第50話・姉と妹の違い
自衛隊による第二次、ラビリンス・タワー攻略作戦。
その当日が迫ろうとしていた。
今回の戦力は前回と比べて、編成が大きく変わっている。
汎用ヘリコプターを主体とした戦闘団がタワー屋上へ突入し、援護として地上部隊が支援攻撃を行うという形だ。
もちろん、作戦の情報は悟られないよう自衛隊側は対策していた。
暗号通信を始め、作戦要綱はインターネットから切り離されたオフラインサーバーで伝えられる。
そんな自衛隊の入念な準備と合わせるようにして、迎え撃つダンジョン勢力も動いていた。
まだ発見されていない場所にあるお城、その1室でベルセリオンはベッドに寝込む。
普段はサイドテールにした蒼髪は解かれ、服装も過ごしやすいラフなものだった。
「クゥッ……! まさかこのわたしが、あんな信仰力の低い蛮族に……いっつつ」
涙目でぐぬぬと呻くベルセリオン。
全身打撲だらけの彼女に、銀髪を下げた妹––––テオドールが話し掛ける。
「あの時逃げられたのは運が良かっただけだよ、お姉ちゃん。アイツらへの認識を……わたし達はもう変えなきゃいけないと思う」
「そんな必要無いわ! いいテオドール? 魔法も使えない蛮族にやられたなんて主に知られたら、絶対お仕置きされる……。必ず黙ってるのよ」
「灰皿……ゴホンッ、お姉ちゃんのそういう癖は良くないよ」
「今灰皿って言ったでしょ!! 取り消して! わたしはボコられてなんかいない! 日本人なんて下等種族––––次は必ずぶっ倒してやるわ!!」
口だけなら意気軒昂だが、ベルセリオンはダメージでしばらく動けない。
テオドールにしてみれば、都合が良かった。
「お姉ちゃんはここで寝てて、ラビリンス・タワーの防衛はわたしがやる」
色々反論が飛んで来るが、妹はそれらの言葉を無視して退出。
廊下を歩きながら腕を振り、魔法陣を展開した。
「ムラン・ドール族長、聞こえますか?」
それは、執行者だけが使える遠隔地との通話魔法だった。
彼女は前回東京湾で全滅したのとは違う部族のワイバーンに、魔法回線を開いていた。
今動かしている部隊は、ベルセリオンが寝込んだ隙を狙って指揮権を奪ったのである。
「あぁ聞こえるぞ! テオドール様。何やら攻略者はいつも通り、信仰力の低い雑魚とベルセリオン様から聞いているが……」
「その認識は改めてください族長、今回に限り“信仰力指数”はアテにならないと判断します」
「む? なぜだ、今まで弱い世界だけを相手して資源を奪って来たじゃないか。日本人もしょせん有象無象だと聞いたが……」
「族長、既に第1エリアが攻略され……ラビリンス・タワーも陥落寸前です。攻略者は以後、正式に“自衛隊”と呼称。最大限の力でもって応戦します」
「りょ、了解しました!」
回線を切ったテオドールは、誰もいない情報集積室へ入った。
大きな机に紙を広げ、自分で用意した戦力配置図を書き連ねていく。
「自衛隊は……絶対に命中する神の矢。ゴーレムを凌駕する鉄の象、ワイバーンより強力な鋼鉄の鳥を使ってくる……! この常識はずれな敵を……もう野放しにはできないっ」
テオドールは第一次ラビリンス・タワー攻略戦の様子を、全て見た上で対策を練る。
用意した内容は以下の通りだ––––
・創生魔法の集中運用による、ゴーレム軍団の顕現。
・他エリアから魔法砲台を移動し、タワー周辺を局所防御。
・地上部隊と連携して、ワイバーンによる制空権の絶対確保。
・全ての部隊に神秘特性が付与された鎧、および盾を支給し、物理的ダメージへの対策を強化。
さらに、これ以外にもいくつもの備えを用意した。
これだけやって、ようやくテオドールからすればあのチート過ぎる自衛隊という敵に、損害を与えられるかどうかのレベル。
正直、この時点でリソースを使い過ぎているので大赤字だ。
それでもあの灰皿……訂正、自称天才の姉には任せられない。
再び魔法陣を開き、展開した全部隊へ重ねて通達した。
「総員備えよ! 敵は通常にあらず、敵は通常にあらず! 信仰力が低いとみくびらないで! 敵––––自衛隊は神にも等しい力で攻略してくる!」
テオドールが言葉を発すると同時、陸上自衛隊の無人偵察機が、ラビリンス・タワー近郊へ現れた。
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