第63話・ベルセリオンの愉悦
––––ダンジョン内部 とある場所。
豪奢な階段を登っていたのは、部下のゴブリンを付き従えたベルセリオンだった。
サイドテールの蒼髪を振りながら、機嫌悪そうに喋る。
「で、テオドールの行方はわかったの?」
妹がラビリンス・タワー攻略と同時に消えて、もう1週間以上が経った。
最初は殺されたかと思ったが、“リンクした魔力”が彼女の生存を示している。
なので、休暇を取り消した情報部に捜査させていたのだ。
「はい、テオドール様は生きておられます。詳細は不明ですが……おそらく日本人に捕まったのかと」
「捕まった? 本当に?」
「可能性は高いです、なぜ転移魔法で戻って来れていないかは分かりませんが……」
ダンジョンの情報部に所属するゴブリンは、心配気な表情で聞いてみる。
「救出部隊を送りますか? 奴らのアジトなら判明しておりますので。もしダンジョン外に連れ出されたらそれも難しくなります」
ゴブリンの提案に、ベルセリオンは笑いながら手を横に振った。
「フッフ、必要ないわ。あんな野蛮で低俗な連中に捕まるなんて––––不出来な妹を持つと苦労するわね」
「えっ、では……」
「言ったでしょう? 必要ない。わたしから指揮権をコッソリ奪った挙句に負けた出来損ないよ? マスターもきっと愛想を尽かしたに違いないわ」
ベルセリオンからすれば、これほど気持ちの良い話は無い。
これまで侵略した世界の戦いでも、肝心なところはいつもテオドールが担当していたのだ。
アイツがいなくなれば、自動的にトップになれる。
功績を上げて、どこかのタイミングに片手間で救出すれば良いだろう。
いずれにせよ、今テオドールに帰って来られては自分の完璧な戦略に支障が出る。
ゴブリンと別れた彼女は、自室のドアを閉めた。
「フフッ、ようやくうるさい妹がいなくなったわね。今日は気分が良いから特別なお菓子を食べようかしら♪」
そう言って、棚から出したのは乾燥したクッキー。
何か良いことがあった時のために、前の世界で奪った物をとって置いたのだ。
しかしこのクッキー……、見た目は良いものの中身は質素極まっていた。
バターなどという概念は無く、必要最小限の素材で作られた“クッキーもどき”だ。
王族用の物を奪ったのだが、世界のレベルが低かったからかこれでも豪勢な方である。
もちろん、砂糖なんて高級品はごく少量しか入っていない。
下手をすれば乾燥した粘土のような風味だが、ダンジョン運営にしてみればご馳走である。
モグモグと口で頬張り、これまた匂いの薄い紅茶を嗜む。
「あー愉快極まるぅ、テオドールは今頃どんなに酷い食事を与えられているのかしら? ププッ、ひょっとしたら豚の餌でも食わされてたりして」
捕虜になった妹の現状を想像するだけで、ベルセリオンにとってはメシウマである。
これでようやく、邪魔されず本領が発揮できるというわけだ。
「自衛隊など恐るるに足らず、赤字を覚悟したら簡単に倒せるわね。今までは手加減してただけだし、明日から本気出せば余裕よ余裕」
クッキーを食べ終わり、紅茶で流し込む。
そろそろ嗜好品の備蓄が尽きて来たので、良い加減日本人から何か奪わなければならない。
劣等種族でも、少しくらいは良いものがあるだろう。
ここからが反撃だ、気合い十分で意気込んだところに––––
「しっ、失礼します!!」
ドアがノックされた。
背中に嫌な汗が流れる。
このくだり……前にも一度あったような。
「なに? 変な問題でも起きた? 大した用じゃないならわたしのティータイムを邪魔しないでくれる?」
入室を許可すると、さっき別れたゴブリンが大汗をかきながら叫んだ。
「大変ですベルセリオン様!! 我々が今いるこの『情報集積城』のカモフラージュが解けています……! これでは敵に丸見えです!!」
ベルセリオンはしばらく黙った後、イラつきと共に声を出す。
「どうしてそんな重要な情報が今になって判明したの……?」
「ベルセリオン様が嗜好品をこの城に移すからと、情報部の大半を荷物持ちに使ったからじゃないですか……!」
そうだった、隠蔽魔法のあるこの場所を保管場所に先日選んだのだった。
いや、それにしても気づくのが遅くない?
「原因は?」
「ラビリンス・タワーで稼働していた『Rクリスタル』が破壊されたので、大規模結界の維持が困難に……!」
ため息を吐く。
どうして自分の周りには仕事のできない無能が多いのだろうか、これも有能な人間の定めなのだろうか。
心中で呟いたベルセリオンは、仕方ないと魔法陣を展開した。
「わたしの魔力でここを隠します、周囲の雪景色と合わせれば余裕で誤魔化せるでしょう」
ドヤ顔で魔法を発動したベルセリオンは知らない。
世の中に、完璧というものは存在しないのだと……。
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