第47話・元特殊作戦群 錠前1佐VSベルセリオン
「新海隊長、あの謎だらけな上官。錠前1佐のことですけど……どう思ってるんです?」
明かりがついた室内で、始末書を片付けながら坂本が呟く。
2人の傍には、500ミリリットルのエナジードリンク缶があちこち転がっており、いかに過酷な1日を送って来たかが伺えた。
「どうっつってもなぁ……、俺もあの人のことよく知ってるわけじゃないし」
「でも報告へ行くのはいつも隊長じゃないですか、錠前1佐……。この前会った特戦の隊員とどうも同じ雰囲気がするんですよね……」
「俺も直感で間違いなく特戦出身だとは思ってるよ、噂じゃ……前に1回陸自の名簿から名前が消えたらしい。辞めたわけでもないのに」
「うっわ、ガチじゃないですか……。じゃああの生意気な久里浜の先輩ってことになるんですかね?」
「そうなるだろうけど……」
「けど?」
ボールペンを回した新海は、なんとなく呟く。
「多分あの人、同じ特戦でも久里浜の10倍は強いぞ」
直後、部屋が大きく揺れた。
地震かと思ったが、屋上から爆発音が聞こえてくる。
衝撃の方向は上からだった。
「なんでしょう、敵襲ですかね?」
立ち上がり、出口へ向かおうとした坂本を新海が止めた。
「多分だけど大丈夫だ、こんな夜中に騒ぐやつは––––今頃わからせられてる」
「ん? わからせ?」
「坂本、さっき錠前1佐がどんな人か聞いたな?」
「えっ、はい……」
困惑する坂本に、透は私見を述べた。
「俺がチームの連携や、持ち前の直感で相手の絶対優位に立つ人間なら……」
2回目の爆発音の後、新海はゆっくり呟いた。
「あの人は––––おそらく“ソロ最強”って言葉が一番似合うかもな」
◆
「がっはっ!!?」
凄まじい威力の掌底が、ベルセリオンを宙に浮き上がらせた。
脳を直接揺らされた彼女へ、錠前1佐は頬を吊り上げる。
「そらそらァッ!!」
無防備に晒された身体へ、苛烈極まる掌底突きの乱打が打ち込まれる。
彼女からすれば信じられない話だった。
魔力も信仰も無い日本人が、ここまで威力のある攻撃を放つなど想定していない。
なすすべも無く、完全にサンドバッグ状態だった。
「よっ」
錠前は攻撃の仕上げに、底へ鉄板が入った半長靴による蹴りを、腹部へめり込ませる。
「ゲホッ!?」
骨が軋み、
内臓が大きく形を歪まされた。
胃液混じりの唾液を吐き出したベルセリオンは、そのまま反対側の柵まで吹っ飛ぶ。
背中から叩きつけられ、鉄製の柵が大きくひしゃげた。
「僕を殺しに来たんだろう? 冥土の土産話でもしてよ。そのダンジョンマスターとかいうの興味あるからさ、できればもっと喋って欲しいなー……なんて」
微笑む悪魔。
無論、ベルセリオンもやられるばかりでは無い。
口元を拭い、大きくジャンプした。
「蛮族が……! 調子に乗るな!!」
勢いのまま床にハルバードが突き刺さる。
だが、錠前は迷彩服のポケットに手を入れながら丁寧にかわして見せた。
「そもそもベルセリオンくん、君は大きな間違いを犯している。我が国へ喧嘩を売った時点で詰んでいるんだよ」
「はっ! 笑わせる!! 信仰力が無い最弱民族がなんだってのよ!!」
次々振られるハルバードの猛攻を、錠前は最低限の動きだけで避けて見せた。
ファンタジーの戦闘力を、経験値だけで完全に圧倒している。
「なるほどなるほど、つまり神への信仰=戦闘力というのが、君たちの世界での常識というわけか。じゃあ確かに日本人への対応を誤るわけだな」
空気が揺らぐ。
錠前の放ったカウンターはまさに異次元だった。
無闇に乱打するベルセリオンと違い、ほんのナノ秒単位に過ぎない僅かな隙を突いてふところへ入り込んだ。
まるで、孤独な忍者のように……。
「はい、おしまい⭐︎」
空気を切り裂く掌底が、ベルセリオンのみぞおちへ炸裂した。
最大限の力を、最も弱い部位に、一番脱力した瞬間を狙ってピンポイントで叩きつけたのだ。
「ゲポッ…………!!」
鼻血が噴き出る。
床へ転がったベルセリオンは、思わずハルバードを手放して激しく嘔吐した。
呼吸困難に悶え苦しんでいたところへ、頭を思い切り踏み付けられる。
「あグッ……」
錠前はタバコに火をつけ、紫煙を吐き出した。
「選んで良いよ、このまま無様に僕の灰皿になって死ぬか……それとも洗いざらい喋るか」
焼けた灰が落下する。
ゆっくりと落ちて行く刹那の間に、選択は動いた。
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