第478話・新海VS四条陸将
――――終わった。
どうやら、自分の人生はここまでらしいと透は悟る。
どこの馬の骨とも知れぬ男が、いきなり愛娘と初体験を済ませたなど……父親の陸将が聞いて無事で済むはずがない。
しかし、新海透はこの状況でも嘘をつくことを拒んだ。
もしそれをしてしまえば、最愛の彼女への完全な否定になってしまう。
それは、それだけはしてはならない。
四条陸将にも、そんな舐めた真似は出来なかった。
「……どうやら、一端の男気は持っていたらしいな」
顔を上げた四条陸将の額には、血管が浮かんでいた。
だが透は決して顔を逸らさない。
1ミリたりとも、眼前の男から目は離さなかった。
「では聞こう、新海3尉。なぜ衿華を選んだ? お前ほどの男であれば……何もわざわざ選択肢を絞らずとも良かったんじゃないか?」
「逆に選択肢を広げる理由なんて全くありません、俺は衿華を……。四条衿華という世界で一番素敵な女性に惚れたんです」
「ほぉ。理由が無いなら、なおさら他の女でも良かったんじゃないか? 言っとくが、アイツの性格はあまり万人受けしないぞ?」
透の脳みそは、人生で最も速く回転していた。
これは自分への問い、自分だけの戦いだ。
錠前1佐も執行者も、坂本や久里浜の援護も無い。
なればこそ、男として――――一歩も引くわけにはいかなかった。
「……俺は衿華のことを誰より知っているつもりです。確かに彼女は他人に冷たい一面があります、でもそれよりもずっと熱い仲間への想いと熱を持ってるんです」
「お前がそれを知っていると?」
「確信を以て断言できます。俺も最初は冷たくあしらわれた人間の1人でした、正直当時は性格悪いなこいつとか思ってました」
四条陸将は反論せず、透の言葉の続きを待った。
一方の透は、もう今にもえづきそうなほどに過呼吸で、心臓は破裂しそうな感覚に陥っている。
しかし決して言葉を途切れさせずに口を開けた。
「最初の配信でボスと戦ったときに、お互い命知らずな行動をして助け合いました。ボス倒した後に座り込んだ俺は……その時もう立てないと思ったんです。けど――――」
――――『貴方は最高の護衛です、新海透3尉』――――
「彼女が差し出してくれた温かい手が、俺をその場から立たせてくれたんです……! その時から俺はもう彼女に――――四条衿華という陸将のご令嬢に惚れていたんですッ」
「…………」
後悔なんて残すな!
全部吐き出せ、全部ぶつけろ!
新海透は今にも嘔吐しそうな緊張感を、最愛の彼女と一緒にいたいという一心のみで押し潰す。
この眼前の陸将に、アンタの娘がいかに可愛くて素晴らしいかを説くために!!
自分がどれだけ愛しているかを伝えるために!!!
「四条衿華さんは俺の人生で一番誇れる女性です!! ほかの誰でもない、命の助け合いをした俺だから、俺だけが理解できる! 彼女は優しくて強くて気配り上手で笑顔が可愛くて、他の人なんて考えられない! 貴方が思う以上に――――俺は衿華さんを愛しています!!」
透の魂を込めた叫びは、部屋中にこだました。
その気迫で言えば、開幕の四条陸将にも全く負けていない。
1人の青年の”本気”を聞いた陸将は、最後の質問を投げかける。
「君は……、衿華を幸せにできると断言できるか?」
問い自体は非常に簡素なもの。
「はい」
そう答えることは実に簡単だった。
簡単だったがゆえに、透は決死の覚悟で返す。
「必ず幸せにする……。なんて軽はずみな断言はできません、ですが衿華には――――俺の残りの人生全部使ってでも、俺と一緒にいて良かったと思える人生を歩んで欲しい! それが俺の答えです!」
伝えるべきは全て伝えた!
もう蛇が出るか鬼が出るかなんて知ったことではない。
例え許しが出なければ、駆け落ちすらいとわないと決めていた。
まぶたを閉じた四条陸将が、答えを出そうとした時――――
――――バァンッ――――!!!!
部屋の扉が叩き開けれられ、1人の可憐な女性が押し入った。
「はぁっ……! ゼェッ。間に合った……!」
全身を汗でぐっしょりと濡らした、四条衿華が激しく息を切らす。
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