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第49話・アメリカの思惑

 

 ––––神奈川県 横須賀市。在日米海軍横須賀基地。


 極東最大規模を誇るこの軍港は、日米両海軍が共同で使用する巨大基地だ。

 西側のヴェルニー公園に繋がった部分を、海上自衛隊が。


 そしてここ––––旧日本軍横須賀鎮守府跡を使用しているのが、アメリカ海軍第7艦隊である。

 原子力空母ジョージ・ワシントンを中核とした、世界最強の空母打撃群が帰る母港だ。


 それら艦艇が、続々と基地内へ入港していく。


「久しいな……、ニッポン」


 停泊したジョージ・ワシントンの艦内から、ゾロゾロと軍人たちが降りてくる。

 彼ら総勢12人は、船乗りではない。


 アメリカが誇る精鋭特殊部隊の1つ、海軍特殊部隊(ネイビー・シールズ)だった。


「これはこれは、北朝鮮担当のシールズチーム5が横須賀入りとは……。なかなかに物騒じゃないか」


 歓迎の言葉を浴びせて来たのは、サングラスを掛けた1人の黒人。

 陽気な雰囲気で近づく彼に、チームの隊長たるテネシー大尉は笑顔で答える。


「今や極東アジアは世界屈指の火薬庫だ、そういう君も––––例のダンジョン絡みで呼び出されたんだろう? ブライアン中佐」


 ブライアンと呼ばれた佐官は、横田基地に所属する軍人だった。

 彼は、在日米大使の命で上陸したシールズを迎えに来たのだ。


「ハッハッハ! そういうことだ。横須賀の風を浴びての立ち話も良いが……とりあえず場所を変えよう」


 装備一式を持って、基地内の一室に案内される。

 部屋はなかなかに広く、歴代アメリカ大統領の肖像画が飾ってあった。


 完全防音で、中からの音は一切漏れない。

 ブライアン中佐は、椅子に座りながら持って来たコーヒーに砂糖を入れる。


「君らが呼ばれた理由は知っているな? テネシー大尉」


「理解していますよ。あのダンジョンを制圧、ないし情報偵察を行えとのことですが……本気で言ってるんですかね?」


 持っていたカバンを下ろしながら、テネシーは冗談だろうといった様子で続けた。


「あのダンジョンへ強行突入しようとすれば、自衛隊と敵対することになる。我がアメリカ合衆国に……今日本と争う力は無いと考えます」


 部下も「そりゃそうだ」、「西側最大の同盟国と戦いたくはないね」と口々に呟く。

 追加で角砂糖を入れたブライアン中佐は、「そんなの俺も知ってるよ」と返した。


「大使殿も、日本があそこまで強く出るとは思ってなかったらしい。君の言う通り––––我がアメリカに日本と争う余裕は無い」


 時は10年前。

 ある日本の首相が提唱した“自由で開かれたインド太平洋”戦略は、これまで中東重視だったアメリカの姿勢を一発で変えてしまった。


 オバマ政権時には中国と太平洋を仲良く2分割するなどと言っていたのが、日本政府がこの戦略を米に呑ませることで阻止に成功。

 それどころか、軽視されていた太平洋方面への戦力配備を増強させた。


 よく台湾有事の際、米国と中国の戦争に日本は巻き込まれるという意見があるが……厳密には逆だ。


 超大国アメリカを極東に縛り付け、日本と中国が紛争危機に陥った際––––“日本が米国を巻き込む”のである。

 法と秩序というアメリカナイズな言葉で誘い込み、日本単独で中国に挑むというシチュエーションを抹消。


 日米安保条約の絶対履行を目的とした、日本第一主義とも言える巧妙な政策だ。

 これのおかげで、アメリカは年々日本との関係を重視せざるを得なくなっている。


「中国がいつ有事を起こすかもわからない中、日本と争えば得をするのは共産主義者だ。何度でも言うぞブライアン、日本人とはWin-Win。互いの利益を求める友人同士であるべきだ」


「君の意見は正しいよ、おかげで合衆国政府も最近は日本贔屓が甚だしい。戦争中のウクライナがあれほど欲しがっているのに決して渡さなかった長距離ミサイルを、日本にはアッサリ最新型を売っている。酷い話だ」


 アメリカは近年、最新鋭のミサイルを数百発日本に売却していた。

 代表的な物で言えば、射程1000キロを誇る“JASSM-ER”と“トマホーク・ブロックⅣおよびⅤ”だ。


 これらは、ウクライナが熱望したATCMS地対地ミサイル(射程300キロ)を軽々超える兵器である。

 米軍でも最近配備が始まったばかりの、超高性能ミサイルだ。


 アメリカがいかに、日本を重視しているか表していた。


「最新装備を日本の要望通り売る––––それこそ米国の利益だからだ、自衛隊に中古を押し付ける時代はもう終わった。日本にはアメリカに代わって、極東のリーダーになることが求められているんだ」


「横田で同じことを散々聞いたよ、最近じゃ海自の空母『かが』に我が軍のF-35を搭載して東シナ海をゆうゆうとパトロールだ。終始中国海軍の駆逐艦が、日米連合艦隊を尾行して写真を撮って来たらしい」


 コーヒーを飲んだブライアンは、前のめりになってシールズ隊員たちを見た。


「そういうわけで、さっき上層部でも日本とは争えないと結論付けられた。君たちの新しい任務を伝える––––“他国の日本での活動を徹底的に妨害”しろ、決して共産主義者共にあのダンジョンを獲らせるな」


 日本の太平洋戦略が、アメリカの敵対を防いだ瞬間だった。


49話を読んでくださりありがとうございます!


「少しでも続きが読みたい」

「面白かった!」

「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 無条件に相手に言うことを聞かせられるのは、その頭を踏みにじる力があるから ただし、それは全力で何とかってレベルじゃダメ、横槍で共倒れを狙われる程度じゃまだまだ足りない
[一言] 黒船来航依頼、日本を屈服させたがってる誰かさんグループが地団太踏んで歯噛みしそうなシーンですねー 敵の敵は味方…にするしかないから仕方ないですね。 まあ、ほんとにそんな連中がいるかは眉唾です…
[一言] 正直中国のほうがアメちゃんより信用ならんしね…露?論外だよ(ウクライナを見つつ) ちゃんとしたある程度信用できる(信頼ではなく信用というところがポイント)強い相手と手を結ぶと考えるとアメリ…
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