第477話・襲来、四条陸将
陸上自衛隊ユグドラシル駐屯地は、混乱のただ中にあった。
原因は主に2つ。
まず1つ目は――――
「なんだと!? 第4エリアはただの無人島!? 制御装置自体は存在しないだと!?」
先日第1特務小隊が攻略した島こと第4エリアは、確かにクリアボーナスがあった。
既に出現していた石油やレアアースといった希少資源が、およそ数倍に増えたのだ。
これにより、日本は全世界に輸出しても向こう300年以上困らない埋蔵量を獲得できた。
その流れで、第5エリアへの入り口も当然あると踏んでいた。
だが、
「偵察隊と執行者エクシリアさんの報告によれば、あくまで次元エンジンと呼ばれる装置の補助基盤……それも外付けの、言うならば殆ど意味が無い物だったと」
衝撃的な事実だった。
ここで第5エリア、引いてはダンジョンの制御室がわからないとなると、日本にとって大きな問題になる。
「新生国連の最初の決議……、それがダンジョン関連の議題になるのはほぼ確定だ。そこでまだ我々がイニシアティブを握れていないとなれば、ダンジョンの管理をいよいよ国連に移すことになるぞ」
――――”新生国連”。
中国とロシアが崩壊したことを受け、既存の国際連合もなし崩し的に形骸化した。
そこで、日米欧主導による新たな国際機構が設立された。
常任理事国はアメリカ、日本、イギリス、フランス、インドの5か国。
現在の主な活動内容は旧ロシア領の核管理と、旧中国軍による武力攻撃の抑止。
そこへ、来週にはダンジョンに関する重大な決定がされる。
旧国連であれば拒否権を行使できたが、新生国連ではそういった過去の特権を廃止。
もしダンジョンの管理を国際連合に移す決定がされれば、日本単独での反対は無意味。
外務省が必死に工作やロビー活動を行っているが、欧米やグローバルサウスの国々は未だダンジョンが完全攻略されていないことに不安を抱いている。
もし決定がされれば、東京に外国軍の駐留を許すことになりかねない。
第5エリア侵攻によってこの事態を阻止するつもりだった日本は、まさしく窮地に立たされたと言えよう。
そして、もう1つは――――
「敬礼!!!」
戦闘団本部の前に、1台のLAVが停まった。
幹部自衛官たちが整列する中、LAVからは1人の男が出てくる。
「出迎えありがとう、忙しい中悪かったね」
陸上総隊司令官――――四条陸将。
言わずもがな、第1特務小隊所属の四条衿華2曹の父親。
そして、陸上自衛隊内でも”鬼”として知られる最恐の自衛官。
彼がダンジョンを訪れた理由はただ1つ。
「新海透3尉はいるかな? 駐屯地司令官」
「あ……、はい。部屋でお待ちください、すぐに呼んできます」
萎縮するユグドラシル駐屯地司令官。
全員の思考は、完璧に統一されていた。
――――成仏しろよ、新海……――――
一方の当事者たる透は、駐屯地司令の後ろを全身冷や汗ビショビショで歩いていた。
こうなることはわかっていたつもりだった、覚悟もしていた。
しかし、いざ向こうから乗り込んできたとなると話が違う。
相手はあの錠前1佐を育てたというらしい、最恐の自衛官。
おそらく、今までで一番タフな戦いになるだろう。
「俺が行けるのはここまでだ、新海3尉……弔いはしてやるからな」
この世の終わりみたいな顔をする駐屯地司令に会釈して、透は腹に力を込めて部屋の扉をノック。
「新海3尉……、入ります」
「入れ」
扉を開ける。
瞬間――――
――――バリィッッッ――――!!!!!!!
「ッ!!!!!」
部屋の中央から、今まで感じたことのない覇気が襲ってきた。
汗と動悸が止まらない、その圧倒的な威圧の中心にいる人物こそ…………。
「初めましてだな、新海3尉」
お茶の入ったコップを置きながら、静かに挨拶する四条陸将。
この方が――――
「まぁ掛けたまえ、立ったままでは落ち着かんだろう」
錠前1佐、秋山さん、真島さんの恩師…………!!
そして、衿華のお父さん!
「はい」
座っても落ち着かねぇ…………。
そんな気持ちで、透はひとまず対面に着席した。
「…………なるほど、あの錠前が認めたというのもあながち嘘ではないらしいな」
錠前1佐を呼び捨て。
こんなことが出来る時点で、透からすれば大天使ガブリエルよりも遥か格上。
「話が長くなってもいけない。単刀直入に聞こう、衿華と付き合ってるというのは本当か?」
唾を飲み込む。
答えによっては、10秒後……自分はミンチになっているかもしれない。
背中を汗で濡らしながら、透はゆっり頷く。
「は、はい……。配信で言った通り…………お付き合いさせていただいています」
「それはアレかな? 手を繋いだとかそういう話かな?」
陸将の黒目が、透を睨む。
おそらく嘘は通じない。
漢――――新海透は、正直に現在の状況を伝えた。
「初体験も、済ませました」
部屋の壁と家具が、放たれた覇気で一気にヒビ割れる。




