第6話・全身全霊の戦い
ボスエリアでの戦闘となった透たちは、銃という武器を使うには非常に狭い空間で戦闘をしていた。
「こいつ……!!」
人間離れした速度で詰めて来た騎士へ、透は片手で発砲しながら四条を押し退ける。
「隊長!!」
叫びながら64式を構える坂本。
振られた剣を、なんと透は20式小銃に付いた“銃剣”で受け止めていた。
今まで木刀しか向けられなかった人生において、初めて刃と向き合う……!
「おっもッ……!! しょうがねぇ……! 坂本!!」
鍔迫り合いに持っていき、眼前の騎士を釘付けにする。
透の命令に、坂本はバネのような瞬発力で応じた。
すかさずトリガーを引き、数発の7.62ミリ弾を発射する。
––––ガギギィンッ––––!!!
弾丸は全てが騎士の頭部に当たり、鎧にヒビを入れる。
だが、坂本は思わず舌打ちした。
「ヒビだけかよ……! どんだけ丈夫な鎧着てんだ!」
しかし、透が反撃するには十分なストッピングパワーであった。
「おっらぁぁあッ!!!」
小銃を振り、騎士の剣を全力で弾く。
一歩下がって、今度はこちらから仕掛けた。
「これならどうだ!」
一気呵成に突撃し、フルオートで撃ちまくりながら距離を縮める。
空いた破口に銃剣をブッ刺し、さらにトリガーを弾き続けた。
車も容易に貫通する弾を、これだけの至近距離から食らって生きられる生物は普通いない。
もちろん騎士にもダメージはあったらしく、鎧の割れ目から瘴気が溢れ出した。
それでも、相手はその場で踏ん張って倒れない。
さらに悪いことに、透の30発マガジンが空になったのだ。
「くそ……!」
仕留めきれなかった。
一旦距離を取ろうにも、刺した銃剣を抜くのに時間を掛け過ぎた。
無防備な透に、鋭利な剣が高速で落ちてきて––––
「だああぁぁあああ––––––––ッッ!!!」
––––刺さることはなかった。
何故なら、後方にいた四条が拳銃を片手に体当たりし、さらに言えば唯一の武器である『SFP-9』自動拳銃を超至近距離から連射したのだ。
「今です! 新海3尉!!!」
「ッ!!」
四条のSFP-9の残弾が空になる。
だが、透にとっては十分過ぎる時間だった。
「オオォォオオオオッっっら!!!」
抜いた銃剣をもう一度中身へ突き刺し、さらにほんの1秒ちょっとというあり得ない高速でリロード。
傷口へ押し当てながら、ライフルを発砲した。
「守護者か何か知らねーけど」
首を折り曲げ、伸びて来た剣をギリギリでかわす。
直感で感じる、相手も必死だ。
汗が滝のように流れる中、透は発砲を続けた。
「こっちはこのデカブツを、東京から退けなきゃなんねーんだよッ!!」
ブーツによる蹴りを放ち、銃剣を勢いで抜くと同時に発射。
騎士がいよいよフラついたところで、横から飛翔して来た7.62ミリ弾が剣を弾き飛ばす。
今の今まで呼吸を整えていた坂本が、地面にバイポッドを立てた最適の状態で狙撃したのだ。
「隊長!! 今です!」
仰け反った騎士へ、透は全力の右ストレートを鎧の隙間へねじ込む。
「お前の負けだ」
騎士の身体の中で、握っていた“手榴弾”を手放す。
透が手を引き抜いた瞬間、相手の体内で凄まじい爆発が発生した。
これまで驚異的な耐久力を見せていた騎士だが、とうとう両膝を地面につく。
動かなくなった相手へ、透は装填を終えた20式小銃を突き付けた。
「敬意を表するよ、どうか––––安らかに」
銃声が響いた。
騎士が倒れると、亡骸は大量の結晶へと姿を変える。
ほぼ同じくして、広場を覆っていた赤い壁が消え去った。
その場で座り込む透に、四条が近寄る。
「命知らずですね……」
「はぁっ、お互いにな……。おかげで助かったよ」
「いえ、わたしも認識を改める必要がありそうです」
手を差し出した四条は、可憐な顔を綻ばせた。
「貴方は最高の護衛です、新海透3尉」
伸ばされた手を掴みながら、透はゆっくり立ち上がる。
こちらの戦闘を察知したのだろう、LAVのエンジン音が近づいてくるのがわかった。
「そりゃどうも、あと帰ったら絶対休暇取ってやる。さすがに疲れた」
「えぇ、おかげで配信も無事終えられそうです。任務は完了––––」
「あぁっ!!?」
言いかけた四条の言葉を、坂本の絶叫が遮った。
「なんだよ坂本……、もう驚くことなんか無いだろ」
「いや、それが……隊長」
私物のスマホを睨みつけた坂本が、画面をこちらに向けてくる。
そこには––––
【新海3尉ナイスファイト!! やっぱ自衛隊ツエエ!!】
【四条2曹の援護も良かった! 女性なのによく頑張った!】
【援護と言えば坂本3曹もだろ? 最後の狙撃マジかっけぇ】
ガッツリ出される3人の名前。
2人の背を、戦闘でも感じなかった冷や汗が流れる。
黒い瞳を逸らした四条が、ポツリと呟いた。
「ミュートにするの……、忘れてた……」
後に第1エリア攻略戦と呼ばれるこの戦いは、3人の名と勇姿をバッチリ全世界へお届けした。
最終同接数は1億2000万人、アーカイブ視聴数は3億5000万再生を叩き出す動画となる。
そして、新海透という一介の自衛官が、世界に知られる瞬間だった。