第58話・尖閣諸島の日常、現れた異変
––––沖縄県石垣市 尖閣諸島。
日本の南西海域に広がるこの島々を巡って、日本と中国は日々しのぎを削っていた。
元々ここは日本固有の領土であるが、2012年に国有化して以降––––中国漁船による体当たり事件を機に領土問題化した。
日本人にとって、中国海警の船が領海侵犯をすることは、残念ながら日常茶飯となっている。
「中国め……、また調査船を持って来たぞ。どこの海でも自分の庭のように振る舞いやがって」
海上保安庁 第十一管区海上保安本部所属。
巡視船『なぐら』は、そんな荒んだ日常と化した尖閣諸島警備を行っていた。
この巡視船は海保でも重武装の類いであり、ブッシュマスターⅡ30ミリ単装機関砲と、20ミリ多連装機関砲を有した海上警備において十分な戦力を持つもの。
増大する中国海警に対抗して尖閣へ配備された船だが、正直言ってこれでも不足しているというのが現状だ。
現在、日本はダンジョンの恩恵によって圧倒的な経済成長を行なっており、海保は大型巡視船を中国以上のペースで建造している。
しかし、船というのは一朝一夕で出来上がる物ではない。
今現在においては、戦力差で正直ギリギリというのが海保の実情だ。
「僚船の『あぐに』と連携するぞ、両サイドから圧力を掛ける」
領海侵犯を行ったのは、中国海警船2隻と調査船1隻。
特に海警船については、大口径機関砲を確認していた。
「中国調査船、水中ドローンを投下しようとしている模様」
やはりか、という思いが湧く。
ダンジョンの恩恵により、日本は天然資源が溢れる資源大国へと変貌した。
それを一番面白く思っていないのが、何を隠そう中国である。
特に最近出現したレアアース泥は、中国の独占していた市場を日本が奪うに十分。
相当根に持っているのが感じられた。
もしかしたら尖閣にも、膨大な資源が湧いているんじゃないかと中国は睨んでいるのだ。
「電光掲示板にて警告せよ、次いで無線だ!」
船に搭載された掲示板が、日本語と英語、中国語で領海から出るよう警告する。
だが、相手はその一切を無視していた。
『なぐら』と『あぐに』は左右から挟み込むように展開するが、中国海警船も最近練度が上がって来ている。
絶妙な距離感で、海保巡視船が調査船に近づくのを阻止していた。
「目標、ドローンを投下!」
「無線にて警告する、通信開け!」
『なぐら』は眼前の調査船へ向け、回線を開いた。
相手の国籍は分かりきっているので、最初から中国語で叫ぶ。
《这是日本国海上保安厅巡视船! 贵船现在侵犯了日本的领海,请立刻撤离!(こちらは日本国海上保安庁巡視船である! 貴船は現在日本の領海を侵犯している、ただちに退去せよ!)》
この無線に対して、海警船からすぐさま応答が返ってくる。
《这里是中国海警局! 包括钓鱼岛在内的尖阁群岛自古以来就是中国的固有领土! 立刻撤离并远离本船!!(こちらは中国海警局である! 魚釣島を含む尖閣諸島は古来より中国固有の領土である! 即刻退去し、本船から離れられたし!!》
もうすっかり慣れたやり取りだったが、いつ聞いても腹が立つ。
国有化以前は何も言って来なかったくせに、今さら領土的野心を剥き出しにしてくるのだ。
ここまでされても、エスカレーション回避のために海保は機関砲1発すら撃てない。
もしここで撃てば、次に領海侵犯してくるのは海警じゃなく“人民解放軍”だからだ。
もし解放軍が来れば、必然的に日本は海上自衛隊を出さざるを得ない。
もしそうなれば、軍事的紛争に繋がりかねないのだ。
だからこうして、いつも通り中国の暴挙を見守るしかできない。
––––そう思っていた。
「見張りより艦橋! 島の影に今なにか見えました!」
「影だと? 民間船舶じゃないよな?」
「いえ……、それが全長は船のように大きかったのですが、潜ってしまいました」
「なおさら見間違いじゃないのか? ここに解放軍の潜水艦が来てるとでも? まさか海自でもあるまいし」
だが、ここに来て中国調査船の動きが変わった。
何やら甲板で騒いでおり、せっかく投下した水中ドローンを大急ぎで回収している。
海警船が外に広がり始めたので、『なぐら』と『あぐに』も距離を一旦取っていく。
機械的なトラブルでも起きたのだろうか……、そう思った瞬間だった。
「えっ?」
一言で表すなら、目の前の中国調査船が縦にへし折れた。
より正確に表現するなら、浮かんでいた船が真下から魚雷でも食らったように突き上げられたのだ。
「取舵いっぱい!!」
粉砕された調査船の破片が、巡視船に音を立てて落ちてくる。
『なぐら』の見張り員が直後に見た光景は、想像を絶していた。
「なんだ、アレは……」
記録用のカメラを回す。
オイルだらけの海面を、投げ出された中国人が浮かんでいた。
そんな彼らを、現れた巨大な大口がバクリと飲み込んでしまったのだ。
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