第55話・VSテオドール
「また知らないガキが来たな……、しかも初対面でいきなりブチ切れてるし」
64式を構えた坂本が、気怠そうに呟く。
一方でいきなり現れた少女は、本当に憤慨しているようだった。
話を聞く限り、どうも自衛隊が素直に下層を彷徨うと思っていたらしい。
そんな彼女に、透は躊躇なくライフルを向けた。
「初めましてだなテオドール、お前は姉よりかは少しマトモだろうけど。“航空輸送”って概念は知らなかったらしい」
彼女とリアルに会うのは初めてだが、透はテオドールのことを知っていた。
ベルセリオンによる駐屯地襲撃があった夜、事の詳細を錠前1佐から聞いていたのだ。
そして––––“無茶振りな頼み事”も。
「こっちも予想外でした……、まさか人を運べる空飛ぶ馬がいたなんて……。おかげでこのエリアの財宝は完全に放たれてしまった」
「1つ聞きたいんだけどさ、俺らの航空戦力見ただろ? なんで空から来るって予想できなかったの?」
「聞きたいのはこっちです。ここに至る階段が無いのは“秘密”のはず、だからわたしは下層へトラップを設置したのに……一体どんな盗聴魔法を!?」
「あー……」
ドットサイトを向けながら、透は数日前のことを丁寧に教えてあげた。
「下層の死神を倒した時、現れたお前の姉ちゃんが全力で口滑らしてたぞ……。“ここに来る階段は無い”って、だからヘリで来たんだよ」
数秒の沈黙の後、テオドールは足元の床を怒りのまま踏みつけた。
硬い石が砕け、大きくヒビ割れる。
「あのバカ姉……!! 攻略不可能とだけ言えば良いのに、なんで階段が無いのまでバラしちゃうんですか!!」
「今からでも遅くないぞー、もう降伏して良いから。クリアされたエリアを守る理由だってもう無いはずだろ? 今投降したらお菓子あげるぜ」
透の誘いに、テオドールは笑みを見せるでもなく目を細めた。
「だからこそですよ、こうなった以上––––貴方達をここから生かして帰せません。せめてその命を、ダンジョンの財宝として新たに補充します!」
「そうか」
叫んだテオドールへ、自衛隊はライフルを一斉に発射した。
高性能な光学機器と、練度の高い隊員。
何よりこの距離だ……、決して外すわけもないのだが。
––––ガキキキィンッ––––!!!
テオドールの周囲に浮かんでいた魔法陣が、彼女を銃弾から守った。
驚くことに、5.56ミリ弾を完全に弾いている。
「わたしは、わたしの持てる全ての神秘をぶつけます! ここで自衛隊と相打ちになったとしても!!」
さらに彼女は、足元から数十体の武装したゴブリンを召喚した。
いずれもエメラルドグリーンの防具を着ており、銃弾数発では致命打にならない。
効きはするが、テオドールの召喚スピードがこちらの倒す速度を上回っている。
「参ったな……。あの子捨て身だぞ」
「しかも遠距離攻撃は不可、隊長……結構ヤバめですよこれ。追い詰められたガキほど怖いものはありません」
銃声が響く中で、透は思考を巡らす。
湧き続けるモンスターに、銃弾を無効化するテオドールの魔法防御。
消耗戦を強要されれば、困るのはこっちだ。
なにせ逃げ場が無いのだ、銃弾が尽きたら一気に不利となる。
「……坂本。お前は断固としてカメラマンの四条を守れ、この場で一番火力があるのはお前の64式だからな」
「良いですけど、何か妙案でも思いつきました?」
「まぁな、––––久里浜!」
マガジンを抜いていた彼女が、「えっ」と新海の方を向く。
「お前の近接戦能力を借りたい、やれるな? “特戦の狂犬”」
新海の問いに、プラスチックマガジンを銃に叩き込んだ久里浜が答える。
「当然じゃない! こんなイレギュラーもう慣れたわ。命令をちょうだい––––新海隊長!」
作戦は決まった。
遠距離がダメなら、取れる手段は一択––––
「四条! 坂本!! 俺と久里浜に寄るゴブリン共を全て撃てッ! 命令だ––––1発も外すな」
2人は、銃に弾を込めることで答えた。
「もちろんです、こんな距離で外せば四条家の名折れ。必ず全弾当てて見せます」
「隊長の命令なら何でも聞きますよ。おい久里浜、隊長の足引っ張んじゃねぇぞ」
「アンタの誤射の方が怖いから! その高そうなスコープでしっかり敵に当ててよね!」
ゴブリン群と交戦する他の自衛隊員たちが、合図で一斉に腰の手榴弾を投げた。
爆発の壁が出来上がったと同時、透と久里浜が思い切り床を蹴る。
作戦は単純明快––––攻撃が届く距離まで、全速で突っ切るのみ。
神秘も魔法も知ったことではない、国を守るために鍛え上げた技術で……理不尽を圧倒する!!
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