第48話・2人目の少女
「おっと」
その場から飛び退いた錠前の迷彩服が、一部パックリと切り裂かれる。
ベルセリオンを悪夢の選択肢から救ったのは、屋上に突然現れたもう1人の少女だった。
「誰かね? 君は」
タバコを吸いながら問う錠前に、長い銀髪をストレートにした女の子は答える。
彼女が、灰皿寸前のベルセリオンを助け出したのだ。
「お初にお目に掛かります、1佐殿」
「ほう、ちゃんと階級がわかるのか? 驚いたな」
「少しばかり貴方がたについて勉強させていただきましたので、多少は……。まさか情報部周りがこんなに機能不全になっていたとは思いませんでしたが」
格好はベルセリオンの服装を、そのまま白色基調にしたような雰囲気だ。
目は金色で、身長も同じくらい。
ただ1つ違うのは、今足元で気絶しているベルセリオンと比べて圧倒的に隙が少ない。
さっきの攻撃も、錠前が気づかなければ胸をバックリ持っていかれただろう。
「その灰皿を助けに来たのかね? 悪いがガキは嫌いなんだ……少し乱暴させて貰ったよ」
「構いません、この人はわたしの“姉”ですが……まぁ見ての通り。我が主に甘やかされて育ったゆえ、今回は良い教育になったと思います」
すっかり動かなくなったベルセリオンを、ひょいと持ち上げる少女。
武器として使っていたハルバードは、いつの間にか消えていた。
3本目を吸っている錠前に、謎の子供はようやく自己紹介する。
「わたしはこの姉と同じ執行者––––、名を“テオドール”と言います」
「良い名前だね、テオドールくん。じゃあサッサとその慢心の塊ちゃんを連れて帰ってくれ」
「見逃す……っということですか? 不合理ですね、絶対に逃さないと思っていたのですが」
「ベルセリオンとかいうのはさておき、テオドールくん……君とまでやり合っていたらさすがに仕事に支障が出る。そもそも、そんな吐瀉物まみれのガキを僕は直接触りたくない」
テオドールが腕に抱く姉は、完膚なきまでに打ちのめされていた。
口端から垂れた血混じりの胃液が、彼女の腕にべったりと付着する。
「こんな性格でも身内ですので……。貴方も近いうちに、数十倍の残酷さでもって我が姉の受けた痛みをお返しします。覚悟の用意をしておいてください」
「姉想いなのは良いことだ。じゃあっ、1つ提案してあげるよ」
タバコを踏みつけた錠前は、夜空の下で不敵に笑う。
「サッサとダンジョンの制御権を寄越せ、そうすれば攻略は止まり……君たちの保有する資源は減らずに済む。結構良い提案だと思うんだけど?」
金眼を向けたテオドールは、気絶した姉を大切そうに抱きながら答える。
「我がダンジョンはこれまで数多の世界を制し、ここに至るまで繁栄しました。そちらこそ今すぐ降伏して、奪取したエリアを返してください」
「なるほど、引くつもりは無い……と」
「当たり前です、言っておきますがラビリンス・タワー最終層は攻略不可能です。これ以上ダンジョンの財宝を流出させれば、我らがマスターがお怒りになりますから」
交渉は決裂……。
錠前は平和的解決手段が消えたことを確認すると、素早く腰の拳銃を抜いた。
「そうか、じゃあ死んでくれるかい?」
「ッ!!?」
錠前に逃すつもりなど全く無かった。
戦闘に持ち込ませず、一方的に殺すため承諾するはずもない提案をしたのである。
––––ダダダンッ––––!!
拳銃弾が数発放たれる。
防御魔法は間に合わない。
執行者としての意地か、テオドールは寸前で身体を動かし、姉と急所への命中を避けた。
だが代償として、脇腹に1発食らってしまう。
「くっ……!!」
噴き出る血飛沫。
錠前の照準と、テオドールが詠唱するのは同時だった。
「『相転移次元跳躍』ッ!」
空間が歪み、2人の姿が一瞬で消え去る。
9ミリ弾は虚空を撃ち抜き、コンクリートを跳弾した。
銃を下ろした直後、警備の自衛官らが屋上へ押しかけて来る。
「なんだこれは!?」
「おい、屋上がボロボロじゃないか! 錠前1佐、ご無事ですか!?」
頷いた錠前は、拳銃をしまいながら呟く。
「門番を責めるのはやめてやってくれよ。それと、始末書は僕に回すよう言っといてくれ」
屋上から退出した錠前1佐は、階段を降りながら呟く。
「そうだ––––“良いこと“を思いついた、新海はまだ起きてるだろうから……忘れない内に頼んでおこう」
悪魔は頭にアイデアを灯す。
後にこの案が、自衛隊のダンジョン攻略を左右することになるのは––––まだ誰も知らない。
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