一瞬で透たちの正体を見抜いた。
今まで全くバレていなかったのに、完璧に看破された。
「日本の英雄さんに来てもらえるなんて、今日は記念日にでもしようかしら」
陽気な女性店員に、スマホを持った四条が近づく。
「一応今だけはご内密にお願いします、あっ。撮影って大丈夫ですか?」
「全然大丈夫よ、っということは……」
ビクビクと怯えるテオドールに、店員は膝を折って目線を合わす。
「この子が異世界人っていうテオドールちゃん? 雰囲気違うくて全然わかんなかったわ〜!」
ほがらかに笑った若い女性店員に、テオドールは思わず仰反る。
「ほえっ、あの……、そのっ。ちょっと近い……です」
「日本語上手ね〜、13歳くらいかしら? 動画の通りホントに異世界人なのよね? 体操服すごく似合ってるわー」
未知の存在との邂逅に、かなり興奮する店員。
あまりに喜ぶ姿を見て、彼女は思わず尋ねた。
「わ、わたしは日本を侵略しようとした敵……ですよ? なんで怖がらないんですか?」
「逆に聞くけど、こんな愛らしい女の子をどう怖がればいいの?」
「ッ……!!」
たじろぐ彼女の銀髪を、透が手で優しく撫でた。
「お前は今捕虜であると同時に、大事な観光客だ。日本人は旅行者にひたすら優しいだけなんだよ」
「り、理解できません……!! 今までの世界じゃ捕虜は拷問か死刑が普通でした……! おかしいです!」
「それはこの国じゃ非常識だな、っということで––––」
テオドールの背を押し、前に出す。
「こいつ、よろしくお願いします」
「まっかせなさい! 日本のオモテナシをたっぷり味わわせてあげるから!」
なされるがまま、困惑するテオドールへカバーが掛けられる。
ポニーテールが解かれ、床にも届きそうな銀髪が垂れた。
オモテナシの始まりである––––
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