第497話・復活の儀式
――――ダンジョン内部・第5エリア。
どこまでも広がる古代都市群……、花々と青空が混じる異質な空間。
その中央にある巨大な宇宙船の中で、1体のアノマリーが立っていた。
周囲をコールドスリープ装置に囲まれた部屋で、破壊神イヴが呟く。
「ふむ、やはりまだ馴染まぬか……」
自らを見つめ、手を何度か開く。
見た目はエンデュミオンだが、中身は全く違う。
本来のこの体の持ち主であり、ベヒーモスの魂を取り込むことで復活間近となった神。
始発世界のアノマリーである彼女には、まだ1つ足りない要素があった。
「やはりまだ”神眼”は戻らないみたいですねー」
傍に立つ大天使ガブリエルが、陽気な口調で呟いた。
彼は先の第4エリア攻防戦で、執行者テオドールの波動砲によって消滅。
しかし、なけなしのリソースで蘇生装置から復活したのだ。
もうこれで、残機は残っていない。
だがこんな状況でも余裕なのは、イヴがついに目覚めたからだ。
彼女は久しぶりの生を楽しみながら返す。
「このダンジョンを創生した誓約で一時的に手放したからな、まぁ……”儀式”を行えばすぐに取り戻せる。そうなれば晴れて完全復活だ」
「ついにですね、そういえばエンデュミオンの自我と魂はいかがしたので?」
「ヤツはもう用済みだ。自我も魂も既に”殺してある”、もうこの肉体は余の物だ」
彼女が呼ぶ儀式とは、実に単純なもの。
「この”次元エンジン”に溜め込まれた、これまで略奪した中継世界のエネルギー……それを全て余が喰らう」
巨大なエンジンの外壁が、扉のように開いた。
外見はまるで1本の大樹のようであり、”リンゴ”に似た果実がいくつも実っていた。
この果物こそが、次元エンジンのエネルギーだ。
「ガブリエル」
中は神々しい光で満たされており、イヴがゆっくりと歩を進める。
「そう時間は掛からん、それまで日本人の侵攻を食い止めよ」
「了解しました」
「……ところで」
エンジンへ入る前に、イヴは周囲を見渡した。
「ウリエルはどこへ行ったのだ? サリエルは日本人の警戒に行かせたが……」
「そういえば……、イヴ様がご帰還されたのに見ないですね」
「まぁ良い、復活さえ果たせば我らの勝ちだ。余と次元エンジン、そして終着世界が揃えばループが可能となる。また……」
エンジンの中に、イヴが消えていく。
「お前に会えるのだな、アダムよ」
扉が閉まる。
おそらく数時間もあれば、儀式は終わるだろう。
第5エリアの入り口には、錠前勉を絶対に通さない結界が張られていた。
破られることはないだろうが、一応警戒しなくてはならない。
ガブリエルが出口へ向かった時だ。
「ん?」
その鼻が、なにやら濃厚な匂いをキャッチした。
ここに来てトラブルか?
少し緊張を抱きながら、ガブリエルは匂いの元となる部屋へついた。
が、
「……なんだガブリエルか、ノックぐらいしろ」
「いや、えっ…………ッ。なにそれ?」
見れば、魔導コンロの上に鍋が置かれている。
中には匂いの源たる濁ったスープが煮込まれており、大天使ウリエルがそれをかき混ぜていた。
「見てわからんか? 料理だ」
「いやそれは見たらわかるけど……、どこからそんな食材調達して来たの? っていうかキッチンなんて何百年ぶりに稼働させたの!?」
ガブリエルからすれば、イヴを差し置いて料理に没頭する同僚が信じられなかった。
だが、当のウリエルはそんな彼の内心など気にもせず。
「食材は自衛隊の駐屯地から奪ってきた。キッチンも錆び付いていたのでな、ついでに片付けておいたぞ」
「ふ、ふーん、しかし妙な気変わりだねぇ。君食事になんて興味無かったじゃん、まして作るとか想像もしてなかったね」
「人は変わるものだぞガブリエル、不老とはいえ……五感を失ってはゴブリン以下だろう。ついでだ」
小皿を取り出したウリエルは、煮込んでいた醤油スープを少量注ぐ。
「味見してみるか? 私が飲んでも主観が入って邪魔なんだ」
「えー」
「心配するな、味はよくできている筈だ」
「そういうことじゃ………、はいはい。わかりましたよ」
言われた通り、進まない気持ちでスープを一口……。
「えっ、うまっ……ッ」
「だろう?」
2人の大天使の、なんとも抜けた声がキッチンに響いた。




