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第480話・坂本慎也の第一印象

 

「待って死ぬ!! タンマタンマタンマ!!! こっちは初心者なのよぉ!??」


 部屋に久里浜の甲高い声が響く。

 彼女が必死に見つめているのは、デスクに設置された31.5インチ4K有機ELモニター。

 ウルトラハイスペックPCから出力された映像では、1人称の兵士が死にかけの状態で映っていた。


「あ、S方向から来てんぞ。Nから詰めてくる1パーティーとどっちに殺されたい?」


「どっちも嫌よ!! わたしは特戦なの! こんなゲーマー風情に負けるわけにはいかないわ!!」


 威勢よく息巻く久里浜。

 っが、リアルとゲームでは求められる能力が違う。

 現実では近接最強自衛官の彼女も、このFPSゲームではただの初心者。


 画面の向こうでは、無慈悲にプレイアブルキャラが射殺されてしまった。


「あうー、これで5連敗……」


「千華ホントFPS下手だな、ホントに本職?」


「ぱ、パソコンのスペックが悪いのよ! 回線もちょっと良くないかしらね? ラグかったから仕方ない!!」


「RTX5090に9950X3D積んだ100万円PCで、その言い訳はキツくない? 回線も10ギガLANだよ」


「むぅー!!!」


 ヘッドフォンを外し、頬を膨らませる久里浜。

 そう、この2人は透と四条陸将の修羅場をよそ目に、イチャイチャ室内デートを楽しんでいた。

 別に無関心な訳ではない、むしろ駐屯地の誰より心配している。


 ただこれには、歴とした理由があった。


「ねぇ、新海隊長の援護に行かなくて良いわけ? 殺されるかもしんないのよ?」


 オフィスチェアのリクライニング機能で、180度背もたれを倒しながら呟く久里浜。

 しかし、坂本は彼女が外したヘッドフォンを手に取りながら――――


「隊長なら心配すんな、必ず正式なお付き合いに持ってく。相手が陸将とか関係ねーよ」


「それは直観? それとも楽観?」


「”信頼”だよ、俺は隊長が屈することは絶対無いと思ってる」


 久里浜の手の上からマウスを触り、装備選択画面を弄る。


「あの人は普段こそ温厚で、場合によっちゃひ弱に見えるかもだけど。この世界の誰よりも信念と勇気を貫く覚悟を持った男だよ」


「アンタと初めて会った時にも思ったけど、やたら新海隊長と仲良いわよね? わたしが煽ったら急にブチ切れたの覚えてる?」


「当然だろ、僕は世界で一番隊長を尊敬してんだよ。だから対決でお前がボコられた日の晩飯は超旨かったぞ」


「彼女に言うことじゃないー! さぞ最初から相性が良かったんでしょうね? なに? 性格が気に入ったわけ?」


 久里浜の問いに、坂本は即答した。


「いや、まったくだったけど?」


「へっ…………ッ?」


 思わず困惑する久里浜。


「そういえば言ってなかったけ、ちょうど良い……”アイツ“が来るまでの暇潰しに話すよ」


 彼女からすればさらに驚愕の一言が、坂本慎也の口から放たれた。


「だって僕、最初新海隊長のこと大嫌いだったし」


 ◇


 ――――1年半前、練馬駐屯地。


 陸上自衛官、坂本慎也は桜の木の下を歩いていた。

 年度初めの演習に備えて、忙しい時期。

 特に今日は、特別なイベントを控えていた。


「もう小隊再編の時期か……、だりーな」


 長い黒髪を掻く。

 陸上自衛隊では、当然だが人事異動が激しい。

 しばらくお世話になっていた小隊長が昇級し、本日から新しい隊長が着任するのだ。


「部屋戻ってゲームしてぇー」


 鈍い足取りで集合場所に向かうと、既に曹長を筆頭に陸士たちが集まっていた。

 その視線の先――――立っていたのは。


「今日から着任しました新海透3等陸尉です、幹候を卒業したばっかですが、頑張っていきます」


 見るからに年下の、いかにも慣れない感じの青年。

 坂本の曹としての経験が、即座に判断を下した。


 ――――……、あんま頼りねーな、こいつ。


 そんな第一印象。

 いかにも候補生学校上がりといった新人自衛官で、指揮など机上でしかできないだろう。

 無論、そんな新人士官を支えるためにベテランの曹がいる。


 しかし、坂本慎也は個人的にこの男がいけ好かなかった。

 順番に透が挨拶し、数時間後に小隊ミーティングと相成る。

 サッサと部屋に帰ろうとした坂本だが、背後から声が掛けられた。


「坂本3等陸曹だっけ……、PXの場所を忘れちゃって。良かったら一緒に行かないか?」


 少し照れたような顔をした透が、明るく誘ってくる。

 だが、坂本の回答は速かった。


「いや知らんすよ、1人で探せば良いじゃないっすか。小隊長殿?」


 嫌味たっぷりに言い放ち、その場を去る坂本。

 少しキツかったかとは思ったが、新人士官など甘えさせて碌なことが無い。

 万が一にも、あんなヘラヘラした3尉と仲良くするなどゴメンだった。


「気に入らねーヤツ……」


 ――――3日後、春の大演習が開始される。


 相手は北海道に拠点を置く連隊で、舞台は宮城県の王城寺原演習場(おうじょうじはらえんしゅうじょう)


 新海透の、初演習だった。


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― 新着の感想 ―
 更新お疲れ様です∠(`・ω・´)  そう言えば新海三等陸尉、部下の尽くが第一印象が〝頼りない〟から始まってましたね。  覇気のない普通の感じしかないから侮られてましたし、テオドールさんも例に漏れま…
口調はともかく、実際に自衛官やってる知人も似たような事を言ってたなぁ…。 一般企業で言えば、院卒の新人がいきなりPMとか係長になるようなもんだし、嫌味だけじゃなくイビリとかも発生しうるんだよなぁ。
坂本がアイツ呼ばわり、誰だ?本命はネットの向こうのゲーム仲間、対抗に聖園(実はゲーマーかもしれない)。大穴でまさかのアラン 仮にも上官にしていい口調なんだろうか。映画やフィクションでしか見たことねー…
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