第510話・眷属として、マスターとして
「……なんだ? テオ」
明らかに普通の雰囲気ではない。
透の直観が、暗にそう告げていた。
柔らかく光る金色の瞳が、こちらをじっと見つめる。
長い銀髪が、陽光に照らされて輝いていた。
「少しお話がしたいんです、今回の……最後の戦いの前に」
やはりかと納得。
透は彼女の近くにあった家にもたれると、息を吐いた。
「なんだ、改まって」
優しい笑顔に、どこか彼女は安心したような様子。
同じく小さい体をチョコンと隣に寄せると、虚空を見つめた。
「結論から言います。透と四条は、わたし達を戦場に送りたくないのですね?」
「ッ…………」
黙ってすぐに、沈黙が肯定を意味していたと気づく。
慌てて隣を振り返ると、テオドールは優しい顔を浮かべていた。
「やっぱり、2人は優しいですね」
「ッ!! そんなんじゃ……ねぇよ」
不意に真意を突かれた––––
そんな顔をするな。
そんな純粋な、優しい顔で俺を見るなっ。
新海透は、今まで隠していた感情を吐露していく。
「…………こないだの第5エリア攻略戦で、1回…………お前死んだろ」
「えぇ、不甲斐なかったです。マスターには合わせる顔も――――」
「そうじゃないっ…………」
自らの顔を押さえた透は、激しく渦巻く感情に嗚咽を漏らす。
「前からずっと思ってはいたんだ。テオたちは貴重な魔導戦力である前に、”まだ子供”。…………義務教育すら終えてない年齢だ。そんな子を、自衛隊を尻目に戦場へ駆り出すなんて……本来は許されないっ」
最初はただの利害一致に過ぎなかった。
裏切ってきた敵幹部など、最初から信頼なんて手放しでできない。
当初の苛烈な尋問や、警備に重武装の自衛官を当てていたのが良い証拠。
日本側にとっては、コスパの良い戦力扱いする部分が大きかった。
しかし、彼女たちは本当に体を張って日本を守り続けた。
どれだけ痛い思いをしても決して泣かず、どれだけ尋問をしても嫌な顔1つしない。
全員がすぐに気づいた。
この子たちは”被害者”だったのだと。
ちょっとお腹が空いていただけで、とても良い子たちなのだと。
同時に湧く疑問。
”彼女たちをこのまま戦力にして良いのか?”
「俺……ずっと誤魔化してきたんだ」
「例えば?」
「眷属だとか、執行者だとか、魔法使いだとか…………そんな理由でグダグダお前を兵器みたいに扱ってた。国連でテオたちを核兵器扱いする発言があったのも知ってる、日本政府は否定してくれたけど…………俺は違うと思ってる」
今ここではぐらかすのは簡単だ。
だがそれは、多大な勇気をもって聞いてくれた彼女への裏切り。
大人として、自衛官として、マスターとして……タブーの本音を伝えるべきだと判断した。
「白状するよ。俺はテオたちを戦車や戦闘機と同列に見てた……。守るはずの子供を戦場に駆り出して人殺しさせて、完全なダブルスタンダードだ……もう綺麗ごとは言わない、これが本音だ」
「…………」
「軽蔑したか?」
言った。
言ってしまった。
新海透は激しい後悔に苛まれたが、最終決戦前に嘘はつけない。
しばらく黙り込んでいたテオドールは、
「プッ」
軽く噴き出す。
「日本人らしいですね。”そんなこと”をずっと悩んでいたのですか?」
「そ、そんなことって……! 重大なことだろ! 俺は大人で、お前たちは庇護対象で…………ッ」
「それが日本人らしいと言ってるのですよ。忘れてませんか? わたしは”異世界人”。戦場に立つのは自分の意思です。透たちはそれを最大限尊重してくれた、だからこないだ殺された時も保険を掛けてくれたじゃないですか」
「ッ…………!!!!!」
柔らかい笑顔が痛い。
今まで誤魔化し、逃避してきた現実が透を襲う。
こんな、こんなにも健気で可愛い少女を……最前線に立たせていたのかと。
葛藤するマスターの心情などお見通しなのだろう、テオドールは笑みと共に人差し指を立てた。
「半年間一緒に過ごして、日本人が子供を大切にしているのはよく知っています。ですがわたしは最後まで戦場に立っていたい、そこで1つ提案しましょう」
執行者テオドールは、両手を後ろに組んで言い放つ。
「この戦いが終わったら――――わたしは透の眷属を辞めます」




