第484話・逆襲逆転! 新海&坂本コンビ
「こちら20、山の出口は完全に封鎖しました。あの侵入者は見つけたらどうしますか?」
「生け捕りは無しだ、即刻射殺せよ。砲撃部隊の仇を取る」
「了解、MINIMIを配置して待ち構えます。用意ができたら16式も寄越してください」
北部方面隊の追撃部隊は、車道から先回りして透と坂本を完全包囲していた。
逃げたルートから方位を計算して、主要な逃げ道には全てMINIMI多用途機関銃を配置。
車道にはLAVも配置して、通報があればただちに駆けつける。
さらに中腹には16MCVが索敵しながら下ってきており、盤石な態勢。
たかが歩兵2名に意表を突かれたのは遺憾だが、キッチリやり返すつもりだ。
「さて、どう出る?」
完全包囲が完成したと同じ時――――
「今だ、坂本」
「うっす」
一瞬だった。
入念に隠ぺいしていた機関銃手のバトラーが、けたたましく警報を鳴らした。
死因は”64式小銃による銃殺”。
「敵だ!!」
隊員の叫びが山腹に跳ね返った瞬間、空気が変わった。
銃声は1発だけ。
しかし対抗部隊全員に寒気が走った。
MINIMIの銃口が森へ向き、控えていたLAVのエンジン音が低く唸る。
無線が重なり、怒鳴り声が交差する。
「こちら20、接触! 接触! 狙撃だ!」
「方位は!? どこから撃たれた!」
「わからん、林の中だ! MINIMIが1人落ちた!」
敵の空気は、怒りより先に焦りへ傾いた。
包囲は完成していたはず、逃げ道は潰した。数も勝っている。
一体どこから!
そして――――見えない相手の正体は、坂本だった。
「……今の1発で、向こうは警戒態勢に入りましたよ」
坂本が低く呟く。
隣で双眼鏡を持っていた透が、息を吐いた。
2人は包囲網の中、木の上に陣取っていた。
「正面から来ると思ってた連中ほど、裏を取られると慌てるからな。けどよくこの視界不良の中当てれたな」
「まぁ愛銃極めてるんで……、一応特級射手ですし」
「さすが、次のフェーズだ」
透は返事の代わりに、勢いよく地面に降りた。
それは合図。
坂本が頷き、構えていた64式を持ち直す。
古く重い、今の戦場の主役ではない得物だろう。
だが、坂本にはそれで十分だった。
一緒に降りた坂本と一緒に一歩、踏み出した――――
瞬間、背筋が焼けたような感覚に陥る。
「伏せろ!」
「ッ!」
透が坂本を引っ張って反射で倒れ込んだ。
同時に、けたたましい銃声が鳴った。
――――タタタタタタ――――!!!
MINIMIの掃射。
もし立っていれば、今頃ハチの巣だっただろう。
「……今の、見えたんすか?」
「見えたんじゃない。“来る”って分かっただけかな」
やはりこの男、どこか違う。
これこそが――――危機察知能力。
遥か先の敵の殺意。
それら重力の変化より繊細な異常を、敏感に探知。
全ての攻撃を文字通り防いでしまう。
「制圧射撃だろうから、もう1回来るぞ」
「なら位置もわかりますね」
「そういうことだ」
透が体を起こした。
「坂本。三秒後、右の尾根の影。そこに1発頼む」
「了解」
坂本が銃口を滑らせる。
次の瞬間、透がほんの少しだけ目を細めた。
「来たぞ」
――――タタタタッ――――!!
MINIMI機関銃の掃射が襲い掛かる。
だが、透はそこにいない。
空気が揺れた場所から半歩ずれた位置へ、既に移っていた。
「……ほんとに無敵ですか、あなた」
まさに異能。
そして――――坂本が即座に発砲
パン、と乾いた音。
派手な連射ではない。
必要な1発だけが飛翔する。
「ぐっ……!」
悲鳴が上がった。
銃声の方向を探していたMINIMI機関銃手のバトラーが、音を立てる。
次の瞬間、追撃部隊の無線が騒然となった。
「こちら20! 機銃手がやられた! また狙撃だ!」
「今向かってる! 持ちこたえろ!!」
銃を持った透は小さく息を吐く。
敵は“狙撃”に意識を奪われていた。
そのまま地面を滑るように走る。
枝を避け、根を跨ぎ、影を影で繋ぐスムーズな移動。
そして――――一瞬で敵に距離を詰める。
「はっ!?」
89式の銃口が振り向く前に、透の20式の銃口が先にいた。
――――ダンダンダンッ――――!!
乾いた音。
照準には迷いが無い。
相手がダウンする前に、透はもう次の標的へ向かっている。
「接触! 近い! 近いぞ!」
無線が悲鳴を上げる。
至近距離で撃たれる恐怖は、狙撃より遥かに生々しい。
透が雑木林を駆け抜ける。
坂本が半歩遅れて付き、また銃を構えた。
2人の間には、妙な空気感があった。
撃つ。避ける。走る。撃つ。
最高のコンビが噛み合うと、自然にこうなるのだ。
対抗部隊は次々と葬られ、その勢いは濁流のごとくまるで止まらない。
「坂本、左!」
「うっす!」
――――ダンダンッ――――!!
坂本の放った2発が木の陰を掠める。
飛び出そうとしていた敵が、出る前にダウンした。
「化け物め……!」
その言葉を最後に、追撃していた歩兵小隊は丸々1個が全滅してしまった。
ホッと一息吐く間もなく、ゴォ……と重たい振動が山を揺らした。
16式が来たのだ。
木々の隙間から見える車体は、非常に堂々としている。
索敵しながら下ってくる。
見つかればすぐさま殺せるという、ある種の油断。
「隊長、来ました!」
「あぁ」
透が腰のポーチに手を伸ばす。
取り出したのは、筒状のカラースモーク。
坂本が眉を寄せる。
「そんな物でなにを?」
「まぁ見てろって」
透は淡々と言い切り、ピンを抜いた。
――――シュッ――――
次の瞬間、鮮やかな色煙が噴き上がる。
深い森でも目立つ、異様な存在感があった。
それを、16式の進路へ向かって放ったのだ。
「煙!? 何やって――――」
16式の車体が、煙を見て速度を落とした。
警戒したのだろう。
その瞬間、透は坂本の肩を掴んだ。
「走るぞ」
「え、今!? 16式が――――」
「いいから」
透は坂本を引っ張るようにして、斜面を横へ切った。
煙とは逆。
16式の視線の外へ。
すぐさま追撃を行おうとした瞬間。
「なっ!! 砲撃!?」
榴弾砲の着弾。
バトラーシステムに、周囲へ榴弾砲が降っている旨が表示された。
「こちら16! 砲撃されている!!」
「やられた!! カラースモークを目印にして効力射をしてるんだ!! 追撃中止! 大至急後退しろ!!」
敵はようやく気づいた。
カラースモークが“誘導”だったことに。
その狙いが16式だったことに。
包囲は崩れた。
追撃部隊は、たった“2名の歩兵”に壊乱させられたのだ。
「最高にムカつくでしょうね、連中」
「かもな、お前のおかげだ。坂本」
「いや、自分は指示通りにやっただけっすよ。でも――――」
口元を緩めた坂本は、必死に走りながらも笑みを見せる。
「見事なお手前でした」
背後では、無線がまだ喚いている。
「こちら16! 敵を見失った! くそっ、どこだ!?」
「包囲線を再構築しろ! LAVを前へ!」
「砲撃の弾着、まだ続く! これ以上の追撃はできない!!」
「クソッ!! 完全にやられた!!!」
対抗部隊は一連の戦闘で前線に穴が開き、そのまま一気に押し込まれて敗北。
後に、坂本慎也は演習後にこう言ったという。
「隊長と一緒に戦えば、必ず生き残れる」
余談ですが、今回の演習で戦った北部方面隊の部隊は、第3エリア侵攻を一緒にした部隊でもあります。
なので、面識は互いにありませんが、一緒に今はダンジョンで働いています。




