第482話・秋山お姉さんのご褒美タイム!
テオドールが体型を取り戻すために爆食を繰り広げている頃、別の場所でも執行者は労いを受けていた。
――――秋山美容室・休憩室内。
「っというわけで、2人には今回わたしから”ピザ”を作ってあげたいと思いまーす!」
陽気な声でそう言ったのは、秋山美咲。
錠前勉の同期にして、刃物を扱わせれば右に出る者はいない手練れ(錠前を除く)。
彼女の前には、執行者ベルセリオンと、同じくエクシリアが立っていた。
「ピザってなに? 秋山」
疑問符だらけの可愛い顔で、ベルセリオンが聞く。
待ってましたと言わんばかりに、秋山はテーブルに並べられた生地を差した。
そこには、5枚ほどのXLサイズに分けられたピザ生地が並べられている。
種類ごとにトッピングが違っており、全て秋山が一から作った。
だが、まだ焼いてない状態では2人にとって食べ物には見えないらしく。
「面白い形だけど、これ食べられるのかしらぁ? パンとも全然違うみたいし」
「おやおやエクシリアさん、甘いですなぁ」
チッチッチと指を振った秋山が、次に指差したのは――――
「もちろん! ”アレ”で焼くんですよ!!」
ハイテンションで紹介したのは、業務用オーブン。
ピザ屋で導入されているような、かなり本格的なもの。
目を輝かせるベルセリオンとは別に、エクシリアが目を細める。
「……なんでこんな化け物みたいな機械が、美容室にあるのかしらぁ?」
「今日は貴方たち執行者を労うように、錠前くんから頼まれてるからねー。まぁ、当のそいつは音信不通なんだけど」
「いや、それは知ってるんだけど……。こんな物を買うお金はどこから湧いたわけ?」
ごもっともな疑問に、秋山は即答した。
「えっ、錠前くんのポケットマネーから払ったに決まってるじゃん?」
「「…………」」
「この美容室は民間だから税金使えないのよ、だからアイツに買ってもらったわけ。趣味のタバコは3か月我慢してもらうことにはなったけど」
古今東西、錠前勉にこのような対応ができるのは、彼女と真島……恩師の四条陸将以外にいないだろう。
「南無……」と両手を合わせた執行者2人に、秋山は続けた。
「じゃあ早速この生地を焼いてこー!!」
「「おっ、おー?」」
専用の道具を使って、オーブンに入れていく。
マニュアルを見ながら操作を行うと、中で明かりが点いた。
最新式の業務用電気オーブンなので、一度に3枚焼ける特別仕様。
錠前勉の財布と引き換えに手に入れた、最強の窯だ。
「しばらく待ちまーす」
既定の時間まで待つと、音を立てて完了の報せが鳴らされる。
順に中から取り出した瞬間、それは襲い掛かった。
「んぅッ!?」
「はうっ!?」
焼き上がったピザからは、非常に香ばしい香りが放たれていた。
ウィンナーやサラミを始めとした肉、野菜も程よく焦がされており、生地は色合いが段違いに変貌している。
これは食べ物だ、それもおそらく美味しい物。
執行者2人は、もうこの時点で涎を垂らしていた。
次いで残り2枚を焼き上げ、熱々のピザ5枚がテーブルの上に並べられた。
順に、
・ディアボラ(サラミ、チキン、唐辛子でトッピングしたトマトベースのピザ)。
・サルモーネ(スモークサーモンやモッツァレラチーズをメインとした、ルッコラを添えたピザ)。
・バンビーノ(チーズとコーンが主役の、子供が大好きなピザ)。
・マルゲリータ(チーズとバジルを中心とした、トマトベースの超王道)。
・シカゴピザ(肉のミンチとチーズをたっぷり使った、超ボリューミーなアメリカンピザ)。
秋山はピザカッターを手に取ると、一瞬だけピザの上で手を動かした。
――――サクッ――――
神懸かった刃物捌きで、5枚のピザがあっという間にカットされた。
「さぁ! 召し上がれー」
執行者2人は、もう理性が飛ぶ寸前だった。
今までジャンキーな物は食べたが、ジャンルが全く違う。
各々が気になるピザを取ると、一思いにかぶりついた。
「んぐっ!?」
「はうっ!!」
襲って来たのは、熟成されたトマトソースとチーズの風味。
それらにインパクトを加える各種具材。
サラミの旨味が舌の上で踊り、モチモチの生地が噛むたびに快楽を発生させる。
まさに美食の暴力。
振るわれた圧倒的な力の前に、世界で唯一特別な女の子たちは――――
「ふえぇ……っ」
「はえぇ…………!?」
揃って無様な鳴き声を出させられる。
「なっ、なによこれ! こんなに美味しい料理があったなんて…………! 上に乗ってるチーズや鳥さんも凄く調和してるわ!」
エメラルドグリーンの碧眼を見開き、驚愕の表情を見せるエクシリア。
一方のベルセリオンは。
「ふぇー! ふぇー!!」
あまりの旨味に、脳の言語野が2歳児レベルまで低下。
完全に語彙を失っていた。
もうこうなったら止まる道理など無い。
2人の執行者は、夢中でピザを食べ進めた。
かなりボリューミーな内容だったが、あっという間に完食。
「ふぅ……、完食しちゃったわぁ…………」
「ふぇー」
大皿が揃って空になる。
これで終わりかと思った時、秋山はニッと笑った。
「ふっふっふ、お2人さん。まさかこれで終わりと思っていましたかね?」
「「ッ!?」」
不敵に笑った秋山が冷蔵庫から出したのは、
「まだデザートが残ってるわよ?」




