第493話・前哨試合、現代最強VS史上最強
両者は尋問部屋跡を飛び出し、建物の屋上へ降り立った。
2人の覇者が、対面で向かい合う。
屋上の空気は冷え切っており、風切り音が響く。
眼前の存在は外見こそエンデュミオンだが、魔力も覇気もそれの比ではない。
頭上にはヘイローが浮かび、目は青く輝いている。
「フフッ、最強か……親しみのある言葉だな」
「そうかい、誰か身近に強いヤツでもいた?」
屋上に立ったイヴは、笑みを崩さずに喋った。
「自称したことは無いが……、母星では”史上最強の魔導士”と勝手に呼ばれていたな。最初にそう呼んできたのはガブリエルだったか」
「なるほどぉ、さすが大天使の胴元。カッコいい♪」
「褒めても何も出んぞ、まぁ冥途の土産に今の話を持っていくと良い」
それは時間にして刹那。
飛び上がったイヴが、とてつもない速度で上空から錠前に襲い掛かった。
砂塵が爆発のように舞い、衝撃波が第1エリアを揺らす。
「…………ッ」
砕けた床が、イヴの視界に入る。
間違いなく当てたはずだが、錠前はそんな彼女の背後で手をポケットに入れていた。
「部下たちが見てるんでね」
即座に放たれた裏拳を、錠前はほぼ瞬間移動に近い速度でかわす。
端正な顔をイヴの前まで持っていき、笑みを見せる。
「格好つけさせてもらうよ」
錠前がジャブを放つ。
顎と頬にヒットしたそれは、1発1発が規格外の威力。
それでもイヴは、痛みよりも解析に集中する。
――――単純な身体能力でこれか、どういう仕組みだ?
右ストレートが炸裂する。
巡行ミサイルが着弾したような爆発が起き、イヴを瓦礫ごと吹っ飛ばす。
猛烈な威力に転がるがすぐに制御、再び錠前に向かって飛び出した。
「やはり厄介なものだなぁ! アノマリーというのは!!」
空中で両手から、特大の魔力砲を放った。
錠前を覆いつくしたそれは、特級神獣バジリスクのブレスをゆうに上回っている。
市街地が放射状に薙ぎ払われ、黒煙が覆った。
「まぁだが所詮は後付け、純正たる余の前では……。ッ!」
直後だった。
煙が払われ、無傷の錠前が姿を現した。
彼の周囲だけ、破壊跡が無い。
このことから、イヴは最速で錠前の能力を悟った。
「なるほど、自らの周囲にプランク長の高次元を開放・展開することで、余の攻撃を無効化したか」
「よくわかったね、でもわかったところでもうおしまいだよ」
錠前の背後から、低空飛行で接近していた”AH-1S”対戦車ヘリが飛び出した。
20ミリ機関砲が連射され、イヴの周辺ごと激しく制圧する。
そして、増援はこれだけではなかった。
「40.6センチ――――『二連装・ショックカノン』!!」
その場を飛び退き、飛翔してきたビームを避ける。
だが、待っていたのは別の追撃。
「『空裂破断』!!!」
「『雷轟撃鉄拳』!!!」
執行者ベルセリオンと、エクシリアがイヴを迎撃。
技はクリーンヒットし、彼女を別の屋上に追い込んだ。
「錠前! 加勢に来ました!!」
執行者テオドールが、隣に降り立つ。
さすがにこれだけの騒ぎ、お勉強中だった彼女らも、おぞましい魔力には気づいていた。
「ふむ……、執行者か」
攻撃の当たった箇所を軽く払いながら、イヴはため息をついた。
覚醒した執行者の技を直撃していながら、ほぼ無傷。
しかも、
「錠前勉を相手にしながらでは、さすがに今の余では厳しいか。ここは一旦エンデュミオンの肉体だけでも持って帰らせてもらおう」
ありえない出力の治癒魔法で、あっという間に回復してしまった。
錠前から受けた傷さえ、最初から無かったように修復。
僅かに気圧されたが、執行者たちは引かない。
「させません!!」
テオドールが即座にショックカノンを発射しようとするが、
「まぁ待って」
錠前が制止。
「これ以上やったら、どれだけ被害が出るかわからない。ここは一旦見逃す」
「ですが…………ッ!」
「大丈夫。どうせ僕が殺すんだ、なら犠牲は無い方が良いでしょ」
最強が言うならと、テオドールたちは魔力を収めた。
「最後に聞くんだけどさ、君の目的はなんだい? わざわざエンデュミオンに大将張らせたのに今更出しゃばる理由、教えてくれるかな?」
それは、今自衛隊――――引いては日本が一番望む質問。
転移魔法を発動しながら、イヴは笑みを見せた。
「余はずっと待っていたのだ。”遍く世界の終着点”に着く瞬間を……、それ以外の世界に興味など無かったからな」
「それで?」
「”始発世界”のアノマリーとして、この終着世界を終わらせる。それが――――」
姿が消える。
最後に残った声が、耳に届いた。
「【ループ】の条件だからな」
静寂が降りる。
頭をかいた錠前は、サングラスの奥の魔眼を光らせた。
「上等」
4日後――――日本政府は正式に第5エリアの攻略開始を宣言。
同時に、新生国連の安保理が開催された。




