第66話・テオドールとコンビニ飯
テオドールの日本観光が始まった。
市ヶ谷から出発した透たちは、電車でまず新宿へと向かった。
「凄い人……、これだけ大量の人間を高速で運ぶ乗り物を、こんな数動かすなんて」
「東京ではこれが普通ですよ、テオドールさん」
電車というものが初めてのテオドールに、四条が柔らかい口調で教える。
彼女の手には、撮影用のスマートフォンがあった。
「これが……。普通?」
東京の電車は世界的に見ても異次元だ。
何種類もの鉄道が、2分おきにホームへ入って来る。
地方から旅行に来た人間は、まずホームの多さに驚愕するというのが定番だ。
これでも、人口1300万人超を誇るメガシティの規格外な一面の1つに過ぎない。
新宿駅で降りた透たちは、あることに気がつく。
「そういえば早くに出たから、朝メシ食ってないな」
「そこにコンビニがありますね、適当に買いましょうか」
ここで、疑問符を浮かべたテオドールが透の服の裾を引っ張った。
「コンビニというのは、あそこにあるカラフルで露店のようなものですか? ずいぶんと色んな品物が揃っているように見えますが……」
「そうだよ、コンビニエンスストア。俺たち庶民の力強い味方だ。何か食いたい?」
「あっ、じゃあ新海さんが選んだのと同じ物をください……。種類が多すぎてわからないので」
「はいよ」
2人を置いて買いに行く透。
錠前にもらったカツ丼は確かに驚愕したが、よくよく冷静に考えてアレが庶民レベルとは到底思えない。
どうせ、自分をわからせるためにこっそり一流の食材を用意したに違いなかった。
だがこの東京という街なら、真に民間人の生活レベルがわかるというもの。
既に駅の巨大さに目を回していたテオドールは、最後に残った望みへ––––全ての願望をベットした。
しばらくして、透が袋を携えて戻ってくる。
白地の見たことがない素材だった。
「四条はおにぎり2個、俺とテオドールは“コンビニチキン”と豚まんだ」
紙袋に包まれたそれは、信じられないことに熱々だった。
出来立て……にしてはタイミングが良すぎる、どういう理屈かは知らないが、なんらかの手段で保温している……!?
恐る恐る袋を横に破ると、テオドールの目の前に衣を纏った鶏肉が現れた。
圧倒的な匂いの暴力が、化学調味料慣れしていない彼女の嗅覚を襲う。
「しょ、所詮は城下の民が食すもの……ここまで香りが強いという事は、きっと不味い味を誤魔化してるはず」
小さな口で一噛みして、健康な歯で噛み潰す––––
「ほえぇ…………?」
濃厚な濃い味のチキンに、拳でぶん殴られたようだった。
サックリとした衣の中に、信じられないほど脂の乗ったプリプリの肉があったのだ。
これまで色んな鳥料理を食べてきたが、これに比べれば全部腐っていたんじゃないかと思ってしまう。
夢中で頬張り、あっという間に完食してしまった。
「おっ、その様子だと……ジャンキーな食べ物が気に入ったか?」
透の言葉に、迂闊だったと赤面する。
「ッ……! こ、これくらいでわたしは屈服しません! 舐めないでください!!」
「はいはい、豚まんもあるぞ。からしは……とりあえず無しで良いか」
今度渡されたものも、やはり熱々だった。
ひょっとすると、この世界では保温という概念が当たり前なのか?
普通保温と言えば、超レアな魔道具の中に入れて極少量の食べ物を温め続ける王族専用。
いわばダンジョンマスターだけの特権だ。
それが……当たり前?
正直気が狂いそうだったが、次いで豚まんを齧ってみる。
「…………っ」
テオドールは、否応にも事実を突き付けられた。
「……普通とは?」
あまりに食事のレベルが高すぎる……。
これが庶民の味方? 冗談ならそうとハッキリ言って欲しい気持ちでいっぱいだ。
食べ盛りの自分にとって、これほどのご馳走は無い。
最初は毒を警戒していたのに、もう後半は「毒? こんなに美味しいので死ねるなら本望」とすら思ってしまった。
食べ終わった彼女を包むのは、表現しようの無い幸福感&降伏感。
これだけでも十分打ちのめされたが、テオドールの視界にあるものが入って来た。
「……1つお聞きしたいのですが」
「はい、なんでしょう?」
微笑む四条に、テオドールはゆっくりと人差し指を20メートル先の店へ向けた。
「あっちにあるものも……、もしかしてコンビニですか?」
「そうですよ」
「きょ、距離がおかしいです! なんでこんなえげつない店が数十メートル単位で乱立してるんですか!?」
「まぁ、都会ですし」
「それで済まして良いのですか!? こんなのが乱立する国ってなんなんです! もう色々とおかしいですよ!!」
そうは言っても、東京ではこれが普通なのだから仕方ない。
頭を抱えるテオドールの手を引っ張り、透たちはようやく駅外へ出た。
「…………ほえ」
新宿の超高層ビル群を目にして、執行者テオドールは遂に膝を砕かれた。
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