第61話・囚われの少女、舌まで捕えられる
たくさんの感想ありがとうございます!!
返信が追いついてないのですが、書いてもらった感想はちゃんと全て読ませて貰っています。
驚愕したテオドールは、思わず机から立ち上がる。
「こ、これが一番安い……!? この世界で最上のモノではないと!?」
「うん、隊員からは結構人気だけど値段なら安いね。日本じゃ誰でも食べられる一般的な食事だよ」
しばらく硬直した後、テオドールは脱力して椅子に座る。
錠前の言葉は、彼女に信じられないほどのインパクトを与えていた。
「に、日本では……このレベルの食事が誰でもできて当然なのですか?」
「そうだねぇ、なんなら専門店に行けばそれよりもっと美味しいカツ丼が山ほどあるよ」
椅子に崩れ座り、あり得ないと心中で呟く。
食事のレベルは、その国の力を表す指標と言っても良い。
それがこの水準で普通となると、あまりに話が変わってくる。
テオドールは、最も聞きたくないことを恐る恐る尋ねた。
「まっ、まぁ少数精鋭の民族なら納得のクオリティですね……。ちなみに聞きたいのですが、日本人の人口はいくらくらいなのです?」
「今だと1億2千万人ってところかな、少子化が進んでてこれ以上は望めないが」
「い、1億以上の民がこのレベルの食事をできると!? あり得ません!! どんな魔法でも不可能です!」
「まぁ、ウチの国は特に食事にはこだわるからね……日本人の舌は世界一繊細だって言うし」
こだわるとかそういう話ではない、今までいくつもの世界を渡って来てこんな物は初めてだった。
カツ丼だけではない、テオドールは空のコップを持ち上げた。
「み、水も……最上級の魔法で浄化しているのですか!? こんなに臭みの無い水は飲んだことが無いんですが……!」
「ん? それはただのミネラルウォーターだよ。食堂のウォーターサーバーから普通に出てくる」
「出てくる!? 専用の井戸があるの?」
「面白いなー君、井戸じゃないよ。日本じゃレバーを捻れば美味しい水がいつでも飲めるなんてごく普通のことだ。そんなに驚くことじゃない」
ワナワナと震える執行者。
次元が違いすぎた……、生活水準があまりにも高すぎる。
テオドールの常識では、水を炎属性魔法で沸騰させてから飲めとマスターに言われていた。
理由はよくわからなかったが、そうしないと体調を崩すのが普通だと。
それが、レバーを捻るだけで飲み放題!?
水資源もダンジョンの大切な財宝だが、少なくとも日本人は飲み水に困っている様子が全く感じられない。
「じゃあもっと驚かせてあげよう」
錠前がカメラに合図すると、またも自衛官がトレーを持って入って来た。
空のどんぶりが下げられると同時、テオドールの前に毒々しい紫色の液体がコップに入れて出された。
一瞬猛毒を疑ったが、冷静に匂いで嗅ぎ分ける。
「これは……、葡萄ジュースですか?」
「そうだ、飲んで良いよ」
「ッ……」
さすがに舐めすぎでは無いだろうか。
葡萄ジュースなど、これまで13年歩んで来た人生でいくつも飲んできた。
これで文明差を感じるわけが……。
「ほえ………………?」
一口飲んで、舌の上を風味と甘みの暴力が襲った。
あり得ない、ただ絞っただけでこんな濃厚になるわけが……!
「それは僕もお気に入りのジュースでね、ワインを作る過程の余剰から生産されたちょっと高いやつだ」
「わ、ワインの余剰……!? それだけでこんなに違うのですか!?」
「葡萄の品種の違いもあるし、ちゃんと砂糖も入ってるから飲みやすいだろう?」
「さ、砂糖って……あの砂糖!? そんなレア物質を気軽に!?」
「日本のジュースにはゼロカロリー以外全部入ってるね、残りも飲んじゃって良いよー」
言われるまでもなく、テオドールは全て飲み干した。
全身を包むのは、圧倒的な幸福感と……屈辱的なほどの文明差から来る絶望感。
ダメだ、一刻も早くマスターに知らせなければ。
こんな世界と戦っても……。
テオドールは己の中の魔力が、食事によって補充されたことを確認した。
「食事には感謝します……錠前1佐、情報はマスターと共有させていただきますよ。あいにく––––ここに長居するつもりはありませんので」
正直もう元の食事に戻れる気が一切しなかったが、後ろ髪を引かれながらも決意。
テオドールは席を立ち、詠唱した。
「『相転移次元跳躍』!!」
やはり日本人は詰めが甘いと思い、一瞬目を瞑って––––
「……………………ほえ?」
目の前の景色が一切変わっていなかった。
それどころか、魔法が発動した様子さえ無い。
おかしい、魔力は確かに溜まって––––
「無駄だよテオドールくん、君はもう魔法使えないからさ」
「どういう……ことですか!」
そこまで言って、右腕に付けられたブレスレットに目が行く。
まさか……!!
「君の魔法を阻害する……、言うならば”魔導具“を付けさせてもらった。壁を殴っても無駄だよ、そんな細い腕じゃどうしようもない」
「なぜ、どうやってそんな……」
顔を青ざめるテオドールに対し、錠前はポケットからある物を取り出した。
それは、ダンジョンのモンスターが死んだ際に出現するアイテム––––
「魔法結晶と我々は呼んでいるが、最近やっと技研が活用法を見つけてね。君に付けたのは、触れている者のあらゆる魔力行使を阻害するものだ」
ペタンと床に座り込むテオドール。
絶望へ叩き落とされた彼女へ、錠前は話しかけた。
「そういうわけで、君にはこれからある部屋へ行って貰います。君の運命を決める––––審判の場所へね」
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