第491話・ダンマスさん、尋問のお時間です
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独房から音が無くなった。
否――――正確には、音が消えたように錯覚するほどの覇気が満ちた。
四条衿華は何も言わない。
ただ、手を床についたエンデュミオンを冷酷に見下ろしている。
砕けた歯が床に転がり、血と唾液を吐きながら荒い呼吸を繰り返していた。
「撤回……、しろと言いましたよね?」
低い声。
怒鳴ってはいない、だが逆に言えば怒鳴っていないだけ。
感情を抑えた声ですらない。
完全に冷えていた。
「ぐ……っ、は……ッ!」
返事にならない声。
想定外の威力の蹴りに、エンデュミオンは嗚咽を漏らす。
四条は一歩近づくと、そのまま見下ろした。
顎を上げたエンデュミオンが、怨嗟の表情で睨み返す。
――――見下ろすな……ッ――――!!!
コンクリートの軋む音が、大きく響いた。
「もう一度聞きます。ベルさんをバカだと仰いましたね? ただちの撤回を要求します」
沈黙。
しかしエンデュミオンは口を歪めた。
歯の欠けた口で、血を垂らしながら――――それでも笑う。
「……マスターを選ぶ目の無い大馬鹿だと言ったんだ。力も、誇りも……女狐に売り渡したクソガキさ」
言い切った。
その瞬間だった。
――――ドズゥッ――――!!!!
四条の蹴りが、みぞおちにめり込む。
エンデュミオンの体が、拘束具ごと壁に叩きつけられる。
「……がぁっ!!?」
またも血を吐き、その場でうずくまる。
とても女性の細い足で出せるパワーではなかった。
「一体何を勘違いしているの?」
四条は淡々と続ける。
「人を見る目が無いのは貴方。可能性の塊である子供をその幼稚な脳で虐待し、全く活かせなかった愚か者」
半長靴のつま先で、相手の顎を持ち上げる。
「貴方がガッカリ、アンコモンだと捨て去ったベルさん……とても素敵で強い子だったわよ? ゲームに例えるならSSS級の女の子。もしフルスペックで敵対してたら自衛隊も大量の死人が出た」
それは、単に四条にとっての事実を並べた言葉。
実際に、栄養満点で脳に糖分を行き渡らせたベルセリオンは、実に聡明で賢い子となった。
決して、眼前の児童虐待犯とは違う。
「あなたのような存在が、名前を口にする資格すら無い。この世で最も気高く崇高な子なの」
「黙れッ…………!! 調子に乗るなよ外れ世界のメスが――――」
言葉はそこで途切れる。
次の瞬間、
――――ゴッ――――!!!
エンデュミオンの顔面が、固い床に叩きつけられた。
血しぶきが飛び、破れた皮膚が固着する。
それでもなお構わず、四条は同じ動作を繰り返した。
躊躇は無い。
愚かさを何度も確認させるように。
「まだ、生きていますね?」
四条はエンデュミオンの顎を持った。
死亡ラインの直前で止めたのは、せめてもの温情。
本当なら、今すぐ殺してやりたかった。
「撤回してください、さもなくば」
白目を剥いたエンデュミオンは返事をしない。
ここで追い打ち。
指先から自身の魔力を一気に流し込む。
魔力は個人ごとに周波数が決まっており、体内に他人のものが入れば当然拒絶反応が起きる。
刺激で神経だけを、強制的に覚醒させたのだ。
「――――ぐぉあッ……!!!」
「大丈夫です、別に死にませんから」
手を放しながら、四条は内心で呟く。
――――この男、本当は肝心なことを知らされていないのでは……?
だとしたら、これ以上痛めつけても無意味。
うなだれて動かなくなってしまったエンデュミオンから、離れようとした時だ。
――――ぬるっ――――
「ッ!!!!?」
反射的に飛び退き、腰から拳銃を抜いて構える。
エンデュミオンの体から、尋常ではない量の魔力が溢れ出たのだ。
一瞬、錠前かと勘違いしたほどの量……。
「……誰ですか」
それは、明確に”別人”だった。




