第57話・溢れ出す資源(2)
透たちがラビリンス・タワーを遂に攻略したと同時、日本領内の浅瀬がしばらくの間、眩く光った。
衛星や航空機で確認された発光現象は、ダンジョン関連のものだろうと即座に判断。
これを受けて、東京大学が発光した水深50メートル地点のある海域に調査船を派遣。
普段なら特に何も無いところだが、水中探査ロボットがカメラに映したのは見慣れない物質だった。
「なんだこりゃ、大量にあるぞ……とりあえず引き上げてみよう」
すぐさま海底の泥を引き上げ、随行していた教授に見せる。
ただの泥かと思いつつも、念の為に成分分析を掛けてみたところ––––これがただの泥ではないとわかった。
「おいこれ……! “レアアース泥”だぞ!!」
レアアースとは、レアメタルの仲間である。
現代において必需品である家電や、軍事に使う最先端技術に必須の素材だ。
主に軽レアアースや重レアアースと分けられるが、重レアアースは特に重要だった。
「まさかこの浅い海域にあるの、全部高濃度レアアース泥か!? 大発見だ!! こんなの……世界の市場がまた変わってしまう!!」
これまでレアアースは、その殆どを中国が供給して来た。
他の国にも鉱山が無かったわけでは無いが、レアアースは発掘の際に放射線被害が発生してしまう。
それを一切構わずに開発を続けた中国が、当然レアアースのシェア率トップに立ったわけだ。
今や、高度製品を作るのに中国無しでは考えられないというのが世界の常識である。
しかし、そんな常識をひっくり返すのがこのレアアース泥だ。
これは、鉱山で採れるものよりも遥かに高濃度でありながら、なんと放射線被害が殆ど発生しない。
安全かつ、クリーン。
まさに夢の資源だったわけだが、今まで深海にしか存在しなかったので実用化できていなかった。
それがこんな浅瀬に、しかも超広範囲にあると来た。
教授は興奮を隠しきれずに叫ぶ。
「すぐに本土へ知らせろ! 大ニュースだ!!」
その日の夕方に流れたニュースは、文字通り日本国民を驚愕させた。
【速報、日本のEEZ内で年間使用量300年分以上のレアアース資源が発見される】
浅瀬なので採掘は非常に容易、分離技術も長年研究して来たおかげで実用化は可能。
日本は石油利権を中東からかっ攫った時と同じく、中国の一大輸出業をも叩き潰してしまった。
これにより、台湾に本社を置くTSMC半導体製造会社はさらに日本への追加投資を決定。
半導体最大手のアメリカ、オランダも相次いで日本への追加投資を打診。
これにより、半導体製造の重要拠点がますます日本へ集中することとなる。
2023年には熊本県でTSMCバブルがあり、地価が4倍に増えたが今回はその比じゃない。
日経平均株価は異例の6万5000円台へ突入し、日本国内全体の地価が例年を超える勢いで急上昇。
追加で、日本は発見したレアアースを国内産業を第一としつつも、中国より安価で輸出することを決定。
当然欧米などが群がるように購入を決定し、ほんの僅かな期間で世界のレアアース市場––––その半分以上を独占してしまった。
さらに莫大な収入増によって、経済効果は膨大なものへ。
政府は成長減税をさらに施し、日本経済の中心である内需の発展を企図。
研究予算の大幅増加も行い、各大学で深刻化していた予算問題も一気に解決へ向かう。
基礎技術から宇宙分野などの先端技術、さらにはダンジョン攻略のための研究も促進させた。
プラス追加補正予算で、トマホークやJASSM-ER、12式長距離ミサイル。
2000ポンド誘導爆弾、JSMミサイル、国産極超音速ミサイルの購入を大幅拡大。
政府はダンジョン攻略こそ国家の大事と定め、“さらなる最新兵器”の投入も予定していた。
これに中国が激怒し、報道官が遺憾の意を示す一方でアメリカは支持を表明。
「ダンジョンは日本の主権によって完璧にコントロールされており、国連への移管は必要ないと合衆国は判断する」
国連管轄を希望していた中国は、この声明によって目論見を挫かれることになる。
もちろん、この言葉の見返りとして米国にはレアアースの優先購入権が与えられた。
そんなアメリカの声掛けで、
G7を含めた他の国も、続々と日本のダンジョン攻略を支持。
レアアース市場を失った中国のGDPは、一気に下方修正を食らうことになる。
日本の資源輸出によって、西側社会は中露の依存からとうとう離脱しつつあった。
この時点で、中国の経済成長スピードから2倍以上の差をつけて日本は大発展を開始した。
57話を読んでくださりありがとうございます!
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」
と思った方はブックマークや感想、そして↓↓↓にある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』を是非『★★★★★』にしてください!!
特に★★★★★評価は本当に励みになります!!! 是非お願いします!!




