第52話・炸裂、新型砲弾!
完全防備の防空網、その一部が破られた。
改めて自衛隊と戦い、テオドールはいかに自分の相手が強大かと実感する。
「やはり神の矢を撃ってきましたか、深追いさせたのは間違いでしたね……」
タワーの中で戦況を確認していたテオドールが、苦虫を噛み潰したような表情をする。
まさか、矢をワイバーンから7キロも離れた場所で発射するとは思ってもいなかった。
炎の矢は寸分違わぬ精度で、敵スパイ精霊を殺そうとしたワイバーン部隊を射抜いた。
「航空部隊が無くなった今……、砲台だけでの守備は困難。ここで使いたくなかったけど……主力を回すしかない」
テオドールが魔法陣をいくつも広げると、固定砲台正面の地面に大量の幾何学模様が浮かび上がった。
「『召喚魔法』!!」
花型固定砲台前に現れたのは、全身をエメラルドグリーンの盾と鎧で武装したオーガだった。
体長は驚異の5メートル越え。
纏う武装は、神秘特性によってあらゆる物理的ダメージを軽減する優れものだ。
“ダンジョンマスター”の能力から作られたもので、これ以上の防具は存在しない。
これなら、あの神の矢だって防げるだろう。
オーガの数が40体を超えた時、異変は起きた。
「偵察精霊が帰って来た……? 懲りずにまた防空網へ突っ込んでくるなんて……」
先ほど追い返されたスキャンイーグルが、またもラビリンス・タワー上空を旋回していた。
当然魔法攻撃を集中させるが、テオドールは必死に思考を巡らす。
「もうこちらの戦力はわかったはず、なのに引き返してくるなんて……何が狙い?」
対空魔法の攻撃は命中率が悪く、なかなか当たらない。
だが裏を返せば、自衛隊にも打つ手が無いこととなる。
砲台と神秘を纏ったオーガなら、十分正面から戦えるだろう。
テオドールが僅かな希望に縋った時、自衛隊陣地が行動を開始した。
「撃てっ!!」
––––ドパパパパンッ––––!!!
99式自走155ミリ榴弾砲が、一斉に火を吹いたのだ
高速で飛翔した砲弾は、あっという間にラビリンス・タワー上空へ。
通常なら限定的な範囲を殺傷するだけの物だが、今回は違った。
10発の砲弾は、オーガや砲台の上空で炸裂––––“白いガス”を一斉に散布する。
オーガたちは、ただの目眩しかと思い––––敵の突撃に備えた。
それはテオドールも同様で、接近するための煙幕だろうと判断。
鉄の象の襲来を懸念したが、次に起きたことは想像の遥か上だった––––
「“着火弾”––––弾着、今っ!!」
続けて飛んで来た2発の砲弾が、ガスの中で爆発。
目を疑う現象が起きた。
「えっ……!?」
広範囲のガスが一気に燃え上がり、まるで爆裂魔法を彷彿とさせる規模で爆炎が発生する。
12気圧、摂氏3000度という規格外の熱波と衝撃波が、神秘を盾とするオーガ部隊を残らずバラバラに砕いた。
スカイ・ランス固定砲台も同様で、範囲内にあった物は根っこから爆風によって消し飛ばされる。
離れていたところにいたオーガですら、酸素欠乏によって即死させられた。
衝撃波が目に見えるレベルで周囲に広がり––––、爆心地を墓地へと一変させる。
後に残ったのは、大量の結晶と焼け焦げた草原だけだった。
テオドールに絶望の冷や汗を流させたのは、自衛隊側が撃った弾頭に秘密があった。
「“サーモバリック弾頭”、命中を確認––––敵防衛部隊は壊滅した模様!」
報告が行われる。
自衛隊が撃ったのは、先日アメリカから試験用に譲渡された“気化砲弾”だった。
これは、ハロゲン酸化剤やマグネシウム粉を混ぜた気化爆薬であり、
広範囲に散布したガスを着火させ、簡単に言えばそのまま大爆発させる大規模破壊兵器。
代表的な物で言えば、ロシアがウクライナで使用しているTOS-1Aサーモバリックロケットが有名だろう。
あまりに高い威力を持つこれを、アメリカはウクライナに供与する目的で開発した。
ロシア軍を相手に投入する前に、ダンジョンでいかに効果があるかをアメリカから検証依頼されたのだ。
無論、全ての弾薬費は米国に負担して貰った。
「第2射を行いますか?」
部下の問いに、指揮を執る自衛官は首を横に振った。
「これ以上撃てば、あのタワー自体が崩壊する恐れがある。目標の9割は粉砕できたし、十分だろう」
「では」
「あぁ、ヘリ部隊に連絡––––ダルマの頭を落としに掛かれっ!!」
十数機のヘリコプター部隊が、ほぼフリーになった空を進軍する。
前衛のコブラ対戦車ヘリコプターが、TOWミサイルをタワー上部と敵へ向け撃ち放った。
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