第481話・坂本慎也は魅せられる
――――宮城県、王城寺原演習場。
ここは榴弾砲や対戦車ヘリの訓練も行う巨大な演習場で、今回は5日間に渡って対抗演習が行われる。
坂本慎也が所属する第1普通科連隊は、同師団内の他部隊と共同で挑む。
最近は中国やロシアといった近隣大国が暴走しているので、一層訓練に身が入った。
こんな世界情勢、日本に有利な異世界の何かが現れるような特別なイベントでも起きないかなと、あり得ないながら思うばかりだ。
「さっ、始めるか」
空砲を使ったバトラー演習なので、実践とほぼ同じ戦闘想定ができる。
心地良い山の広場で、3トン半トラックから降りた坂本は曹長と一緒に欠員がいないか確認。
次いで、武器の最終点検を行おうとして――――
「おぉー、これがバトラー演習か。初めてだから緊張するなー」
「…………」
身に着けた装具を見下ろして、慣れない雰囲気を隠さない透。
今回はこの男が小隊の指揮をするわけだが、ぶっちゃけ不安しかない。
以前の3尉が優秀だっただけに、坂本は全く期待していなかった。
「まっ、すぐに厳しさを思い知るか……。今回の演習はそういった新人士官をぶちのめす目的もあるわけだし」
当然だが、透も学校で指揮の授業は受けている。
しかし所詮は机上の空想。
実際に銃を取り、仮想とはいえ部下の命を預かる現場は違う。
最終ブリーフィングが終了し、坂本たちは前線のラインを押し上げる配置となった。
森林の中16MCVが走り抜けていく傍で、早速透に注目が集まる。
「どうしますか? 小隊長殿?」
坂本の問いに、透はまだ少し慣れない感じで返事をした。
「今回は偵察が主任務だから、向こうに見える山をラインに索敵を行おうと思う。CPとの定時連絡は欠かさずに、車両と連携して動く」
マニュアル通り。
やはり新人はこんなものだ。
想定される敵も、同じマニュアルで攻めてくると信じ切る経験の浅さ。
「了解」
そう返そうとした瞬間だった。
「って思ってたんだけど、今回は少し定石から外れようと思う。部隊を2人1組に分けて3個分隊を扇状に展開する」
「ッ!!?」
突然のアドリブ…………ッ!
しかも兵力分散、いくらなんでも無茶が過ぎる。
「小隊長殿、お言葉ですが……それは少々無謀かと。敵も索敵は最低1個分隊以上。それに今回はUAVの支援が無い状況想定です」
「そこだよ、坂本3曹」
「は……?」
透の顔は、真剣そのものだった。
「UAVが使えないからこそ、初手で迫が効力射をすることはまず無い。でも……もし敵に”目”があったら?」
「あり得ません、UAVが使えないのは敵も同じ。最初は小部隊同士の小競り合いから始まると思われますが?」
「普通はな。じゃあ坂本3曹――――あの山が見えるか?」
見れば、少し小高い丘が見えた。
森林で覆われているが――――
「まさか……、あそこで弾着観測を敵が行うと?」
「あぁ、このスタート位置なら敵が最速であそこを取れる。俺らはそれを逆手に取って、逆に相手へ迫撃砲をお見舞いしてやろうって算段かな」
「不可能ですよ、いくらスタート位置が近くても、こっちの偵察と会う前に陣取るなんて時間が無さすぎる。スタミナ切れの無いゲームの兵士じゃないんですよ!?」
頭に血が上ってきた坂本へ、隊で一番ベテランの曹長が肩を叩く。
「まぁまぁ坂本3曹、もし新海3尉の言うことが事実なら、定石通りだと俺らが先に死んでしまう。ここは1つ身を委ねてみないか?」
「ッ……!」
それでも納得できなそうな坂本へ、曹長は耳打ちした。
「今日はこういった新人士官を叩き潰す演習だ、一旦好きにやらせて後で後悔してもらおうじゃないか」
「まぁ……、そういうことなら」
確かにそうだ。
この自信だけのエアプも、この演習で現場の厳しさを思い知るだろう。
そう確信しながら状況が開始して20分後――――
『こちらリコン03! 敵の迫撃砲で先行した1個小隊が全滅した。位置および観測の手段は不明! 注意されたし!!』
『バカな! UAVの支援も無しにどうやってこの短時間に!?』
「…………ッ」
この日、坂本慎也は――――新海透という因果に愛されし男に魅せられる。
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