第498話・ウリエル、修行の成果!
「えっ、めっちゃ美味いじゃん。君いつの間にこんな料理できるようになったの?」
正直に言って、ガブリエルはここ最近で一番驚いていた。
まさか大天使が、必要のない娯楽に興じるなんて思っていなかった。
同僚のリアクションに満足したのだろう、ウリエルはしたり顔で解説した。
「今回は通常のタレのみの味付けに加えて、チャーシューからも出汁を取ったのだ」
「この肉? 食べる用じゃないの?」
「もちろん食う。だがチャーシューには濃いエキスが入っているからな、出汁をスープに染み込ませてからでも十分味がする。どうだ……油が食欲をそそるだろう?」
「た、確かに…………ッ」
本当なら今すぐにでも警備に行かなくてはならない。
しかし、数百年ぶりの食事は……ガブリエルを露骨に誘惑していた。
「い、今作ってる料理はなんて言うんだい?」
「ラーメンだ。私は敵である日本人を倒すため、まずは文化から知ろうとしている。これはいわば魂の一杯――――その過程だ」
「ゴクッ」
見れば、どの食材も見たことがないくらいに色を放っている。
これらをあのスープと一緒に食せば、長らく忘れていた喜びが思い出せるかもしれない。
しかし、今は警備が最優先だと思考し――――
「フッフッフ、スープのみでこれだ。ガブリエル、たっぷり絡めて麺を啜ってみたくはないか?」
「ぐっ……!」
「出汁に浸った肉厚のチャーシューを、頬張ってみたくはないか?」
「ぐうっ…………!!!」
これは罠だ。
今はウリエルの趣味に付き合っている暇など無い。
大天使の名に懸けて、任務を遂行して――――
「まっ、まぁ……一杯だけなら」
大天使の責務。
そんな錆びた誇りなど、眼前の油に浸ったスープの前では無力。
ワクワクした表情で、ガブリエルは椅子に座った。
「食器はそこのフォークを使うと良い、水は机に置いてある」
ウリエルの手つきは素早かった。
麺を湯がき、パッと水取りをしてから、ドンブリへ投入。
次いで熱々の醤油スープを注ぎ込み、もやし、ネギ、チャーシューとトッピング。
「できたぞ」
「うほっ♪」
「言っとくがタダじゃないからな、キチンと参考になる感想を述べろ」
「はいはい、じゃあ貰うね」
待ちきれないとばかりに、ガブリエルはスープに浸った麺を勢いよく啜った。
「うっ……ッ! おぉおおおおお!!?」
全身の細胞が、潤滑油を入れたように活性化する。
風化していた味覚が、旨味の暴力によって叩き起こされたのだ。
まさしく革命、鮮烈なカルチャーショック。
「ゴクッ……!! ゴクッ!!」
濃厚なスープを、ドンブリごと掴んで飲み込む。
熱々の油が、喉を勢いよく通る。
「はぐっ!」
スープの次はチャーシュー。
肉厚のそれを、思い切り齧る。
出汁を取った後でも、確かに味がしっかりしていて十分美味い。
次いで麺!
「くぅうううううッ!!!」
モチモチの触感に、濃厚なスープがよく絡んで至高のハーモニーが築かれる!
無我夢中でラーメンを食べたガブリエルは、ようやく一息ついた。
「ふぅっ…………ッ、美味かったぁ」
「フフッ、手ごたえアリだな」
勝ち誇ったような笑みを見せるウリエルに、ガブリエルは感心していた。
「驚いたよ、食事の喜びなんて久しく忘れていた」
「日本人はこういった基本を忘れない民族だ。だからこうして学び、倒す算段を立てている」
「敵を倒すには……か、なるほど。ご馳走様」
「さて、感想を聞かせてもらおう」
そういえばと、ガブリエルは口元を布で拭う。
とりあえず初手の感動を話そうとした時だ。
――――ドドォンッ――――!!!!
宇宙船を囲むように造られた基地内に、”自走砲”の砲撃が着弾した。




