第496話・可決! ダンジョン主権問題
――――国連本部。
タブレットで映像を再生し終えた各国の反応は、様々だった。
「なんだか、思っていたより普通のお子様だな……」
「その気になれば世界をひっくり返せるような魔法が使えるのに、何もできずあんな間抜けた鳴き声を出すとは……」
「あれでしょう、親には逆らえんというやつでは?」
この場では当然家族――――引いては子供を持つ者も多い。
なので、さっきまで戦略兵器として見ていた少女たちが、実際は年相応の子供に過ぎない事実に……無意識で自分の家族へ重ねてしまった。
考えてみれば、彼女たちは日本人と一度は敵対したが結果的に誰も傷つけていない。
むしろ、数々の場面で無実の市民を救う行動を見せていた。
反逆しようと思えばできるタイミングなど、いくらでもあったろうに。
議場が一気に日本優勢ムードになってしまい、フランス大使は汗を垂らす。
「……これが演技、作られた動画だという疑念がまだある。それをどう証明する?」
日本大使の返しは神速だった。
「もし演技だとしても、それは我が国が――――引いては彼女たちの親が、キチンと管理できている証左です。本当に敵対的ならこんな動画は撮れません」
「ぐっ…………ッ!」
この返しで、議場の空気は一変した。
「フランス大使、日本には言い出しっぺがなんとやらという言葉がある。そこまで言うのなら、まずは君の国の戦略原潜と核ミサイルを先に国連へ預けるのが筋では?」
イギリス大使の嫌味たっぷりの言葉に、他の国々が続いた。
「そうだ! 新国連でも核兵器クラブを存続させるつもりか!!」
「子供を兵器扱いして、それでも核保有国かね?」
この言葉に、すっかり身を引くフランス大使。
件のシーンは何度も再生され、議場に間抜けな鳴き声が響き渡る。
議場の大使たちはすっかり、執行者に脳を焼かれてしまった。
「いやウチの娘も同い年くらいでなぁ、さすがにこんな声は出さんが……夜中に家を抜け出て買い物に行くのは異世界人も一緒か」
「日本大使、このような執行者の動画はまだあるのですか?」
すかさず、解凍したファイルからこれまで収めてきたダンジョンでの日常が映される。
久里浜の誕生日パーティー。
真島&氷見との食い倒れツアー。
ラーメン店での大号泣テオドール。
まだ三頭身だったエクシリアが、初めてチキンを食べて鳴いた瞬間。
秋山の作ったデザートを食べて、ふえふえと鳴くベルセリオン。
全て第1特務小隊が収めた記録。
それは間違いなく決定的な証拠であり、日本が地道に異世界人との交流を続けて得た信頼関係。
配信記録を見た国連は認めざるをえなかった、彼女らは兵器ではない。
まだ幼い少女たちであり、まして国家政府が統制して良い存在ではないのだと。
このムード一変を受けて、日本大使は最後の仕上げに掛かる。
「ダンジョン完全攻略のため、我が国は引き続き全力を尽くします! ですが抵抗勢力は依然健在、現場からのリークでは”史上最強の魔導士”なる存在が復活寸前との情報がありました!!」
各国が騒然とする中、日本はついにその要求を突き付ける。
「そうなれば日本はおろか、世界の危機です! 我が国は主権を手放すことはないが国際協力は惜しみません! よって――――」
机を叩く音が、議場中に響いた。
「対ダンジョンを見据えた【常設国際連合軍】の創設! 並びに統合軍司令部の東京設置を要請します!!!」
日本大使の叫びに、まず1人の男が拍手をした。
「素晴らしい提案だと思います。中華民主主義共和国は、先刻の発言通りに国連軍創設を支持します」
ついさっき権益を搔っ攫った林大使が、笑顔で話す。
ここを逃せば、ダンジョンの権益。国際的な影響力。超大国となりつつある日本との関係。自国の安全保障の安定。
全てに後れを取る。
「まだ議決前だが……英国としては政府と協議して前向きに検討したい。確定ではないが、英国軍の参加も行われるでしょう。軍司令部も東京に置きましょう」
「インドとしても検討したいですな、具体的なことはこれからだが……機甲師団を含めた陸軍部隊の用意がある」
「台湾政府としては、全軍の数十パーセントを預ける用意があります! 軍司令部が東京に置かれるなら安心だ」
最後――――沈黙を保っていたアメリカ大使が口開く。
「……日本の提案は魅力的だ。我が国としても、積極的に参加したい」
圧倒的多数をもって、ダンジョンの主権は日本が持つことが決まった。
それと同時に、国際社会は遂に共同軍事部門の設立に踏み切る。




