第482話・現代の異能を知る
「あー、やっぱ間に合わなかったか……。せめて味方の損害は減らしたかったんだけど」
隣を歩きながら呟く透に、無線機を背負った坂本は思わず尋ねた。
今は透が指した丘を目指して、2人で行軍しているところだ。
敵の砲撃は非常に正確で、このままでは数時間で全滅してしまうだろう。
「なぜ……、こうなる事がわかったのですか?」
坂本からすれば、最初から疑問符しかない。
その真意を聞こうとした彼は、あまりに呆気なく答えを得た。
「んー、昔から”危機察知能力”? がやたら鋭くってさ……、なんかこうなる予感がしたんだよ」
「危機察知……? それってただの勘っすか?」
「そうとも言えるかもな、悪い。根拠も無いのに指示しちまって」
「いえ……、結果的とはいえ小隊長殿の指示で助かりました。この砲撃精度、間違いなくあの丘から弾着観測をしています、けど……一体どうやって」
確かにスタート位置から逆算すれば、僅かに敵が早く到達できるだろう。
しかし、ほんの少し。タッチの差に他ならない。
無線によれば、先行した偵察が上から撃ち下ろされたという。
つまり、敵は――――
「多分だけど、16MCVにタンクデサントしたんじゃねえかな。徒歩だったら絶対20分で迫の設置までできない」
「た、タンクデサント!? そんなロシア軍みたいな…………ッ」
「でも実際効果的じゃね? LAVや高機動車じゃ行けない場所でも……戦車クラスの16なら踏破できる」
「ッ……!!」
勘だけじゃない。
この男は、最新の戦争情勢まで考慮して予想を立てている。
そして、おそらくそれはビンゴ。
信じられないが、敵部隊は16MCVに直接跨って山に登った。
公道を100キロで走れるあの車両なら、足で歩くこちらより当然早く展開できる。
「さぁ、目的地までもうすぐだぞ」
斜面を登り、林に身を潜める。
坂本と透が銃に付いたスコープを覗くと、そこには――――
「弾着確認、また1個小隊は持って行ったな」
「後方の特科が展開完了すれば、もうチェックメイトですね。まさか敵もここを開幕で取るとは予想できなかったでしょう」
「隠ぺいも完璧だ、けどあと4斉射したら後退するぞ。新人士官を教育するためとはいえ、敵も本気だからな」
予想通り、双眼鏡を持った自衛官。
その後ろでは、多数の迫撃砲が揃えられていた。
透の言った通り、この部隊が弾着観測と砲撃を行っているのだ。
「おー、やっぱいたなぁ」
「どうしますか隊長、今なら無防備です。僕と合わせて撃てば半数は持っていけます」
「気持ちはわかるけど、ちょっと待ってくれ。今撃ったら奥に隠れてるMINIMI機関銃に見つかってハチの巣だ」
「MINIMI?」
スコープで探すが、目立つような軽機関銃は見当たらない。
そんな坂本を尻目に、透は小声と共に指差す。
「10時方向の木の上、それから14時方向の林にドーラン塗った機関銃手が隠れてる」
言われた方向に銃を向けると、
「マジかよ…………ッ」
本当にいた。
迷彩服に肌はドーランを塗って徹底的に隠ぺいされているので、言われなければ気づかなかった。
これも……危機察知能力?
「じゃ、始めるか。坂本3曹、無線で位置を後方の迫に伝えるから貸してくれ」
透はすぐに撃たず、味方の砲撃部隊に位置を教えた。
待ちわびていたのだろう、支援砲撃はすぐに降ってきた。
――――ビーッ、ビーッ――――!!!
「なんだ!?」
「迫撃砲!? なんで位置がバレてる!!」
敵部隊の装着したバトラー装置が、隊員たちの死亡を判定。
修正射ではなく効力射だったので、これで一気に8割が壊滅。
あとは、
「よっ」
「……」
透と坂本が、2人で残党処理。
事前に位置が全て割れていたので、殆ど一方的な銃撃。
結果、なんと山上に陣取っていた2個小隊を、たった2人で殲滅してしまった。
「お疲れ、坂本3曹。一旦拠点に戻るか」
笑顔で手を差し出す透。
坂本は戦慄と同時に、驚愕でいっぱいだった。
優秀なんてレベルじゃない。
意味不明な特殊能力持ち、しかも単独プレイではなく部隊でしっかり連携。
最高効率で、最大の脅威を排除してしまった。
実践の恐ろしさを思い知らせるつもりが、逆に坂本の方が知らしめられた。
手の平を返すわけじゃない、しかし……さっきまでの自分の態度が、坂本は急に恥ずかしくなってしまった。
何と言おうか淀んだ時――――
「逃げるぞ!! 坂本3曹!!」
「ッ!!?」
透に引っ張られて、茂みに走りこむ。
直後に響くエンジン音。
雑木林を踏み躙って、巨大な車両が突っ込んできたのだ。
「砲撃部隊を攻撃した敵2名を確認! 掃討する!!」
”16式機動戦闘車”、および完全武装の1個小隊が駆けつけたのだ。
――――ダダダダダダッ――――!!!!!
茂みへ逃げた透と坂本へ、強烈な機銃掃射が行われた。




